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魔物討伐一体目 2

 実のところ、トーリヤには魔法の存在を知って以降今に至るまでずっと疑問に思っていたことがある。

 魔法というものが存在し、人々が多かれ少なかれ超常の力を有するこの世界で、果たして人間の行動を万全に制限しておく方法などあるのだろうかと。


 なにしろ、仮に縄で縛ったとしても、この世界の人間には縄を火で焼き切る、念動で切り裂く、引きちぎるなど、そうした拘束を抜ける方法などいくらでもあるのだ。


 無論、個人の魔法能力によってはできないこともあるし、縄以外のものによる拘束や刑務所などの拘禁施設・設備を用意するなどやり方はいろいろあるだろうが、極論道具がなければ何もできなかった前世の人間と違い、この世界の人間は誰もが魔法という万能の道具を最初から所持しているのである。


 あるいは魔法能力が未熟な子供であれば、それこそ簡単な縄などでも拘束しておくことは可能なのかもしれないが。

 少なくともトーリヤ自身は、子供であるのが見た目だけである自分という事例を知っている身としては、縄で縛った程度で拘束できていると油断することなど到底できない。


 自身を引き連れ、監禁場所の地下室に閉じ込めようと扉を開けている目のまえの男と、そして背後で縛ったトーリヤの縄を掴んでいるもう一人の男と違って。


「――ッ」


「このガ――」


「【電導体(エレクトリカ)】」


 直前で男二人も魔法の発動に気づいたようだが、その時にはもう遅かった。

 トーリヤの体から電撃が、分身として生み出した電気ウナギを【生体走査】で観察し、電気というものを観測して魔法によって再現する形で編み出した魔法が炸裂し、後ろ手に拘束していた縄を伝って背後の男を感電させて、同時に縄を焼き切って両手の自由を取り戻す。


「――が、ぅ……」


「ちッ――」


 連行役の男が感電して転倒し、見張りの男が慌ててこちらに踵を返したその中で、すぐさまトーリヤは次なる相手へと向けて動き出す。


 こちらを取り押さえようと向かってくる見張りの男、そんな相手に小柄な少女の体で真っ向から殴りかかるというそんな形で。


「調子に乗るな、ガキィ――!!」


 殴りかかってくるトーリヤの軽い拳を、今度こそこちらの男は腕を構えて防御する。

 男もトーリヤも魔法により身体能力を底上げし、その性能においては【シン域】を活用するトーリヤの方が上回っているはずだが、やはりというべきかトーリヤの本体が抱える体重差という問題までは解消できていない。


 とはいえ、そんな弱点自体はトーリヤ自身、島での訓練時代に散々経験していたことだ。

 島にいたのがトーリヤと子供らの計四人しかいなかった関係上、こと対人戦の経験については数はともかくバリエーションが不足しているトーリヤだったが、男の見せた反応はそうして積み上げた偏った経験を超えるようなものではない。


「【生体転写(バイオプリンター)――コブラ】」


 トーリヤ本体の小さな拳が男の腕と接触するのとほぼ同時、トーリヤの服の袖口から這い出した三匹の毒蛇が念動によるアシストも受けて男の腕に絡みつき、即座にそれぞれが噛みついて男の体に神経毒を流し込む。


「ぎぇっ、なん、だ、こぇ、ぇ――」


 エルセの腕を治すため、手術を行うための麻酔の研究をしなければならなかった関係から、こと神経に作用する薬や毒についてはトーリヤもそれなりに研究済みだ。

 なにしろ有する能力の関係上、有毒生物もそれを試す人体も、分身という形でいくらでも用意できるのだ。


 当然、倫理を気にせずいくらでも人体実験ができるとなれば対人用の魔法や戦術などもいくらでも研究できるわけで、相手を殺さずに無力化する用途の毒もその成果として開発を済ませていた。


「――ッ、そォッ――。どっから蛇なんて――、このガキィ……!!」


 コブラが噛みついた直後にけいれんを起こし、崩れ落ちるように倒れる男にさらに追加の蛇を投げつけるトーリヤの姿に、先ほど電撃によって倒れ込み、今ようやく起き上がった連行役の男が苛立った声をぶつけてくる。


