9:分析と誘引
植物の領域に隣接した森の各所で巨大な影が乱立する。
竜盤目ブラキオサウルス科、ブラキオサウルス。
全長にして二十メートルを超え三十メートルにも届かんとする、ここではない別世界の生物史においても最大級の地上生物として有名だった首長竜の姿が、森の木々を突き破り、なぎ倒しながら次々と。
トーリヤが地球で生きていたころの最新の研究では、ティタノサウルスという種がこれよりさらに大きかったという説も出ていたのだが、実際に両者を生成して見比べたことのあるトーリヤは、今回に関してはより頭の位置が高いこのブラキオサウルスの方が適任であると判断した。
それぞれが同じように歩き出し、森を出て植物の領域へと足を踏み入れて、その足を毒草によって傷つけむしばまれながら、けれど巨体故にすぐに死ぬことなく、与えられたわずかな猶予で死の草原を踏み荒らす。
否、踏み荒らすだけではない。
全長が三十メートルにも届こうとするその巨体は、死の瞬間に倒れ込むだけでも大質量による蹂躙だ。
加えて、生成される巨体は何も一体切りではない。
【生体転写】がトーリヤ全体で一度に一体ずつの分身しか生み出せず、巨大な生物ほど生成に時間がかかる関係上生成速度も三十秒に一体程度が限界だったが、それでも次々と生成される巨大な分身たちが、先に攻め入った個体の踏み荒らした後を通って踏み込んでくるとなればその脅威は甚大だ。
いかに毒草といっても、数十トンの巨体に踏み荒らされ、倒れ込む死骸に押しつぶされるとあってはさすがに致死性の罠としての性質を維持できないらしく、そうしてなぎ倒された毒の高草の上を次なる分身が通過して、毒草の領域のさらに深くまで踏み荒らして毒により倒れ、しかしそうして均したその後を、次なる分身が踏みしめさらに奥へと踏み込んでいく。
それは肉体の死が正しい意味で死ぬこととならない、分身体だからこそ許される質量と数によるごり押しの特攻。
(――ハッ、来たな……!!)
そんなブラキオサウルスによるごり押しの行進に、さすがにこの植物の領域を形成した何者かもこの事態を看過できないものとみなしたのだろう。
足元から毒でむしばむ高草とは別に、天上に広がる黒雲の上から巨大な雹の砲弾が撃ち込まれ、それらが次々とブラキオサウルスの首や頭を穿って、命を絶たれた巨大な分身体が次々と草原に倒れてそこにある毒草を下敷きにしていく。
植物の領域に突入する前であればまだしも、突入した後ではかえって領域内に被害を及ぼす本末転倒な結果。
加えて、領域にたどり着く前の分身たちについても、ただ闇雲に殺されるに任せるつもりもない。
「――はっは、そう簡単に落とせるとは思うなよォッ!!」
「この子を撃つつもりなら、私たちを殺してからにしてよねッ!!」
「……分身とはいえこの外見でそういうこと言うのって、さすがにちょっと悪趣味が過ぎるよな……」
進軍するブラキオサウルスの頭の上に覆いかぶさる、その幼さゆえに同じ容姿で男女両方のバリエーションを有する分身、Tの二人がまるで双子のようなノリでそう宣言して、その様子を後ろから見ていたトーリヤの本体によく似た少年型分身、Uが、若干眉を顰めて苦言を漏らす。
【シン域】を用いる、【生体転写】をはじめとした特典能力の魔法こそ全体で一人づつしか使用できないトーリヤだったが、逆に言えばシン域を用いない、肉体の感覚を周囲の【世界】とつなげて行使する通常の魔法であれば分身でも一体一体が個別に使用可能だ。
無論【シン域】を使えない関係上、行使する魔法の各種性能は【シン域】を用いて発動する場合より大幅に低下してしまうものの、それでも無数に生成される分身たちが個別に魔法を使えるとあっては取りうる選択肢も大幅に増大することになる。
ある者は空気を圧縮し、ある者は骨に近い材質の盾を生成して、またあるものは念動系の魔法で砲弾を受け止めるように、それぞれが半ば試行錯誤する形でブラキオサウルスを絶命させようとする雹の砲弾を防御して、最後にはその子供の外見の分身体そのものを盾にして、その仮初の命を散らしながら攻撃手段たる首長竜の巨体を植物の領域まで到達させる。
加えて言うなら、仮にブラキオサウルスを倒せたとしても、それを守る人間が残っていればそちらが脅威にならないわけではない。
「――って横ぉッ!? のォァアアアあッ」
草原へと向かう途上、上空からの雹の弾丸を受け止めるさなか、突如として横合いから襲ってきた別の弾丸を圧縮空気の炸裂でどうにか受け止め、けれど空気の炸裂に跳ね飛ばされて男女両方が存在するTの少女(F)型の方がブラキオサウルスの頭から転げ落ちる。
