こいつ、ついに人の視力にまで興奮し始めた!?
「榊さんって眼鏡似合いそうですよね」
「急にどうした」
榊さんと恋人同士になった次の日の夜。
僕は、榊さんの綺麗な顔をじっと眺めながらそんなことをのたまった。
ちなみに、僕と榊さんのことを知る共通の知り合いや友達には一通りお付き合いしたという旨を連絡したのだが、誰一人の例外もなく「まだ付き合ってなかったんだ」という内容の返事が届いた。
僕ら、そんなに付き合ってそうだったの?
まあ、そんなことはどうでもよくて。
今の僕の頭の中には、榊さんに眼鏡をかけてみてほしいという思いしかなかった。なぜ?
「いや、榊さんってガワだけは知的に見えるじゃないですか」
「おっ。久々の公太郎の毒舌、嬉しいねぇ」
皮肉ではなく、本当に嬉しそうな榊さん。変な人だ。
「だから、眼鏡をかけたらより知的度が増して最強になるんじゃないかなと思って」
「建前はわかった。本音は?」
「眼鏡をかけた榊さんが見たいだけですッ!」
「はいはいキモイキモイ」
僕のあしらい方も適当になってきた。これはこれで『キク』から大丈夫なんだよな。
「なにお前、眼鏡フェチ?」
「いや、そんなことはないですけど」
「ああ、そう。まあお前のフェチは巨乳とメイドだけだもんな」
「だけではないですけど」
「巨乳メイドは認めるのかよ」
「……」
くそっ、この人なんでこんなに口撃が強いんだよ。
「榊さんって目、いいんですか?」
「おん。意外だろ。小学生の頃からずっといいんだぜ」
「……へぇ……。榊さんって視力いいんだ……。ふ、ふふ……」
「こいつ、ついに人の視力にまで興奮し始めた!?」
いや、さすがに視力には……。うん、ちょっとしたかも。
「なら、かけるとしたら伊達眼鏡になりますかね~」
「もうかける前提になってるのは、なに?」
「じゃあ僕、ちょっくら伊達眼鏡買ってきますね。興奮が抑えきれません」
「気持ち悪ィ……」
シンプルにさげすまれ、僕の興奮のボルテージは更に上昇。
財布だけを手に立ち上がろうとすると。
「? どうしました?」
榊さんに、服の裾を掴まれた。
「あ、あたしもいく」
「え。眼鏡をかけることに前向きになってくれたんですか!?」
「違くて。お前だけにいかせたら、エロい眼鏡買ってくるかもだからだろうが」
「エロい眼鏡ってなんだよ」
サドっぽいお姉さんがかけてるイメージのある、赤眼鏡とか?
……。うわ、ちょっとありかも。
「おい、あたしにエロい眼鏡かける妄想するな」
「すみませんでした」
「いや、本当にかけさせてんじゃねぇよ」
まっとうにツッコまれてしまった。
「でも、本当に一緒にきてくれるんですか? なんか、僕の欲望を満たすためだけの買い物に突き合わせるのは申し訳ないんですけど」
「え? え、ああ……」
榊さんは気恥ずかしそうに目を泳がせながら。
「せ、せっかく付き合ったばっかなんだから、ちょっとでも一緒にいたいじゃんか……」
「さ、榊さん……」
僕は、全身を上気させる榊さんに向かって真面目にこう告げる。
「かわいい。好きです。付き合ってください」
「もう付き合ってんだよ!」
そんなやり取りをしつつ、僕らは夜の街に飛び出した。




