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テンセイ者たちのエキサイトライフ  作者: 数札霜月
第二章 転生預言者の■■■ライフ
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11:勇者より勇者な

 木々の間を駆け抜けて、跳躍して樹の幹を蹴りつけ、樹上の枝の上へと飛びあがる。


 決して太いとは言えない枝から枝へと軽やかな動きで飛び移り、ゆるい傾斜に差し掛かれば地上の巨岩を足場にし、どこにも平たんな道のない三次元的な悪路を一切速度を落とさず駆け抜ける。


『おい、レイ――、なにを考えてる、危ない真似はやめろ……!!』


 そんなレイフトの懐の中から、声帯を改造して人語を話せるようにした、通信機代わりのモモンガがようやく這い出して、森の中を猛烈な速度で跳び、駆ける息子にようやくと言っていい遅さで声をかける。


 島での訓練の中、あくまで危険から逃げることを念頭に足の速さを鍛える方針をとっていたトーリヤだったが、そんなトーリヤの方針のもと鍛えた子供らの中でもこのレイフトという少年の運動能力は別格だ。


 もとより人里離れた島の中、まともな道といえるものが整備されているわけでもなく、必然的に訓練は単純な平地ではなく悪路を走るモノへとその性質を変えていたわけだが、レイフトの場合は早い段階で岩や樹木などの障害物すら足場と定め、それらの間を素早く跳び回るような運動能力へと手、ならぬ足を延ばしていった。


 他の三人が地上に二次元の道を見出して走っているそのころから、レイフトは三次元的に自身の走る道を見出して、そこを走破するための手段を独自に開発し、習得していった。


「【加速ノ(アクセルシフト)】――!!」


 レイフトが自身の身体能力、その中でも特に速度を集中的に強化したその直後、空中に雹の弾丸が形成されて念動によって少年の身をめがけて撃ちこまれる。


 頭を、あるいは胴を狙って立て続けに発射される遠隔魔法による狙撃。

 まともにくらえば人間など容易に死に至るだろうそんな攻撃を、レイフトは三次元的に飛び回り、その速度を一度も落とさずむしろ加速し続けることで回避する。


 この世界にも前世でフィクションなどにあったような、身体能力を強化する魔法というものは存在している。


 というよりも、ある意味この魔法は水を対象とした魔法と並んでポピュラーな魔法といってもいいかもしれない。

 水魔法の場合は、その利便性と必要性からほとんど言語と同じレベルで人間社会に浸透していたわけだが、対する身体強化の魔法は結構『なんとなく』で使えてしまう故に使える人間がやたらと多い系統の魔法だ。


 実際レイフトにしても、島流しにあう前から親に教えられて多少なりともこの【身体強化】の魔法が使えていたくらいなのだ。

 次点で年長のエルセも、明確に『技能』としては使ったことはなかったものの、それらしい『現象』を起こした経験はあったらしく、総じてこの【身体強化】は使いこなすという意味ではともかく、発動させるためのハードルは低い部類の技術といえる。


 そしてこの【身体強化】の習得に励む中で、【生体走査】によって人体のモニタリングができるトーリヤと、そして学術的好奇心が強いシルファの二人は一つの疑問を持った。


 すなわち【身体強化】というのは、具体的にどういった現象を起こしている魔法なのかと。


 疑問を持って、そこから検証と観察を繰り返し、最終的に四人はこの【身体強化】という魔法が、島にあった本に記載のある二系統の魔法の複合系であるという結論に行き着いた。


 【身体強化】を構成する一系統、一つ目はおなじみ、書物によってはすべての魔法の基礎にすら据えられている【念動系】。

 具体的には、例えば走る際に念動を背中を押すような形で発動させて勢いを増したり、特定の物体を殴る際に撃ち込む衝撃に念動を上乗せするなどの魔法現象だ。

 言ってしまえば、望む形に世界を書き換え、任意の現象を起こす魔法能力が、体を動かす際にその動きに連動して発動している状態で、『なんとなく』で使っていても特定の動作、その効果が加算されるような効果が出る。


 そしてもう一つが、書物などで【強化系】などと呼ばれる、この世界に実際に存在する事物や現象、その特定の性質や出力を増幅する魔法系統だ。

 筋力や敏捷性といった側面はもちろん、肉体の耐久力などどういう性質を強化したいかイメージできれば大抵のものには効果を及ぼせるこの系統は、ある意味こちらの方が【身体強化】のイメージに近いモノであると言える。