とはいえ、二十メートル近い頭の高さから転げ落ちたとしても、魔法を使えるこの世界においてそれは即座に死を意味するわけではない。
落下する過程で、Tは空気を圧縮して地表に放つことで落下の勢いを緩和。
身体強化と組み合わせることで猫のように地表へと着地して、そのまま倒れるブラキオサウルスの影に隠れるように強化した脚力で地表を走り始める。
絶命した巨体に押しつぶされないようブラキオサウルスの足の間を走り抜け、直後に行使するのははるか後方の森の中で使われているのと同じ特典能力。
「【生体転写】――ブラキオ……!!」
最初の巨体とTの足で稼いだ距離を省略し、植物の領域の至近距離まで近づいたところで再び巨大な首長竜の姿を現出させる。
巨竜のみならずそれを守る人型の方も処理しなければ終わらないのだと示すように、死を恐れない分身の集団が寄ってたかって殺意に満ちた植物たちを踏み荒らす。
「どうするどうする……? なんだったらこのまま馬でも出して走り回って、別方向からも恐竜の突撃をかまして――、ドォオッ――!?」
しゃべるさなかに撃ち込まれた雹弾に慌ててその場を飛びのきながら、地表に落ちたTはその後絶命するまで他の巨大分身と一緒になってまだ見ぬ敵を振り回す。
同じように大地を駆け回り、互いに時間を稼ぎながら数を増やしていく、同じトーリヤたる分身たちと同じ様に。
「大前提として、俺の能力は分身が本体より強い能力だ。これは何も動物型に限った話じゃない。同じ人間型の分身ですら、この(・・)本体より強い体をいくらでも作ることができる」
恐竜たちが進軍する草原や、分身たちが暗躍する森のさらに後方、エルセの展開する聖域の中に他の二人と共に潜みながら、トーリヤは自身の作戦、そこにある意図を前提の段階からそう語る。
自分でも少々どうかと思う前提だがそれでもこの事実は揺るがない。
なにしろ、少なくともトーリヤには分身にできて本体にしかできないことというものが存在しないのだ。
特典能力となる三つの魔法に、それらをもとにして新たに開発した治癒魔法、その他四年の訓練の中で様々な魔法や技術を開発・習得し、【シン域】抜きでもそれなりに戦えるようになっているトーリヤだったが、それらの技能は別に本体でなければ使えないという訳ではない。
むしろ本体がいまだ九歳の少女であることを考えれば、それよりも年上で戦闘向けの調整すら施されている分身たちの方が、身体的性能差の分ハッキリ強いとさえ言ってしまえる。
それ故に。
この場におけるトーリヤの最適解は、戦闘のすべてを分身たちに任せてこの場から離れることなのだ。
一応味方になるはずの【連合国の預言者】との接触を目的とし、それにあたって分身で接触するより本体の方が失礼がないかと考えここまで来てしまったが、未知の敵との戦闘が始まってしまった現状、トーリヤがこの場所に留まるのは、はっきり言って弱点を敵の近くに置いておく愚策でしかない。
ただしそれは、この場にいるのがトーリヤ一人しかいなければ、の話だ。
「――さっきの軍隊との戦闘、それに以前に分身がやられた状況から見てわかったが、この敵が遠方の様子をかなり高い精度で観測できているのはまず間違いない。
植物の領域に動物の分身を送り込んだ時もその出所であるGを直接狙ってきたし、軍隊相手でも指揮官らしい人物をピンポイントに狙撃してたからな」
分身越しの視界で軍隊を観察し、なんとなく指揮官らしいと目をつけていた人物が次々と狙われたその光景を思い出し、トーリヤは胸の中の感情が顔に出ないよう注意しながら話を続ける。
「現状推測できる敵の能力は三つ。
一つはあの植物の領域を作った能力。詳細は不明だけど植物が帯びていると思しき毒についてもひとまずこれに含めておく。
二つ目は今話した観測能力。これも詳細不明。こっちの分身と同じように視覚の延長線上の能力なのか、他の感覚の何かなのかもわからないけど、ある程度詳細に観測できるのはほぼ間違いない。
そして三つ目が、雹を弾丸にした狙撃能力」
これまで見てきた情報をもとに、ひとまずトーリヤはこの相手の能力をその三つにまとめて言及する。
人間なのか魔物なのか、それともそのどちらでもない何かなのか、いまだその正体さえわからないこの能力だが、しかし一つ一つ得られた情報を整理していけばある程度の手の内は見えてくる。
「恐らくはあの軍隊同様、偵察に向かわせた俺の分身もこの毒と狙撃にやられたんだろう。このうち毒についてはさっき共有した情報で全部なわけだが――、問題はこの雹による狙撃の方だ」
