エロガキ……
細い路地の奥まった辺りで、個人経営っぽい古着屋を見つけた。
薄暗い路地裏を照らすのは、軒先に飾られたランタンを模した照明道具。
その周りにはずらりと古着や雑貨等が並べられており、僕一人では絶対に入ることはできないであろうという、なんともオシャンティーな空間である。
「ちょっとオシャレすぎますかね?」
「店なんてどこも一緒だろ」
と、榊さんは全く物怖じなんてせずにその店へと入店していった。そんな男前な榊さんの背中に、ついていく僕。
ちなみに榊さんは今も伊達眼鏡を付けてくれている。これは、眼鏡ありきのコーデを考えないとな。
夜ということもあり、店内の客は僕たちだけであった。
最奥の木製カウンターの内側に腰かけているドレッドヘアのお兄さんが店長であろうか。彼は僕たちに会釈をしただけで、こちらに絡んでくる素振りを見せない。服屋って割と店員さんに絡まれてしまうイメージがあるから、僕はこの方がありがたいかも。
二人で店の中を物色しながら僕が声をかけた。
「どんな系統がいいとかあります?」
「お前の好きなのでいいぞ。しいて言うなら機能性があればいいけど、なくてもいい」
「普段着でメイド服を着ている人が機能性気にするとは」
「あーん? メイド服は意外と機能性高いんだぞー。知らんけど」
榊さんは、その場でスカートの裾を掴みフリフリと振ってみせた。クソっ、かわいいなッ。
「なんかもうずっとメイド服でいい気がしてきました」
「お前がそれ言ったらおしまいだろ」
だって榊さんのメイド服かわいいから。
そんなこんなで五分ほど店の中を散策していると。
「うわっ、こ、これは……!」
「どしたどした」
なめらかな肌触り。煌びやかな赤の発色。複雑な刺繍。大胆に入ったスリット。
「さ、榊さん! チャイナ服ですよ! チャイナ服! こんなのもあるんだ!? これ、着てみませんか!?」
と、僕がチャイナ服片手に狂喜乱舞していると。
「エロガキ……」
ついにエロガキ扱いされてしまったのだった。
「お前、やっぱただのコスプレ好きなんじゃねぇの?」
「なっ、ち、ちが──」
「ガトさんのチャイナ服にも鼻の下伸ばしてたし」
「伸ばしてません!」
「そーか? ……。にしても、チャイナ服、か。チャイナ、服なぁ……」
眉をしかめながら、榊さんはちらりと僕とチャイナ服を交互に見て。
「まあ、着てやるけど」
「着てくれるのかよ」
なんだったんだよ、今の一波乱ありそうだった空気は。
「いやまあ、お前の好きな恰好してやるって言ったし。あと、あたし普通にチャイナ服似合いそうだしな」
「それはそう」
チャイナ服が似合いそうだなんて自認、普通の人なら決して持ちえないであろうが、榊さんはマジで似合いそうなんだよな。
「もしメイド服より似合っちまったら、今後は毎日チャイナ服健康生活に鞍替えってのも──」
「ぐあーーーっ! それはそれで見たいけども榊さんのメイド服が毎日見られなくなるのは普通に辛いーーーー!」
「情緒キショ」
もだえる僕をおいて、榊さんはチャイナ服を手に試着室に潜り込んでいった。
「……いや、どうやって着るんだよこれ」
なんて、榊さんの苛立った声を聞きながら、胸を高鳴らせて待つこと数分。
「ん。一応着たけど……」
薄いカーテンが開けられる。
その中に立っていたのは──。
絶世の中華美女……。否、榊さんだ。シンプルに、チャイナ服を着た榊さんである。
どぎつい色を放つ紅のその服は、大抵の人が色に食われてしまうであろう。
しかし、そこは榊さん。抜群のプロポーションと天才的なまでに整ったお顔により、全くチャイナ服の凄みに負けていない。それどころか、お互いがお互いを高め合っているまであるぞこれ。
太ももあたりの龍の刺繍が、榊さんの足に沿うように昇り、今にでも外に飛び出していきそうな迫力がある。
そして、現在の榊さんは伊達眼鏡をかけているということも大変重要なポイントである。似合いすぎ。
中華系のキャラって、よくグラサンとか眼鏡しているイメージが勝手にあるのだが、やっぱり、理由は服との親和性があるからなのかもしれないな。
だってこんなのもう、インテリヤクザならぬ、インテリ中華マフィアではないか? 榊さんにエグい拷問をされた上で無様に殺されたすぎるだろ……。
あと、これは本当に言うまでもないことのだが。ぴっちりとした服が榊さんの胸部装甲を強調していて、凄く凄いことになっている。す、すっげぇや……。
ま、色々と言ったが、結論──。
「すんません、シンプルに一言だけいいすか」
「ん」
「エロ……」
「死ね」