 と、ここまで解き明かされたあたりで、今度は話を聞いていたレイフトは着想を得て動き出す。


 もともとトーリヤの方針として、『なんとなく』でも使えてしまう魔法を一定の形にパターン化し、それぞれに名前を付け、反復練習を重ねることで安定して使えるようになろうという試みがあったのだが、レイフトはこの方針を取り入れつつ【身体強化】という魔法の効果を細分化。

 必要な機能だけに魔法能力を集中させたり、欲しい機能の魔法を追加で開発したりして、この少年は己の体を起点とした魔法の数々を『技』として確立、開発していった。


 今もレイフトは、脚力を中心に速度を引き上げる強化を施した、高速移動用に調整された身体強化魔法【加速ノ(アクセルシフト)】を用いて高速で木々の間を飛び回り、立体の戦場を地上とそん色ない速度で走り抜けている。


 走り抜けて、そしてほどなくたどり着く。


 戦場となる森の中心、そこで見晴らしのいい樹上に立つ、裸同然の男のそのもとへと。


『――ッ、あいつだ……!!』


「【来光斬(サンライザン)】――!!」


 レイフトを引き止めようとしていたモモンガ(トーリヤ)が見つけてしまった相手にとっさに叫んだ次の瞬間、即座にレイフトが念動で両腕に張り付けていた木剣を抜き放つ。


 刀身を伸ばしての二連撃、その内の初撃でまずは足場となる樹木を斜めに両断し、崩れ始めて足元が不安定になるその瞬間を狙って続く斬撃が樹上の男を狙う。


 とはいえ、だ。

 強力な周辺知覚能力を持っていると判明しているこの相手が、如何に周囲に分身が多いとは言っても自分に向かってくるレイフトに気づいていないわけがない。


「――不快」


 レイフトが相手の足場である樹木を両断した次の瞬間、その樹木の根元から勢いよく植物が伸びてきて、その幾重にも分かれた枝が槍衾のごとき刺突となって二撃目を振り下ろさんとするレイフトのもとへと襲い掛かってくる。


「なんの――!!」


 人など容易に突き殺すだろう殺意のこもった植物の奔流に、レイフトは二撃目の【来光斬】の軌道を変えてその一部を切り払うと、同時に自身はそばにあった樹木を蹴って跳躍し、伸びる植物の幹の上へと飛び移る。


 伸び続けるがゆえに後方に流れる樹木の幹を踏みしめ足場とし、若干速度を殺されながらも枝分かれして襲い来る刺突を光の刃で切り払って氾濫する植物の上を駆け上がる。


 狙うのは不規則に伸びたように見える樹木の上、そこに着地し、ひどく不快げにこちらを見下ろす半裸の男。


「………………不愉快」


 と、迫るレイフトの存在に、それまで横目でしかその存在に目を向けていなかった相手の男がようやく魔法以外のアクションを起こして見せる。


 自身のそば、先ほど伸ばして足場としていた樹木の枝から、ただ一つ実った見覚えのある果実をもぎ取ると、腕で前に持ち上げ、どこか角度を調整するように左右に動かし、手を放す。


『なんだ……?』


 モモンガの目を通して地上へと落下する果実の行方を目で追って、けれどすぐには意味が解らずそう声を漏らす。


 とはいえ切迫した状況ゆえ、レイフトの行動それ自体は変わらない。

 真下からの攻撃、あるいはそれを囮にした多方向からの攻撃を同時に警戒しながら、それでもなお敵との距離を詰めるべく成長を止めた木の幹の上を走り続けて――。


「――は?」


 バキリ、という音と共に。

 突如としてレイフトの足元で踏みしめた樹木が砕けて崩れ、いつの間にか白く変色していたそれらがバラバラになって地上へとむけて崩壊していた。


『――嘘ッ、マジか――!?』


 突然の足場の崩壊に分身の叫ぶモモンガが叫ぶ中、更なる追撃の手が落ちる地上から伸びてくる。


「振り落とされるな、拾わねぇぞトーちゃん――!!」


 途中にあるモノなど刺し貫いて引き裂かんばかりの勢いで伸びてくる樹木の枝葉に、レイフトはとっさに右手の剣でそれを正面から迎撃。


同時に、レイフトは左手の木剣を伸ばして付近にあった樹木、そこから伸びる枝に触れると、接触した一点を起点に念動を駆使して物体を掴む(・・)一触束握(ポイントグリッパー)】を使用して、触れた切先で枝を掴んで己の体を木の影へと引き寄せ、滑り込ませる。