氷で弾丸を形成して飛ばす、と考えれば、実のところこの攻撃手段は魔法としては他の能力程非常識なものではない。
トーリヤ達四人の中で、そうした攻撃が得意な人間はいないため実際にやるとなると時間と手間がかかってしまうが、それでも【シン域】を用いて魔法が使える四人ならば使うことくらいはできる程度にはレベルが高いとは言えない魔法だ。
ただしその一方で、その雹の弾丸がはるか上空の雲の上から撃ち込まれているとあっては、その難易度はトーリヤ達では考えられないほど格段に跳ね上がる。
そもそも魔法という能力は、術者である人間からあまり離れた場所で発動させられる技能ではない。
使用する人間の適性や得意・不得意、対象とする事物との親和性によってできることは大きく異なるが、それでも共通する傾向として魔法の発動は自身の肉体やそれに触れている対象が最も発動させやすく、逆に距離が遠くなるほど発動の難易度が跳ね上がる傾向がある。
一応シルファなどは手元、あるいは足元で発動させた魔法を遠距離に移動させることはできているが、それとて言ってしまえば距離が開くことによる難易度上昇を工夫で補っているだけで、魔法の発動そのものを離れた地点で行っているわけではないのだ。
にもかかわらず、この相手は雹の弾丸を放つ魔法をはるか上空で、それも植物の領域の両端でそれぞれ襲撃者を撃ち抜く形で使用している。
となれば、予想できる相手の第三の能力、その根底にあるモノは何か。
「魔法の遠隔発動。それも直径でおよそ五キロメートルはある植物の領域、その両端で攻め込む外敵を撃ち抜けるほどの長射程だ」
あるいは知覚範囲と魔法の遠隔発動の範囲が同じであるなら、この相手が魔法を遠隔発動できる理由は広域知覚能力が大元となっているのかもしれない。
なんにせよ、だ。
「こいつの基本戦術は植物の領域に引きこもっての籠城戦。そのうえで植物の領域に無視できない攻撃を受けると、遠隔魔法を使ってそれを排除するべく攻撃を仕掛けてくる」
加えて、前線で攻撃を担う兵士や分身を殺しても無駄とわかれば背後に控える指揮官や分身の出所を探して狙い撃ちしてくるわけだが、では攻撃を仕掛けるこちら側がそれで終わらなければどうなるか?
「さっきから敵の攻撃が、領域に攻め込むブラキオサウルスやそれを守る分身だけでなく、森の中の人型を狙う形に推移し始めた。恐らく無尽蔵に生み出される分身にこの間と同じ奴だと悟って、その出所を叩きに来たんだろう」
とはいえ、森に散った分身たちも今回に関しては負けてはいない。
もとより前回の反省から攻撃には常に警戒し続けているのだ。視界の悪い木々の間をバラバラに動き回り、攻撃を受けても魔法による防御で命をつないで、場合によっては新たな人型分身を生成して相手が潰さなければならない標的を森の中に増やし続けている。
無論、分身とて生成速度を上回るペースで殺され続ければいずれ殲滅されてしまうだろうが、巨大なブラキオサウルスの分身体と違って人型の生成にかかる時間はおよそ十秒前後。一体一体がそれだけ逃げ切れれば数が減らないと考えれば、バラバラに逃げ回りつつ攻撃を継続するというのは言うほど難しい話でもない。
思うさなか、一人一人を狙った狙撃ではなく、雨あられと降り注ぐ機銃掃射のような範囲攻撃が襲ってきてなん体かの分身が消滅してしまったが、それとてそういう攻撃が来るとわかっていれば分身たちはそれ相応の対処ができるのだ。
馬の分身を生成しての高速での移動に、小柄な分身と二人一組になっての移動と防御の分担両立、シンプルに周囲にある岩や樹木を盾にするなど、次の瞬間にはやられた記憶を共有した分身たちがそれぞれで生存のための一手を打っている。
「さて、ここからが問題だ。自分の領域に攻撃を仕掛けてくるその相手が、一朝一夕では排除できず、このままでは自陣を荒らされ放題になるとなった場合、この相手は次にどんな手に出てくる?」
攻撃を受けて殺害されると死体すら残らず消滅する分身の性質上、広範囲を知覚できるこの相手に仕掛けてきているのが通常の人間や生物でないことはすぐにばれるはずだ。
周辺環境を観測できるがゆえに、動いているのが魔法によって作られた分身であるという事実は隠しようがなく、となれば次の行動として魔法を使う本体を探すというのはトーリヤから見ても自然な判断であると言える。
ではそんな中で、戦場に身を置きながら攻撃に参加せず、動き回る分身たちの後方に控えている四人組がいたらこの相手はそれを何者と判断するか?