 とはいえ、先んじて電撃を浴びせていた関係上、やはりというべきか魔法を身に纏った男の動きはそれでも鈍い。


「【弾丸装填(リボルバー)】――」


 ここにきて、さすがに危険を感じ取ったのか腰の後ろから鉈に近い大ぶりなナイフを引き抜いた男の姿に、トーリヤの側も即座に念動系の魔法を発動。


 男の体に牙を突き立て、毒の注入を終えていたコブラたちを、念動によって次々と自身の手元へと引き寄せ腕の周りで回転させて、直後に同じ念動によって弾丸として男めがけて射出する。


「――【念射(シュート)】」


「ッ――!!」


 蛇を用いた未知の戦術に一瞬たじろいだ連行役の男だったが、それでも迫る危険に反応したのか魔法を体にまとわせ撃ち込まれる蛇を次々と切り払う。

 やはりというべきなのか、この世界の人間は魔法能力があるせいか身体能力や格闘能力もそれなりに高い。


 レイフトなどがまさにそのタイプだったが、下手に魔法を使って超常の現象を起こそうとしなくとも、世界と意識を繋げたまま体を動かすことで魔法能力が自動的に体の動きを補助する傾向があるのだ。


 あるいは体の動きに対して、魔法が連動する形で発動しているといってもいいかもしれない。


(けど助かるよ。感電の影響もあるんだろうが、お前はレイやエルセほど動きも判断も良くはない)


 ぶつけた蛇の体が鉈のような刃物に切り裂かれた次の瞬間、噴き出した血液が念動による操作を受けて男の目へと振りかかる。


「ぃッ――」


 トーリヤの能力で生成された分身、その肉体を構成する一部である以上、その血液もまたトーリヤにとって念動で操りやすい、他のものより親和性の高い干渉の対象だ。

 これがともに訓練を重ねた子供らであれば、最初から目つぶしを警戒して実際に仕掛けられれば念動で抵抗してきただろうが、さすがにこの物騒な男たちもそれに備えられるようになるほど日常的に流血を経験してはいなかったらしい。


「づぅ、ァアアアあッ――、げぇっ――!!」


「悪いな。痛いのは知ってるんだが」


 視界を潰され、慌てたようにナイフを振り回す男に対して、トーリヤは冷静に近づくと、手の中に魔法で生成しておいた、骨の材質の棍棒を振りぬき、金的の一撃を叩き込んで相手を昏倒させる。

 いや、まあ別に何かを狙ってその場所を攻撃したという訳ではない。

 現在の肉体年齢が八歳で小柄なトーリヤが狙うとなった場合、単純に一番狙いやすい弱点がそこだったというだけの話だ。


「さて、と……」


 仕上げとばかりに追加の蛇を生成してこちらの男も動けないよう毒を打ち込みながら、トーリヤは先ほど目の当たりにした監禁部屋の中身、その中で身を寄せ合っておびえた様子を見せる二人の子供へと視線を向ける。


 年齢は恐らく六、七歳くらいだろうか.

 もともと親しかったのか、それとも同じ境遇故に親しくなったのかは不明だが、憔悴した様子ながらも警戒感を見せる男女の子供は、トーリヤがされていたような縄ではなく金属製の鎖のようなもので拘束されていた。


(とりあえず、子供の救出までするなら分身の出し惜しみはなしで行くか……。表でレイフト達が暴れ始めたせいでアジトの人員もそっちに行ってるようだけど、やっぱりこの幼女ボディで戦うのは不安も大きいし……)


 男二人を行動不能にした蛇たちを上の階の見張りとして差し向けつつ、本体のトーリヤはまずはこの二人の拘束を解くべく室内へと踏み入ることにする。

 さてこの後どうしようかとこの後の流れを考えながら、ふとトーリヤがその鼻をひくつかせて――。


「それにしても酒臭いな。見張りが隠れて飲んでたのか……?」






 結論から言うならば、この誘拐集団の構成員たちの実力は思った以上にたいしたことなかった。


 付き添っていたトーリヤの分身体など、この世界の一般的な戦闘レベルがわからないことから最初レイフトやエルセが戦うことを渋っていたのだが、ふたを開けてみれば建物の入り口で見張りに立っていた五人のチンピラや、その後に増援として現れた三人の男たちなど、まだ十代前半の二人の足元にも及ばなかったのだ。


(単純に犯罪組織の人間だから……? 武器はナイフか短剣程度……。使ってくる魔法も念動ばっかりね……)