『よし――』


「いや、まだだ……!!」


 肩に乗るモモンガのトーリヤが安堵しかけた次の瞬間、先端を光刃に切断されながらお構いなしに真横までそびえてきた樹木が、その側面の枝に鈴なりに木の実を実らせ、せり上がる形で姿を見せて、直後にまつぼっくりのような形状のそれらが一斉に爆ぜて鋭い破片をあたりへとまき散らす。


「――ぬ、ォオッ――!!」


 撃ち込まれる破片に、とっさにレイフトは肩に乗るモモンガ(トーリヤ)をかばいながら念動を発動。

 勢い良く飛び散り、自身の身に食い込む寸前の無数の破片を念動の力場で受け止めて、空中で体を回転させることで勢いを流しつつ念動の出力を上げて弾き飛ばす。


「【念動反応(リアクッション)】――!!」


自身に向けられた攻撃に念動をぶつけることで防御する、なんならこの世界の人間であれば反射的に発動してしまうことすらある一般的な魔法だが、レイフトの場合は自身から距離が離れるほど出力が落ちるこの念動を、自身のほぼ体表面近くで、しかも瞬間的に発動させることで高い出力を確保している。


 ほんの一瞬タイミングを誤るだけで攻撃をまともに食らいかねない、トーリヤの言うところの『肝っ玉運用』だが、それでもレイフト自身が研鑽の末に行き着いた方式の防御魔法は狙いたがわず押し寄せる木の実の破片を跳ね返し、同時にその反動によってレイフトの体を付近の樹木の枝へと弾き飛ばしていた。


「【来光斬(サンライザン)】――!!」


 即座にレイフトが放った下から襲い来る斬撃に、しかし頭上の裸の男は不意を突かれた様子を表さない。

 否、先ほどの攻撃で仕留め損ねたことについては目を見開き驚いていた様子だったが、不意を討つつもりで放った下からの斬撃についてはそれを放つ前から見切ったような動きで、余裕を持った跳躍により回避されてしまった。


 そしてその代わりとでもいうように、先ほどレイフトが足場としていて、そして朽ちて崩れた樹木の残骸がついに自重を支えられなくなってへし折れ、頭上から襲い掛かるように降ってくる。


(――これも、ない(・・)。トーちゃんは――、今の分身じゃ無理か)


 頭上から落ちてくる朽ちた樹木を輝く斬撃で両断しその隙間に飛び込みながら、レイフトは自身が覚えた違和感の正体に思考を巡らせる。


 幸いにして仮説はある。

 そして思考を巡らせ、仮説がたったならばあとはそれを確かめるだけだ。


「おい、レイ――、戦うならせめて――」


「トーちゃん。あいつが使ってる植物――、それを成長させてる魔法の詳細だけ調べといてくれ」


 肩に張り付いて慌てたように叫ぶモモンガの分身をつまんで頭にのせながら、レイフトはほとんど一方的にそう言いって両手の剣から手を放す。


「【帯剣(ソードポジション)】――【後翼(ウイング)】」


 手放した木剣を自身の背後で翼のように浮遊し、追従する【後翼(ウイング)】の状態に念動では位置。

それに続けてレイフトが行使するのは、木剣を握っていたのでは使いにくい別の魔法だ。


「――形成、――剣、――加工、――矢、――生成開始、【投剣矢(ソードアロー)】」


 島での修行時代に習得した【顕現系】の魔法、無から物体を作り出すその魔法を行使して、レイフトは構えた腕の周囲に短剣を加工して矢にしたような、細身の刀身と同じく細い持ち手、その後ろに薄い金属製の矢羽(ヴェイン)を取り付けたような武器を立て続けに六本生成する。


