4:ちぐはぐな勇者たち
(……にしても、なんとも子供らしくねぇガキだよなぁ……)
自身の隣でなにやら頭を抱えている少女、年齢を聞けば今年の夏でようやく八歳になったばかりというトーリヤのその様子を横目に眺めて、バルトルドは心中で何となしにそう呟く。
他人の治療ができる魔法の腕もさることながら、目の前にいるこの少女に対してバルトルドが子供らしくないと思ったのはその言動についてだ。
口調がやけに男っぽいのもそうなのだが、今日まで話していてもこの少女の言動はやたらと理知的で、正直バルトルドはトーリヤと話していると幼い少女と話しているというより同年代の男と話しているような気分にさせられる。
(どこでどんな育ち勝たしたらこんな風になるのか――、いやまぁ、それを言うなら他の三人にしたって同じなんだけど)
実のところ、バルトルドのように猟兵などやっていると、年若かったり幼かったりする子供が猟兵をしている状況というものにはちょくちょく遭遇する。
そもそも猟兵というやつは極論誰でもなれるような職業だ。
猟兵になるのに特に資格などがいるわけではなく、その辺の巨獣を狩って肉だの皮だの、状況によっては死体丸ごとだのをそれを取り扱う店にでも持ち込めば、その段階ですでに一つの実績を持った猟兵を名乗れてしまう。
無論、猟兵だって楽な商売というわけではなく、他の猟兵の縄張りに踏み入って騒動になったり、仕留めた獲物の処理が悪くて肉や皮を買い取ってもらえなかったり、獲物の死体丸ごとを持ち込んだ結果解体の手間賃としてもうけのほとんどを持っていかれたりと、そもそも命がけであるという前提以外にも様々な苦労や厄介な問題がついて回る職業ではあるのだが、それでもなることそれ自体の敷居は決して高いものではないのだ。
それゆえに、猟兵になる人間というのは実に多種多様で、畑を告げなかった農家の次男三男から、似たような境遇の商人上がり、傭兵まがいの連中や騎士崩れと老若男女様々で、その中には当然年若い子供といっていい年齢のものや、もっと言えば親のいない浮浪児などが食い詰めて猟兵の真似事をしているという例も少なからずある。
ゆえに、実のところトーリヤ達程度の年齢の子供が猟兵になっていることそれ自体は不可解とまでは言えないのだが、問題なのはバルトルドの目から見たこの四人がそうした猟兵のどのパターンにも当てはまらないという点だ。
(なんつぅか、食い詰めて猟兵になったって感じじゃねぇんだよな……。全員血色はいいし体つきもしっかりしてるし……)
四人の体つきは、この年で猟兵などやっているにしてはしっかりしたものだ。
この辺りは最近十四歳になったというレイフトという少年と、もうすぐ十三になるらしいエルセなる少女が特に顕著だろう。二人ともバルトルドの知る同年代の子供らより背が高く、肉付きもいいため聞かされた年齢より一歳以上年上に見える。
(――まあ、あっちのエルセってこの場合肉付きの良さの意味が若干変わってくるが――、――ってやべっ……!!)
杯を傾けながら何となしに向けた視線に気づかれたのか、エルセがその鋭い目つきをこちらに向けて、バルトルドは慌ててそれをごまかすように目をそらす。
なお、名誉のために言い訳しておくならバルトルドが慌てているのは決して邪な考えを抱いていたからでもそれを悟られるのにビビったからでもない。
実際にその邪な考えの元行動を起こして、ひどい目に遭った人間を昨日さんざん見ているからだ。
巨獣を相手に体を張る性質上、猟兵というのはやはりというべきか男社会だ。
一応女の猟兵というのもいないわけではないらしいが、少なくともバルトルドが会ったことがない程度には数が少なく、そして腕っぷしが自慢の男ばかりが集まる関係上、その印象にそぐわない相手への風当たりが強い。
恐らく昨日見たその男は、年端もいかない子供の集まりであるこの四人が自分達よりはるかに強いらしいというそんな話が気に食わなかったのだろう。
うわさ話を聞きつけて駆けつけたものの魔物退治の現場に間に合わず、そのせいで四人の実力を知らなかったその男は、中でも片腕を吊り下げてけが人のように見え、それでいて年齢以上の魅力を備えたエルセという少女に目を付けた。
本人にしてみれば、周りに持ち上げられていい気になっている小娘に身の程を教えてやろう、くらいの軽い気持ちだったのかもしれないが。
結果的にその男はエルセに手を出して、そしてその手を少女の胸元に張り付けたまま一日引きずり回される羽目になった。
否、正確に言うなら『張り付ける』という表現は正しくない。
なにしろその男は結局エルセに触れることさえできなかったのだ。