 一応人体に直撃すれば怪我をさせ、状況によっては命すら奪える攻撃を目の当たりにしながら、エルセはそれらすべてを【隔意聖域】の念動力場で防ぎ切る。


 男たちがこれまでに見せた戦術は至極単純だ。

 自身の体に身体強化を施したうえでの武器による攻撃に、周囲の石などを念動によって撃ちだす【投射(シュート)】による遠隔攻撃とただそれだけ。

 それとて決して規格外のパワーが込められているわけでもなく、【隔意聖域】という規格外の防御能力を持っているエルセにしてみれば、落ち着いて念動で受け止めながら観察し、相手の手の内を探る余裕すらあるレベルである。


(まあ、街中で隠し持てる武器としてナイフ、状況を問わず使えて有効打になる魔法として念動、って考えれば一応洗練されているとは言えるのかしら……?)


 胸元を狙って撃ち込まれるそれなりの大きさの石を念動力場で受け止めて、エルセはそんなことを考えながら地に落ちようとするそれを自身の念動で操り、相手へと向けて撃ち返す。


 あっさりと打ち返された石が腹に直撃し、苦悶の声を漏らしながら崩れ落ちる相手の様子を観察しながら、エルセは内心で防御能力も高くないなとまじめに戦力分析に精を出す。


 正直に言ってエルセとしては、トーリヤが散々不安視していたにしてはこの展開は少々拍子抜けだ。

 とはいえ理由はわからなくもない。

 彼らが使っている魔法、身体強化に念動といった魔法はこの世界の人間にとっては非常に扱いやすい魔法ばかりだ。

 身体強化の魔法は意識を世界につなげたまま体を動かしていれば自然とできてしまう魔法だし、目の前にある物体を動かす念動系の魔法はもっとも扱いやすい基本中の基本だ。


 それ以外にも、攻撃を加える際にその攻撃を念動で受け止めようとしたり、肉体の耐久力を引き上げているような魔法現象が感じ取れたが、これらについては意識的に使っている技術というよりも反射的に発動してしまう、魔法的防御反応といったほうが実態としては近い。


(トーさんが言っていたような属性魔法的なものは無し……。まあ、この辺りも納得はできるか……)


 トーリヤあたりは魔法というと火や水、風や雷といったものを操り、ぶつけてくるようなものをイメージするらしいが、生憎と敵方にそれらしいものを使ってくる相手は一人もいなかった。


 この理由もわかる。そもそも(えきたい)(きたい)というのはそれ単体で殺傷能力を出すのが難しいのだ。

 単純に操りぶつけるだけでは、ちょっと強めの送風や水をかける程度の、殺傷能力のない生活魔法と大差ないものにとどまってしまう。


 一応、圧縮するなどすればそれなりの威力は出せるようになるが、それをするためには圧縮できるだけの念動系の出力(パワー)が必要になるし、練度によっては一撃を加えるまでにそれ相応の手間がかかる。


 一応火だけは発生させるだけでも相手に火傷させる程度の効果はあるが、そもそも魔法によって起こせる火というのはそこまで大きいものではないのだ。

 着火のための火種にするというならいざ知らず、人間が魔法能力だけで起こせる火の大きさなどたかが知れているし、それなりの殺傷力を持たせようとするなら、やはり周囲の空気の操作や可燃物の調達など、それなりの知識や技術、場合によっては事前の準備がいる。


 雷にいたっては、そもそも電気という現象自体がこの世界においてさほど馴染みが無いのだ。


 この世界の人間が観測できる電気など、せいぜい静電気か、あとは天候によって引き起こされる雷を空に見る程度であるし、他のモノのように体感する機会自体が稀なため他の属性のように再現するのが難しい。

 あるいは雷に打たれる経験でもすれば再現できるのかもしれないが、いくら魔法が使えるこの世界の人間と言えどもそんな自然災害にあって生き延び、魔法の開発につなげられるモノの方が稀だろう。

 それをするくらいなら、まだしも雷が使える術者に軽く感電させられる経験をする方が、まだしも現実的に達成しうる習得手段であると言える。


 そして、そうした武器にするのが難しい魔法をわざわざ鍛えるくらいなら、そこらに落ちている石などを念動で操ってぶつけた方がはるかに楽だし合理的なのだろう。


 トーリヤの言うところの地属性、というには少々規模の小さい攻撃手段ではあるが、そもそも人間などその規模の小さな攻撃手段でもやりようによっては簡単に死んでしまう生き物である。