「【弾丸装填(リボルバー)】」


 続けて、生み出した【投剣矢(ソードアロー)】を念動で操作して右腕の周りの定位置に設定。

 飛びついた樹木の側面をほとんど垂直に駆け上がりながら、逃れた相手の男を見据えつつ声を上げる。


「悪いがここからは口出し無用だトーちゃん。あとでさっきの答えだけ聞くから、こっちの検証が終わるまでにそっちも済ませておいてくれ」


「――!!」


 言った次の瞬間、レイフトは距離を取ったまま木々の間を連続で飛び回ると、相手の男の視線がこちらを追いきれなくなったタイミングで腕の周りに浮かべた【投剣矢】の一本を発射する。


「【投射(シュート)】――!!」


「ッ――」


 完全な死角とまではいわないまでも、視認できていない方向からの攻撃に、しかし男の反応は的確なものだった。

 レイフトのいる斜め後方に一切視線を向けることなく、即座にその場で態勢を落とすことで飛来する矢を回避して、その手の中に念動で引き寄せていた木の実をレイフトめがけて投げつける。


 まるでトーリヤに聞いた手榴弾のように炸裂し、植物とは思えないほど固い破片をまき散らす木の実の爆弾に対して、レイフトは大きく跳躍すると樹を遮蔽物にして破片による攻撃を回避。

 開けておいた左手で幹を掴んで動きを変えると、そのまま垂直にそびえる樹の幹を駆け上がって適当な枝の上に飛び上がる。


 直後、そんなレイフトを待ち構えていたかのように魔法発動の感覚とともに雹の弾丸が生成され、撃ち込まれるそれらをレイフトが重力を感じさせない軽やかな動きで飛び越える。


(視線はこちらに向けてない。死角にいてもこっちのことは普通に見えている……。――いや、これはそもそも見えているのか? それに、見えているだけか?)


 跳躍した先で木の幹を蹴りつけ真横に向けて跳びながら、レイフトはこの相手に視線を向けつつ思案する。


 遠距離の知覚能力と言われて、まず真っ先にレイフトが思い浮かべたのはトーリヤの分身と、レイフトたちもある程度鍛えた感覚強化だ。


 特に今回の場合相手がこちらを精密に細く空いていたこともあって、ここまでレイフトはなんとなく『見られている』という感覚で動いていた。


(けどここは死角の多い森の中。こいつ自身にしてもわざわざこちらに視線を向ける様子もない……。トーちゃんの分身みたいにどこかに視点を設定してみる能力だとしたら使いやすい環境とは言えないし――、立ち回りにも違和感がある)


 心中で『試してみるか』と一度つぶやき、レイフトは念動を駆使して進行方向をわずかに横にずらして目指していたのとは別の枝へと着地。そのままぐるりと踏みしめた枝を起点に逆さまになることで背中に打ち込まれる攻撃を回避して、落下を予想して斜めに伸びてきた樹木の刺突を、足裏の接触で掴んだ枝に逆さ吊りになった状態のまましゃがみ込むことで回避する。


「【来光斬】」


背中へと手を回し、手の中へと飛び込んできた木剣の柄を掴んで光の刃を抜き放つ。


眼前の樹木を伐採し、同時に真下へと跳躍して樹木の影から飛び出して――。


「――不正解、か」


 そうして攻撃を掻い潜ったその先で、飛び移る枝の手前で道をふさぐように雹を弾丸として放つ魔法がすでに形を成している。

 それも脆弱なレイフトの念動程度、突破して守りごとぶち抜くと言わんばかりの力を込めて。


「なんのッ――!!」


 そんな攻撃を前にして、けれどレイフトは慌てることなく先ほど伐採して空中へと散らばった、敵の育てた樹木の枝の、その一つを空中で踏みしめる。


 発動させるのは足裏でとらえた物体を瞬間的に空中に固定し、跳躍し、駆けるための足場とする【固空架(ロックステップ)】の魔法。


 それによって空中のレイフトが突如として軌道を変えて、その先にあった、樹木の急成長によってへし折られて宙を舞っていた枝をおなじ要領で足場として跳躍。二度の急激な進路変更によって撃ち込まれる雹の弾丸を回避して、そこからさらに木の幹を、続けて舞い落ちてきた木の葉を足場として加速する。