ただ少女の胸元に伸ばした手が触れる寸前の位置で何かに阻まれて、そのままその位置から引きはがすことができなくなって、その後その男は魔物襲来の後片付けを手伝うエルセに、胸の前に手を固定されたままほとんど一日中引きずり回されることとなった。
正直バルトルドは、その名前もろくに知らない男の一日を思い出してゾッとし、同じ男として多少の同情すら覚える。
胸の手前で固定された手を引きはがそうとしてもピクリとも動かず、その状態で動き回るエルセの移動を阻むことすらできずに、ひどいときには手が張り付いた状態のまま歩く少女に引きずられるありさま。
見た目は華奢な少女だというのに、エルセという少女は大の男が全力で踏ん張ってもあっさりと引きずって歩き回り、挙句の果てに男が殴りつけようとした左手すら頭の後ろに張り付けて、男が何をしようとしたのか明らかな状態で町中を引き回す始末。
本人は表情一つ変えずに男の存在そのものを無視していたが、あの様子を見ればエルセの性格、その苛烈さと気の強さは嫌でもわかる。
結局男は最後まで見向きもされぬまま丸一日町中を引きずり回された挙句、他の三人と合流する夕方あたりになってようやく、ごみでも捨てるようにあっさりと地面に放り出される形で解放された。
一夜明けて、朝も早いうちにそそくさと街を出ていった当たり、問題の男も自分が些細な悪意から醜態をさらした自覚はあったらしい。
実際男の様子とそれを成したエルセの話は一夜のうちに町中に広まっており、ただでさえ強いと知れ渡ってた四人の子供らを手出し厳禁な存在として知らしめていた。
一応、けが人が治療などで接していて交流があったトーリヤなどは気安く話せるが、それ以外の三人とは本人たちが積極的に交流を持とうとしないこともあってみな遠巻きに眺めるような態度をとるモノばかりだ。
(まあ別に、誰かれ構わず噛みつくわけじゃないし、むしろ礼儀ってやつはしっかりしてるくらいなんだが……。もしかしてどっか良いとこの坊ちゃん嬢ちゃんの集まりだったりするのか……? いや、それにしちゃ護衛の一人もいないってのはやっぱ不自然だし――。お貴族様とまではいかなくともどっかの騎士――、商家の――、うーん、けど変なところで常識がかけてて田舎者みたいにも見えるんだよなぁ……)
ごまかすように逸らしていた思考が飲み干した酒精によって引き戻され、バルトルドはふたたびこの四人組の不可解な部分について考える。
服装などは質素でいかにも平民といった感じなのだが、ところどころにその凶暴さゆえに獲物として狙う上で危険が大きく、それ故高級素材とされている激昂鳥の皮らしきものがつかわれているあたりちぐはぐさがぬぐえない。
そうかと思えば、武器の類は全員がナイフらしきものを腰の後ろに装備しているくらいで、あとはせいぜいレイフトが武器と呼ぶには心もとない木剣を二振り腰に差している程度。
一昨日の戦いでこの四人が魔法を用いて戦う様子を目の当たりにしているため、禄に武器がなくても戦えてしまうことはさすがにバルトルド達も把握しているが、実力に反して装備にあまり気を使っている様子がないのは猟兵であるバルトルドの目からは少々不可解なものに見えてしまう。
(――まぁ、訳ありなら深入りはしない方がいいだろうし、そこはもう『勇者様だから』ってくらいに考えておく方がいいのかもしれんけどよ……)
世の中には、ごくまれに強力な魔法を使えるようになって成り上がる、それこそまるで【勇者】のような英雄・英傑もいるのだというし、そんな子供が四人もそろっているのは不自然ではあるが、かといってバルトルド自身はそのあたりの事情を深く追求するつもりはなかった。
目のまえの少女にしても、下手をすると大人の男である自分よりよっぽど強くしっかりとしている可能性すらあるし、ここはもう世の中にはそういうやつもいるのだと、そう割り切っておくのが一番いい気もする。
「……まあ、いいや。――ちょっといいか?」
そんな風に考えていると、何やら懊悩に一区切りつけたらしいトーリヤが他の客に酒を運んで戻ってきた店主に声をかける。
「本来の用事だ。ちょっと聞きたいことがあるんだが――、ああ、その前に適当に料理を頼めるか?」
「――一応ここは酒場なんだがな」
「俺らが飲めるなりに見えるかよ。ああ、それともミルクでも頼めばいいか?」
「あ? 牛の乳だ? そんなもん牛飼ってる農家にでも行かなきゃ飲めねぇよ。チーズならうちでも置いてるが、それじゃダメなのか?」
「牛乳を飲む習慣がない、だと……!?」
店主の言葉になにやら衝撃を受けたような顔をしながら、けれども店主に促されてトーリヤはすぐさま気を取り直す。
「それで、なにが聞きたいんだよ?」
「――ああ。俺ら以外の勇者、もしくはそれ以上の知名度を持ったここ最近の有名人について」