(魔法の感覚からして【シン域】を使っている人もいない、か……。やっぱりそれなりに珍しい発動方式なのか――、だとしたらどのくらいの希少性なのかは気になるところだけど……)


「――クソ……、なんなんだよこのガキィ……」


 そうしてエルセが分析するさなかにも、必死になって攻撃を加えていた三人の男たちが、しかし攻撃を一切通さない【隔意聖域】の性能を前に音を上げる。


 男たちの顔に浮かぶのは、どれだけどんな攻撃をしてもエルセの守りを突破できないことへの焦りと絶望。

 ただしそれは、なにもエルセ一人を相手にしているがゆえの感情という訳でもない。


「……」


 チラリと視線を向ければ、そこではレイフトが五人もの男たちを相手に大立ち回りを繰り広げている。


 否、五人いた男たちも、現在では三人が倒され残り二人を残すのみだ。

 一応レイフトの方にも相手の力量を図る意図はあったのだろう。素早い動きで相手の攻撃を掻い潜り、攻撃も何の魔法も使っていないただの木剣による打撃に限定して立ち回っているようだったが、そこまでの縛りを課してなお彼我の実力差は圧倒的だった。


 刃物を持った体格のいい男たちが、五人がかりでも木剣二本で立ち回るレイフト一人に手も足も出ない状況に陥っているのだから、そちらへの増援に向かわなければならない状況でエルセの守りを突破できないとなればこちらの男たちとて危機感や焦りは覚えるだろう。


 とはいえ、だ。


「面白くはない、わね」


 そう呟いて、エルセはそろそろ観察は終わりにしようと自身を包む【隔意聖域】の形状を変更する。


 自身の周囲の空間を区切り、外部からの干渉を跳ねのける【隔意聖域】だが、その形状は単一のものという訳ではない。


 実際、習得した当初のこの固有魔法はエルセの周囲、体から最大でも一センチ程度の空間を区切る、いわば全身に纏う服や鎧のような形状だったし、その後他のメンバーを守る用途に使うために自分を含めて四人の人間を入れられる球体防御形態を会得したわけだが、この魔法はエルセのイメージ次第で形状面ではかなり融通の利く能力なのだ。


 故に――。


「こっちもそろそろ片を付けましょう。人数はこっちのほうが少ないんだから、あっちには負けてられない」


「――ッ、……はっ、さっきから防戦一方だったガキが、味方が優勢だからって自分まで調子に乗るなよ……!!」


「よく聞くと負け惜しみとしてすら成立していないことは指摘した方がいいの……? まあ――」


 言いながら、エルセは自身の両腕を、正確にはそれを覆う【隔意聖域】ふくらませるようなイメージを結界力場に込める。


 直後に展開されるのは、エルセの両腕を軸とし、その手と連動して動く、まるで薄暗い影を押し固めて作ったかのような巨大腕。


 エルセ自身が目で見てイメージしやすいように、光の屈折率をいじることで影色に染まった念動力場を腕と共に振るって、即座に目の前で立ち尽くす三人の男たちへと飛び掛かる。


 エルセという少女の戦闘スタイルは実のところ彼女自身の外見から推し量れるものとは別物だ。

 現在十二歳と幼く、それ故に細身。背だって目の前の男たちより明らかに小柄なこの少女は、しかし念動力場の鎧でその手の及ぶ範囲を広げ、身体能力に強化と念動を上乗せして戦うゴリゴリのパワーファイターである。


 そもそもの話トーリヤや他の子供らと組んで戦うときでさえ、彼女の担う役回りはその外見に反した盾役(タンク)なのだ。

 盾も鎧も持っておらず、小さな短剣一本装備しているだけの少女であるため初見ではまずそんな戦闘スタイルだとは予想できないだろうが、四年間の研鑽を超えた今、エルセのパワーは四人の中でも間違いなくトップと言えるレベルに達している。