「――不快、――再度、不正解……!!」


昨今は魔物相手の戦闘ということもあり、エルセの【隔意聖域】という最強の守りの中から攻撃する戦い方が多かったが、本来のレイフトの戦闘スタイルはむしろこちらだ。


多彩な自己強化と運動補助魔法を使いこなし、共に研鑽した四人の中でも最速の機動力で縦横無尽に駆け回って一撃必殺の【来光斬(サンライザン)】で切り伏せる。

それこそが、分身軍団すらも壊滅させたトーリヤの息子、本物を差し置いて勇者と呼ばれるに至った少年、レイフトの戦闘スタイルだった。


「――理解、回答……!!」


 とは言え、規格外の知覚能力を持つだけあって、この相手もそうしたレイフトの戦闘スタイルや手の内については解析できていたらしい。


 直後に標的であるレイフトをあえて避けるように暴風が吹き荒れて、足場にできるようなこの葉や枝などを全て散らしたうえで、直後に再び雹の弾丸による包囲網が築かれる。


「けど――、その程度――!!」


 とはいえその程度の対策であるならば、そもそも島にいたころにすでにトーリヤ達が試した後だ。

 足場になる物体すらない状態で包囲殲滅するようなその攻撃に、しかし当のレイフトは自身の足裏で空気を圧縮。

 気体を圧縮し、任意のタイミングで炸裂・放出する島育ちの4人の中では基本技能にもなっている【炸風(パンク)】系統、そして【固空架】を掛け合わせた【固空炸風(パンクロック)】を発動させて、空気の足場を蹴りつけると同時に破裂させて、風圧の後押しを受桁斜め下への跳躍で致死の方位を突破する。


 否、突破しただけではない。

 なにしろ包囲を抜けてレイフトが向かうその先には、樹上で目を見開き、こちらを見上げる裸の男が既に剣の届く距離で存在しているのだから。


「【来光斬(サンライザン)】――!!」


「――グッ」


自身の背後、そこに一本だけ残していた木剣で【来光斬】を発動させ、それによってこちらを見上げる、見上げてしまっていた相手の目をその閃光によって眩ませる。

迂闊に体の前で使えば自身の視覚さえ潰しかねない技を【後翼(ウイング)】によって背後で行うことで相手の視覚だけを的確に奪って、しかしそれでもこの敵が相手ではその行為自体があまり意味をなさない。


 案の定、目をかばう相手をよそに周囲に植えられていたのだろう植物が地上から急速に伸びてきて、裸の男を守る壁となりながら同時にレイフトを貫くべく正確にこちらへと伸びてくる。


(目潰しを喰らわせてもこちらを正確に補足してる……。やっぱりこいつの能力は視覚とは別ものか……!!)


 そう分析しながら、レイフトは左手に携えた木剣を振るって襲い来る樹木の大半を伐採。

 飛び散る枝葉を足場に跳躍を重ね、植物の向こう側で逃れようと跳躍する相手のもとへと一気に距離を詰め、そして――


「【投射(シュート)】」


植物の壁を抜けたところで腕の周りに浮かべていた【投剣矢】を連続で射出する。


「――不、愉快ッ、対応――」


 連続する攻撃に、さしもの男も地上から樹木が伸びてくるのを待っている余裕がなかったらしい。


 自身の体に巻き付けた植物、そこに実っていた果実の一つをその手で直接むしり取り、前方に投げると同時に爆発的に急成長させて、恐らくは果実の養分を用いて成長したのだろう一本の若木の、その根と枝で撃ち込まれる六本の【投剣矢】の一本一本で受け止める。


 否、受け止めた、と、このとき彼はそう思っていたのだろう。


「【来光斬(サンライザン)】――!!」


「――ッゥ――!!」


 伸びた樹木に剣矢が突き刺さった次の瞬間、六本の【投剣矢】が一斉に光を宿し、展開された光刃が盾となった樹木を突き破ってその向こうにいる男の身へと襲い掛かる。


 最初の【投射】で感じた手ごたえからして、【投剣矢】を受け止めた根や枝の硬度はそれなりに引き上げていたのだろうがそんなものレイフトの光刃はものともしなかった。


 念動によって適当な物体を操り、それを撃ち出す【投射(シュート)】の魔法は島にあった本にすら乗っている基本的な攻撃魔法だ。


 一時期弓を齧っていた関係もあってか、レイフトの【投射(シュート)】は一度に一発づつしか撃てず、矢の軌道も弓で放った時と同じようなものにしかできなかったが、レイフトは矢の代わりになる【投剣矢(ソードアロー)】の生成を魔法で行い、それらを最大六本まで腕の周りに浮かべ、撃ったそばから次の矢を発射位置に移動させる【弾丸装填(リボルバー)】を習得することで、ある程度連射が可能になるよう機能を拡張することに成功していた。


