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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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綺麗……

 週をまたいだ次の日曜日。僕と榊(さかき)さんは、とある場所に向かっていた。


 僕らがどこへ出かけたかというと。


 ──なんと、僕の実家である。


 僕と榊さん、それから、僕の両親と妹の直近での予定が合う日がたまたま今日だけだったのだ。


 僕の実家は、関西の隅(すみ)の方の田舎に存在する。東京から新幹線でニ時間ほど揺られ、そこから電車やらバスやらを乗り継いだり歩いたり、なんやかんやする必要がある。


 結局、僕たちが住む東京のボロアパートから僕の実家にいくまで三時間強かかってしまった。


「ほへぇ。ここが公太郎ン家(ち)か」

 夕時(ゆうどき)。閑静な住宅街。風に騒めく木々とともに、名も知らぬ鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 連なる建物群の中の一つ。こじんまりとした二階建ての家屋が僕の実家である。


 見慣れた街並みと見慣れた家の前に今、僕は榊さんと一緒に立っている。なんだか、心の僕しか知らない部分を他人にくすぐられたかのような恥ずかしさがこみあげてきてしまう。

 ちなみに、榊さんは今日はメイド服姿ではなく、僕が買った服を着てくれている。その顔に緊張感は一切なく、僕はそんな彼女の豪胆な部分が好きなのだと改めて実感する。

 謎の緊張感により絶えず汗をかき続けている僕とは大違いだ。


 家族には、正直に「現在お付き合いしている人と会ってほしい」と事前に伝えている。三人の反応は全員、茶化すようなものではなく祝福するようなものであった。


「そ、それじゃ、いっ、いきますよ」

「おん」


 震える手でインターホンを押す。

 間の抜けた音が辺りに響き、やがて、家の中からどたどたと更に間の向けた音が聞こえてきた。


 数秒後、恐る恐るといった風に玄関が重々しく開かれた。

 そこから顔を覗かせたのは、僕の父と母と妹。


 三人は僕を一瞥してから、榊(さかき)さんの方を見てぎょっとしたような表情を浮かべる。


 そして、僕の家族たちはあまりにも想像通りの言葉でハモるのだった。


「「「綺麗……」」」


 僕と榊さんは、思わず二人で顔を見合わせ、にへらと笑ってしまった。


 たぶん僕たちは今、同じようなことを思っている。

 ああ、僕の家族だなぁ、って。


   〇


 見慣れた顔。

 見慣れた居間。

 見慣れたダイニングテーブル。

 見慣れたお母さんの夕食。


 それを、家族で囲んでいる。榊さんも含めて。変な心地。


 僕たち有馬(ありま)家の人間は、全員が全員異様にそわそわとしていた。

 有馬家の人間は、全員、人見知り気質(きしつ)なのである。


 そんな中、一番アウェーのはずの榊さんはケロリとした顔で来賓(らいひん)用の椅子に堂々と座っている。この人、やっぱ肝座ってるよな。


「どうも。榊夜白(さかきやしろ)です。公太郎さ……公太郎く……。公太郎とお付き合いさせてもらってます。そして、今は一緒に住んでます」

 それなりに長い沈黙を破ったのは、榊さんであった。


 現在、榊さんと一緒に住んでいることはそれとなく伝えていたため、家族からの驚きの声はなかった。


「わ、私は公太郎の父です」

「うぃっす」

 黒縁眼鏡の父が緊張面のまま頭を下げ、榊さんも軽く会釈する。


「母です」

「うぃす」

 丸顔の母がぎこちない笑みを浮かべ、榊さんも軽く頬を緩める。


「妹の、有馬節那(ありませつな)です」

「っス」

 節那(せつな)が榊さんの顔をじっと見つめながら言い、榊さんも妹の顔をじっと見つめる。節那は頬を染めながら。

「こ、こんな美人がお兄ちゃんと……!?」

 し、失礼な。まあ、事実でしかないんだけれど。


 僕の正面に座る節那は、ぐいっと首を伸ばして僕に耳打ちしてくる。

「お、お兄ちゃんっ。なんか、そういう詐欺とかじゃないの? ほら、びじんきょくとかなんとか言うじゃん」

 つ、美人局(つつもたせ)のことか?


「いや、そんなんじゃ──」

 と言おうとして、そう断言できない自分がいることに気が付いた。

 はたから見ても僕から見ても、僕と榊さんは釣り合ってないだろう。


 見た目は言わずもがな、中身だって、僕は榊さんの面白さには敵わない。

 榊さんは僕のことを好きだと言ってくれたが、果たして彼女は本当にそう思っているのだろうか。


 ……いや、なにを弱気になっているんだ。それに、榊さんに失礼すぎるぞ。


 榊さんが、自分の言葉で僕を好きと言ってくれたんだ。

 それを、僕が信じないでどうするんだ。


 妹の言葉が聞こえていたのか、僕の感情を読み取ったのかはわからないが、榊さんは僕の肩にぽんと手を置き、朗(ほが)らかに笑ってみせるのだった。


「妹ちゃん。あたしが公太郎の隣にいるのは、純粋な好意十割だから心配しなくていいよ。君の大切なお兄ちゃん、誰よりも大切にするし、してるから」

「あ、は、はい……っ!」

 節那にかけられた榊さんの口調は、彼女にしてはかなり珍しい、丁寧なものであった。


「お、お兄ちゃんも……さ、榊さんのこと、ちゃんと好き、なんだよね……?」

 震えるような節那の声。妹がなにを確認したいのかはわからないが、僕の答えは決まっている。


「うん」


 小さく頷き。

 そして。


 ……深く考えることなく、こんな言葉が僕の口から飛び出したのだった。


「──結婚したいくらいには」


 ……。

 いや、なに言ってるんだ僕!? 心の声がまろび出てしまった!?


「「「……」」」

 家族三人の沈黙が重なり。


 それから。


「──う、ェっ!?」


 冷静の仮面が外れ、今までに見たことのないほどの鮮烈な赤を頬に宿した榊さんの叫声(きょうせい)が居間を揺らした。


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