「――な、ちょッ――、ぉォおおおおおわあああアアァァァッッッ――!!」


 現に今も、エルセはその影を固めたような巨大腕で目の前にいた男の一人を鷲掴みにすると、力任せにぶん投げて背後の建物へと投擲。

 男が石造りの壁をぶち抜いて苦悶の声と共に意識を失うそのさなか、二人目の男へと腕を振りかぶり、力任せに上から叩き落として地面へと叩きつける。


「ァァアアアッ――、ガキャァァァァッ――!!」


 自棄になってナイフ片手に斬りかかった男がその雄叫びを途中から悲鳴に変えて、ナイフを握る腕を掴み取られてそのまま勢いを利用される形で振り回されて地面へと放り出される。

 攻撃が一切通らない相手が怪物染みたパワーで襲い掛かってくるなど悪夢以外の何物でもない。

 力任せに鎮圧されながらも、それでも一撃で気絶出来た男たちはある意味では幸せだったと言えるだろう。


「――おう、そっちも終わったか。っていうか殺してないよな?」


「死んではいないはずよ。殺すとトーさんが嫌がりそうだし……。っていうか、そっちはもう終わってるのね……。そう……」


 自身より多い五人もの男たちを相手にしながら、それを一方的に、自分よりも早く倒したレイフトの姿に、エルセが一見すると冷静なまま、しかしかすかに目を細めて胸の内の感情をかみ殺す。


 一応エルセがここまでかけた時間の中には相手の手の内を暴く時間もあった訳だが、レイフトにしても同じような分析のために加減していたことには変わりない。

 せめて拾えた情報の量で勝れればと、そんなことをエルセが考えていたとき――。


「――おうおう、正面からの襲撃というからどんな奴が来たのかと思ったが、まさか相手がこんな子供の二人組とは」


 そうして目的の建物の前でエルセ達が組織の構成員と思しき男たちとの戦いを終えたタイミングで、建物の中から先ほどの二人に比べると大ぶりな曲剣を担いだ大柄な男が歩み出てくる。


 否、歩み出てきたのはその男一人ではない。

 男の背後にはその陰に隠れるように、もう一人別の細身の男が気配を消して歩み出ている。


「――こいつは驚いた。子供のごっこ遊びみたいな装備で来てる割に、こいつら腕は確かですぜ」


「というか、こいつらが不甲斐なさ過ぎる。勝てないなら勝てないで、せめて俺らが来るまで粘るなり情報を残すなりしろって話だ」


「ごっこ遊び……。やっぱり格好や武器が問題なのかしら……」


 男たちの会話をよそにそう呟きながら、エルセは自身の背後、肩のあたりを狙って撃ち込まれた針のようなものを自身の念動で受け止め、操作が途切れたところを操って自身の眼前に持ってくる。


「それとも、格好はそのままでこういう武器を用意した方が玄人っぽいのかしら?」


 否、その外見は確かに針だが、針という呼称でイメージするよりはるかに太く、どちらかといえば形状としては釘に近い。

 加えて、何やら液体でぬれているあたり何らかの毒のようなものが塗られていると見た方がいいだろう。


 見れば、レイフトの方にも同じような釘が撃ち込まれていたらしく、彼は彼で木刀で叩き落としたそれを足で踏みつけ、念動による操作が途切れるのを待って蹴り飛ばす形で対応していた。


「……すげぇなこいつら。お前の不意討ちにしっかり対応したぞ……。年のころ十五いってるか……?」


「――いや、十三と十二だけど……」


「レイ、答えなくていい」


「十三と十二ィッ!? 嘘だろ。にしちゃあ――、デカいな。いろいろと――」


「……?」


 そこか感心したような声以外に、何やら嫌な視線を感じて、エルセは不快げに眉を顰めながら左肩に縫い付けた革ひもを念動で操り、その先端のフックを右腕の袖の金具に引っ掛け右腕を体の前で吊り下げる。