 けれど機能の拡張というのであれば、そもそも撃ち出す物品を剣に近い形状としたことが、レイフトにとっての【投射(シュート)】の最大の追加・拡張機能だ。

 なにしろ剣の形を取り、レイフト自身が魔法で生成した親和性の高い【投剣矢(ソードアロー)】であれば【来光斬(サンライザン)】の発動起点として十分に活用できる。


「軽微、だが、被害――、不、快ッ、――不愉快ッ……!!」


 とはいえ、さしものレイフトも成長によって動き続けている樹木越しに相手に致命傷を与えることはさすがに不可能だったらしい。


 根を張らぬゆえに重力にひかれて落下していく樹木の影から怒りに顔をゆがめた男の表情が露わになって、同時にレイフトと男の間で、その樹木が恐らくは男の魔法を受けて勢いよく発火する。

 毒気を帯びた煙が、レイフトはおろか男自身すらまきこめない形でもうもうと立ち上り――。


(いや……!!)


 相手の自爆を疑った次の瞬間、男の背後から勢いよく突風が吹きつけて、両者を巻き込むはずだった毒煙が枝に着地したレイフトの方へと押し寄せる。


 先ほど足場となる樹木が崩れた時や、直後にそれが落下してきた時と同じ、あまりにも都合の良すぎる、魔法によらない純粋な自然現象としての突風。


(――やっぱり、こいつ……)


『レイッ――!!』


 迫る毒煙で、頭の上に乗せられたモモンガの分身が声をあげて、それもむなしくレイフトの姿が毒煙の中へと飲み込まれて――。


「――ッ、大丈夫……!!」


 けれど次の瞬間には、レイフトのその姿は毒煙を突き破り、背中にある別の樹の上へと飛び移っていた。


 自身の頭の上に乗せたモモンガ、トーリヤの分身ごと守る形で展開した、毒煙の中でも外気を遮断するように渦巻く気流の兜でどうにか毒気身を守りながら。


『やいこのイカレ息子ッ!!  相手が毒を使ってくるのはわかってるんだから、【風船兜(バルンヘルム)】はもっと早めに使え。お前は俺と心臓止めるつもりか。心臓がいくつあっても足りない……!!』


「分身できるんだから増やせばいいだろ」


『全員いっぺんに止まるんだよッ!!』


 『マンボウの分身がいたら今ので死ぬぞ』と前世の生物らしいなにかを引き合いに出して頭上で叫ぶモモンガを半ば無視して、一方でレイフトは毒煙が自分だけではなくこのモモンガにも届かぬよう今しがた展開した魔法の維持に努める。


 立ち込める毒煙の直撃を受けながら、レイフトと、ついでに頭の上のモモンガの分身が無事でいられた理由は簡単だ。

 空気を操り、頭の周りで渦巻かせることで頭を守る【風船兜(バルンヘルム)】。

 エルセの【隔意聖域】を模倣する形で編み出され、後に水中での呼吸も可能な技にまで磨き上げられたその魔法は、外気を遮断する関係上毒煙程度なら容易に防ぎ、毒気の影響が内部に及ばないよう遮ることができるものとなっている。


 無論、エルセの念動力場ほどの性能はないため数分程度しか持たない限定的な防毒手段だが、即死級の毒を防ぐ手段は最初から持っていたのだ。

そしてそうである以上、トーリヤとしては毒煙を使うことがはっきりしているこの相手に、何かがある前に早めにその手札を切ってほしかったというのが親としての率直な想いだったのだろう。


 とはいえ、だ。

 レイフトとて今までただの迂闊でこの魔法を使っていなかったわけではない。


「そんなことよりトーちゃん」


『そんなことって――』


「こいつの能力、それと正体がわかったぞ。こいつは周囲の現在だけじゃなくて、そこから導き出した未来も見てる(・・・・・・)


『――なに?』


 告げられた言葉に、小言を言おう解いていたトーリヤがモモンガの分身で黙り込む。

 それは突拍子もない話だったからではなく、そうと言われれば納得できてしまう話だったがゆえに。


「――なあ、そうなんだろう? 【連合国の預言者】、名前は確かベルデだったか?」

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