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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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あ~~~……。効く~~~……

 胸のボタンを大胆にぷちぷち開けながら、手うちわで自分をあおぐ榊(さかき)さん。


「あっぢぃ~~。もう五月なのにあっちぃな。今からこんなんで夏はどうすんだよ。……ってなツイートがそろそろバズる時期になってきたな」


 久方ぶりに会った榊さんは、見た目も中身も以前と全く変わっていなかった。


 ただ違うのは、服装だけ。


 どうしてあの榊さんがリクルートスーツなんかを着ているのだろう。この世で一番縁のない人なのではなかったのか?

 まあそんな失礼な小ボケは置いておくとしよう。


 ……。

 榊さんがスーツを着ているってことは、正社員として働くってことだよな……?


 芸人になる夢はどうするのだろう? メイド喫茶の仕事は?


 榊さんがリクルートスーツを着ているという衝撃で、突然の彼女の登場に対する驚きとか、久方ぶりに彼女と会うことのできた喜びとか、全部すっ飛んでしまった。


 まあでもとりあえず、ツッコミ役の責務だけは果たしておこうか。

「いや、スーツも似合うんかい」

 ツッコミではなく感想になってしまった。

 だって似合ってるんだもん。


 サイズぴったりの濃紺のスーツは、スラっとした榊さんの肢体(したい)を最大限にまで輝かせている。そして、暑いからと大胆に開けられた胸元のボタンが僕を惑わす。


 榊さんのスーツ姿……なんか、激詰め性格つよつよ女上司みたいでいいな。うん、なに言ってんの、僕。


「スーツなんて誰でも似合うだろ」

「いや、そうでもないですよ。大学の入学式の時に着ましたけど、僕なんて、完全にスーツに着られてましたから」

「ふは。想像つくわ」

 なんて、僕らはいつものように中身のない会話を交わす。こうしていると、何週間かぶりに会ったとは到底思えないな。


「その……。色々訊きたいことがあるんですけど。どうして急にいなくなったのかとか、どこでなにしてたのかとか、どうしてスーツ着てるのかとか」

「あ~。ま、その辺は中で話すわ。んで、急にいなくなったことは先に謝っとく」


 榊さんは真顔のまま片手をすっと顔の前にあげた。

 そして。

「めんそーりーめんそーりー」

「雑っ!?」


「はは。ジョーダン。……急にいなくなって、悪かったな」

 小さく頭を下げてから、榊さんは僕の頭に優しく自分の手を置いた。


「中、入ろーぜ。話したいことがいっぱいある」

「……はい」

 頭部に彼女の手の温かみを感じながら、僕は久しぶりに榊さんとともに僕たちの家へと入ったのであった。


   〇


「あ~~~……。効く~~~……」

「……」


 部屋に入ってそうそう、榊さんは換気扇の下で缶ビールを開け、煙草を吸い始めてしまった。あまりにもいつも通りの光景に、僕は笑うしかない。


 現在、榊さんはジャケットを脱いで上はシャツだけの状態だ。この状態で飲酒と喫煙をされると、退勤後にストレスを発散するOL味(み)があって、いいな……。


「お前も変わんねーのな」

「? ……はっ!? いつの間に!?」

 知らず知らずのうちにスマホを構えて榊さんを撮っていた僕を見て、彼女は苦笑する。


「じゃあ、今からお前の疑問に答えてくわ」

 そうして、榊さんは一本目の煙草を灰皿に潰す。


「ここ最近な、あたし、実家帰ってたんだよ」

「実家、ですか。都内でしたっけ?」

「そ」

「えっと、その……身内になにかあったとか、ですか?」

 思わず僕の体に嫌な力が入るが。


「いんや? 全然?」

 そんな僕とは対照的に、榊さんの表情は緩やかだ。


「なにをしに……って。その恰好を見れば大体予想はつきますが」

「そ。シューカツってやつ」

「就活……」

 この世でもっとも榊さんに似合わない言葉だな。

「おい。誰が就活が似合わない女だよ」

「心読まないでください」

 この謎の能力も健在である。


「別にここにいてもできたんだが……。なんとなくお前に見られんの恥ずかしかったんだよ。就活ってさ、結構恥ずかしい行為だろ?」

「どこがだよ」

 そんなこと思ってるの榊さんだけだろ。


「ああ……。僕に就活しているのがバレたくなくて、実家に戻って就活してたんですね」

「そゆこと。ま、バレたくなかったのはお前だけじゃねぇけど」

 だから、誰にもなにも言わずにシレっと姿を消したのか。……いや、自由すぎるだろ、この生き物。


「でも、どうして急に就活なんて……。今まではそんな素振り全く見せてなかったじゃないですか」

「まあ、それは……。色々、あって……」


 榊さんは、なにかをごにょごにょ言った後、二本目の煙草を一気に吸ってしまった。そして、その直後に缶ビールを喉に流し込む。


「──前が」

「へ?」


 キッチンの上に、空になった缶ビールが力強く置かれる。榊さんの指の力を受け、ぐしゃりと内に潰れてしまった。


「お前が、急に言うから……」


 榊さんは頬に熱を乗せ、目をグルグルとさ迷わせながら僕をびしりと指さす。


 そして、アパート内では絶対に出してはいけない声量でこう叫ぶのであった。


「お前が、急に結婚とか口走るからだろォがーーーーーッ!!」

「キレたーーッ!?」


 ──っていうか、僕のせい!?


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