 普通に見れば敵の目の前で右腕の動きを封じる愚行に映るだろうが、エルセにとってのこれは右腕を封じる代わりに念動に集中するための準備行動だ。


 そしてそんなエルセの行動に、相対する二人は決して油断らしいものをしなかった。


「やるぞウルリク。生け捕りは無しだ」


「ま、お頭さんなら女だけでも捕まえろとか言うでしょうけど、ガウテ(あに)ィが言うならしょうがないっすねぇ」


 前に立つ大男が、ウルリクというらしい後ろの男にそう声をかけて、直後にレイフトと大男が前へと踏み出し、一瞬のうちに相手のもとへと距離を詰めていた。


 同時に、背後のウルリクがその袖口から隠し持っていた釘を四本撃ち出して、それぞれが大男を迂回するような軌道でレイフトへと襲い掛かる。

 攻撃を防御できるエルセを狙わず、あえてレイフトに攻撃を集中させる戦況判断。


 ただしその判断は、ことレイフトが相手ではあまりにも手数が不足していた。


「なっ――!?」


 エルセが手を出すまでもなく、四方から撃ち込まれる釘の曲射をレイフトが一気に加速し、その隙間に飛び込むようにしてあっさりと回避する。


 同時に、目論んでいたよりも早く懐に飛び込まれた大男がとっさにその手の曲剣を振り下ろして、けれどその刀身がレイフトの振り上げた木剣、それを軸に展開された光刃によってあっさりと断たれて宙を舞う。


「【来光斬(サンライザン)】――」


 続けて左手の木剣で見舞うのは、四年の研究の中で身に着けた、相手を殺さずに制圧するための非殺傷の斬撃。


「――ッ、なんのォッ!!」


 曲剣を木剣であっさりと断ち切られるという事態に一瞬目をむいて、しかしガウテと呼ばれた大男は直後にがら空きになった胴へと打ち込まれた木剣を念動で受け止め、防御する。


――【念動反応(リアクション)】。

これもまたこの世界の魔法としては初歩的な、けれどシンプルであるが故に使い勝手のいい防御魔法だ。


自身の念動によって相手の攻撃を受け止め、逸らし、あるいは弾き返す。

念動であるがゆえに意識して発動する必要がある半面、とっさの防御反応として発動してしまうこともあるため的確に使用するには訓練がいるというそんな魔法。


そしてそんな魔法を、攻撃を受ける寸前に的確に発動できてしまうあたり、確かにこの男は手練れの部類ではあったのだろう。


しかし――。


「その守りはトーちゃん相手で破り慣れてる」


 念動の抵抗を受けながら、自身も念動を発動させて動きの鈍る木剣を押し込んで、直後に木剣と接触させられたガウテがビクリと体を痙攣させて意識を手放す。


「――【痺雷斬(パラライザン)】」


 【念動反応(リアクション)】を破る方法として島で考案された手法はいくつかあるが、今回レイフトが用いたのは念動の出力差によるシンプルな力押しだ。

 【シン域】を用いている人間とそうでない者との間に横たわるどうしようもない出力の格差。

 無論いくら出力差があるとはいえ一度受け止められてそこから押し込む形になるため剣の勢いなどないに等しいが、押し込まれて触れた剣が電撃を帯びているとなればそれだけで十分だ。


 大の男すらも失神させる、厳密にはそれができて、それ以上の被害にならないように島での訓練の中で調整された電撃がガウテの身へと炸裂し、念動だけで防御した気になっていた大男はなす術もなく崩れ落ちることとなる。


「ガウテ(あに)ィ――!! クソッ――、なんで――」


 そんな相棒の様子に、とっさにウルリクが釘をバラまき、四本すべてを念動で操りレイフトのもとへと殺到させる。


 だが、ガウテを倒した直後というタイミングだったにもかかわらず、四方から撃ち込まれた釘をレイフトは最小限の足運びだけで苦もなく回避した。


 まるでその程度ならかわし慣れていると言わんばかりに。むしろ途中での軌道変更がないことへの拍子抜けの様子すらにおわせて。


「――なんで対応できる……!!」


「それはまあ――、常套手段(・・・・)だったから」


 叫びと同時にウルリクが再度四本の釘を撃ちだして、けれどその釘がレイフトの言葉と共に飛んできた四つの石によって弾き飛ばされる。


 否、飛んできた石はよく見れば四つだけではない。


「まあ、この手の攻撃は島で何度もやってたしね……。仕留められたことなんて数えるほどしかないけど」


 心底不服そうにそう言って、八つの石を同時に操るエルセがウルリクの周囲で周回させていたそれらを一斉に中央の男へと殺到させる。

 相手の念動の守りなど統べてねじ伏せて、硬いものが人体を殴る音が連続で響いて、それだけでこの場における攻撃は十分だった。


 結局、レイフトとエルセにとって初となる対人戦、身内相手ではない実戦の結末は、特に危険を感じないまま、終始相手を圧倒する形で勝利で幕を閉じた。

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