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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
三章 酔メイドと僕の変化

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じじぃとばばぁの神様、ジジバエル

 伊達眼鏡がどこに売っているのか僕はよく知らないのだが、とりあえずあてもなく榊《さかき》さんと二人で歩いた。


 夜の錦糸町(きんしちょう)は、疲れた大人と浮かれた若者が入り乱れている。


「伊達眼鏡を買いに夜に買い物にいくって、なんだか文学的ですね」

「そうだな。いや、どこがだよ」

 ノリとツッコミの間(ま)が一秒もない貴重なノリツッコミだった。たぶん、なにも考えずに適当に返事をしたのだろう。まあ、僕も適当に話しているから、おあいこだ。


「伊達眼鏡ってどこに売ってるんですかね」

「お前、知らないのによく一人で家飛び出そうとしたな」

「榊さんは知ってます?」

「知らねぇ」

 知らないのかよ。


「服屋とか古着屋とかか? あとは、百均(ひゃっきん)とか三百均(さんびゃっきん)とかにもあるかもな」

「服屋……」

 そんなことを口走りながら、僕は榊さんのメイド服に視線を落とす。


「なんだ? お前くらいになるとメイド服単体にも興奮できんのか?」

「できますが、そうじゃなく」

「できるのかよ」


「いや、今度一緒に博物館いこうって話、前したじゃないですか。そのときには、榊さん、普通の服着ていこうかなって言ってましたよね?」

「あー、んなことも言ったなぁ」

「伊達眼鏡のついでに、榊さんの新しい服とかも見ていきませんか?」

「えぇ~~?」

「うわ、露骨に嫌そう! そんなに普通の服着るの嫌ですか?」

「嫌というか、めんどいというか。金もかかるしさ」

「そう、ですか……」

「うわ、露骨に残念そうだな」


 肩を落とす僕を見て、榊さんは大儀そうに息を吐く。


「……ま、一着くらいは持っててもいいとは思うけどよ」

「それは本当です!?」

「うおっ! うるせ!」

 榊さんは、急に顔を近づけた僕をしっしっと追い払う動作をする。


「一着は買うつもりだったしな。あたしが選ぶのも面倒だし、お前の好きな恰好してやるけど?」

「め、女神!?」

「ずっとテンション高(たけ)ぇ~~……」

 ハイな僕に対して、榊さんはいつものローである。


「ぼ、僕の好きな恰好を榊さんが……? でも、それってメイド服になっちゃうな……。いや、榊さんのメイド服以外の服ほとんど見たことないから、メイド服以上の無限の可能性がある、のか……? いや、榊さんにメイド服以上に似合う服があるか? 否、ない!」

「あー、はいはい。キモイっスねー」


   〇


 とりあえず、適当に歩いていて一番初めに目に留まった百均に入ることにした。


 広い店内に、日用品から雑貨、食品まで、ありとあらゆるものが綺麗に陳列されている。

 百均って、どうしてこんなに気分が高揚するのであろうか。


「榊さんって、百均好きそうですよね」

「新手の誹謗中傷か?」

「その発言こそが百均への誹謗中傷では!?」

「まあ、好きだぜ。安(やし)ーし。あたしの部屋にある食器とか、ほとんど百均で買ったし」

「買ったはいいけどあんまり使ってなさそう」

「お前のあたしへの偏見の的中率凄いな」


 そんな会話を交わしながら、僕たちはアクセサリー類が集まる棚の辺りを捜索した。

 そして、案外あっさり伊達眼鏡を発見することができた。


「榊さん! 伊達眼鏡です! 伊達眼鏡ですよ!」

「UMA見つけたときくらい喜んでるな」


 三百円くらいするのかと覚悟していたが、意外にも伊達眼鏡は百円で売っていた。

 種類も結構多く、黒縁や赤、青、べっこうなんてものもある。


「どれにすんだ?」

「榊さんは黒一択」

「クソ速(はや)判断キモ男」

「クソ速判断キモ男!?」


 黒縁の、フレームが少し太めの伊達眼鏡を選んだ。ちょっと男らしいというか、かっこよすぎるだろうか。いや、榊さんならなんでも似合いそうだな。


 僕がそれを榊さんに手渡そうとすると。


「公太郎(こうたろう)がかけさせてくれ」


 と、榊さんが髪を耳にかきあげながら僕に首を伸ばした。

 照明を取り込んだ黒いピアスが煌めく。素敵だ。


「ピアスに興奮しなくていいから」

「その心読む特技ホントなんなんだ」


 榊さんの綺麗な顔に、優しく伊達眼鏡をかける。

 彼女の細い黒髪が、たなびくオーロラのように前後した。


 榊さんは自分で眼鏡の位置を微調整し、僕の方を向く。


「どうだ?」

「お、おお……」

 おお、としか言いようがない。


 黒の眼鏡に縁どられたおかげか、榊さんの美麗な形の瞳がより強調されているように見える。まるで、高価な額縁に入れられた名画のようである。


 そして、僕の予想通り眼鏡をかけた榊さんはとても知的に見えた。IQが三十はアップしているかのような貫禄さえ感じさせる。

「じじぃとばばぁの神様、ジジバエル」

「す、凄い……。ネタツイもいつもよりどこか知性を感じる……」

 いや、どこがだよ。じじぃとばばぁの神様ってなんだ。


「じゃあ、これで決定で! 僕が買いますので!」

「おん? 他のは試さなくていいのか」

「はい。たぶん、これ以上はないかと」

「ふぅん。じゃー、次は古着屋でもいくか」


 榊さんは妖艶に目を細め。

「お前好みになってやるよ」

「……最初からずっと僕好みなんですが」

 なんだか、いつの間にかノリノリの榊さんなのであった。


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