さらにはその四人組が、さほどの速度でなくともこの戦場から徐々に離脱しようとしていたら、この敵はそんなトーリヤ達をどう見るか。
つまるところ、トーリヤが今やっているのは相手の知覚能力を前提とした、恐らくは植物の領域の中心にいるだろうこの謎の敵の誘引なのだ。
そしてここまであからさまな誘いに対して相手がどう動くか、考えられる判断はいくつかあったが、この時のトーリヤはひとまず当たりを引いたようだった
「――来た!!」
レイフトがそう叫んだ次の瞬間、天空から木々の枝を粉砕しつつ大量の雹の弾丸が降り注ぎ、四人を内部に取り込む形で展開されたエルセの念動力場にそれらがすべて弾かれる。
「エルセ――」
「大丈夫。この程度ならむしろ余裕。でもこれ、食いついたってことでいいのよね」
「ああ。少なくとも何もしていないこちらは怪しく見えたってことだろう。予定通りこのままここを離れるぞ」
外部に声が漏れないようエルセによって音が遮断された聖域の中で、トーリヤはここまでしていた説明の元次の動きを四人に対して通達する。
なおここまでの会話は、敵の知覚能力の性質によっては音を遮断してなお聞かれている可能性もあると考えてすべて日本語で行っている。
トーリヤとしてはこの世界で通じる者のいない言語を三人の子供らに教えるつもりなどなかったのだが、前世の知識を語る際に日本語を使っているうちに三人が覚えてしまい、第二言語感覚で身に着けてしまったのが思わぬ形で功を奏した。
それに加えて言うなら、最悪ここでの会話は相手に聞かれていたとしても構わない。
(さあどうする……? 潰しても潰してもどんどん数を増やして襲ってくる軍隊の後ろで、如何にも怪しい、弱点っぽいやつがこの場から、自分の探知範囲からどんどん離脱していくとなったら――、果たしてこいつはどう動く……!?)
四人でエルセの聖域の中に納まり後退しながら、トーリヤは声に出すことなく心中でこの相手にそう問いかける。
実のところ、トーリヤとしてはこの相手が予想するどちらの行動をとったとしても構わない。
元より目的だった連合の軍隊の撤退については、ここまでの攻防の中で敵の注意をこちらに向けさせたことである程度支援できた。
戦闘の続行だけなら分身たちだけでも十分可能で、なんならこのまますんなり撤退させてくれた方が子供らを危険に巻き込まなくて済むくらいだ。
唯一憂慮することがあるとすれば、当初の目的だった接触の相手、【連合国の預言者】の安否がわかっていないことくらいで、それとて分身たちを残して戦闘を続けるならどこかの段階で捜索を試みればいいと、そう考えていたのだが――。
『――ッ、なんだ……!?』
高草に囲まれたその中央、そびえる樹木の城砦のその中から、空中に何かが飛び出すのを複数の分身がその視界に捉えて声を漏らす。
これまでの雹の弾丸とは違う相当な大きさ。それらが空中でバラバラに散らばって、さらに途中で発火しながらトーリヤ達の散る森の各所へと落ちてくる。
『――と、なんだ、こっちを狙ってるわけじゃ――、ぉ、ご――』
『例の毒ガスだ――!! 枯枝の塊に火をつけて、そこから発生する毒素をこっちを殺すために使ってきてるぞォッ――!!』
「――エルセ、後ろでガスがつかわれてる……!!」
意識でつながる向こう側、分身たちが気づいて叫んだその事実を本体からそばにいるエルセへと伝え、防ぐ手段の限られた攻撃に四人がそれぞれ警戒を強める。
とはいえ、如何にトーリヤ達が警戒したところで、まだまだ相手が手の内を隠し持っているとあってはさすがにすべてに対応することなどできようもなかった。
「――こっちにも、来る――、前――!!」
エルセの念動力によってその背中に張り付けられ、走る彼女の背中で後方を警戒していたシルファが何かに気づいてそう声を上げる。
言われて見据えた先、弧を描くようにして上空から落ちてくるのは、思いのほか小さい丸みを帯びた塊。
(――なんだ、あれ――、果物……)
それはやけに形のいい、まだ幼いトーリヤの本体、その手にすら収まってしまいそうな、小ぶりな何かの果実のように見えて――。
「――ッ、まさか――!!」
次の瞬間、降ってきた果実が地に落ちると同時に内から爆ぜて、恐ろしい速さで成長して枝とも根ともつかない樹木が枝分かれしながらこちらへ押し寄せてくる。
「これくらい――!!」
「――ダメだ、受けるな……!!」
押し寄せる樹木の津波をエルセが受け止めようとしたその寸前、叫びをあげたレイフトがトーリヤを左手に抱えたまま一気に加速して斜め前へと離脱する。
「ッ、しまっ――」
「エルセッ……!!」
直後、念動力場に守られたエルセが背中に張り付けたシルファ諸共樹木の津波に飲み込まれ、触れることはできずとも動きを封じる大量の樹木がすさまじい速度でその勢いを増して飲み込んで――。
「【来光斬】……!!」
次の瞬間、伸びる樹木の根本、先ほど果実が落ちたあたりの木の幹を、木剣から光の刀身を伸ばしたレイフトが振り上げる動きで地面ごと断ち割り、両断していた。
起点となった果実、否、それよりもむしろ地面に潜り込んだ根とのつながりを立たれたことが原因だったのか、すさまじい速さで伸びていた樹木の成長がそこで止まって、けれど敵の攻撃はそれでは収まらない。
「まさか……、この短時間で実までつけたのかこの樹は……!!」
押し寄せてきていた樹木の津波の各所、少ないながらも先ほどと同じ果実がいくつも実り、地に落ちて、直後にその実をめがけて先ほどは知覚できなかった魔法の感覚が、行使される瞬間をあたりに知らしめる。
「やっべ……!!」
「のぉわっ――!?」
再び押し寄せる樹木の津波に、レイフトはトーリヤを左手で抱えたまま地を蹴って跳躍、付近にあった樹木の幹を立て続けに蹴ってその場から離れるように跳躍すると、念動によって木剣を腕に張り付け、自由になった手で適度な枝を掴んで攻撃圏の外でぶら下がる。
「思ってたよりやばいなこの植物。一度の攻撃が次の攻撃の、文字通り種を無数に撒く仕様になってやがる」
「嘘だろ……、マジかよ……」
一個の果実から伸びた樹木が複数個の果実を実らせて、その果実がまた劇的に成長して次なる果実を無数に実らせ、まき散らす。
否、それだけではない。
どこかの段階で発火能力によって火を付けたのか、最初にこちらを襲ってきた樹木がいつの間にか枯れ果て、燃えている。
そしてまずいことに、この敵が操る植物が、燃えることによって毒気を発することはすでに確認済みのことなのだ。
無論先ほどまで相手にしていた高草とは違う植物ではあるのだろうが、この状況で火までつけているこの樹木が毒攻撃に対応していないなどどう考えてもありえない。
「距離を空けたから無事ではすんだけど、これを繰り返された日には――」
「――ッ、レイ。後方七時方向、大体二百メートルほどの距離でも状況の変化だ」
危機感を共有する長男に対して、ふとトーリヤは分身越しにそれに気づいて掴んだ情報を共有する。
「植物と一緒に、恐らくはこの攻撃の術者が一緒に降ってきた。――けど、ぁ、ぇ……こいつは……」
「どうしたんだよ?」
分身越しに見えた相手の姿に、トーリヤは思わずその外見的特徴を言いよどむ。
なぜなら姿を現したのは年のころ二十歳前後といった様子の、金髪を長く伸ばした細面の男。
そんな男がなぜか全裸で、植木鉢のようなものを高下駄のごとく両足に履いて、とどめとばかりにその鉢から伸びる蔦を体に巻き付け、かろうじて広がる葉により体の各所を隠しているという、少々筆舌に尽くしがたい衝撃的な姿をしていたのだから。




