5:四人の英傑たち
旅をする中で調べてわかったことだが、この世界には現在大国と言われる規模の国家が五つ存在している。
一つ目が、現在トーリヤ達がいるヴィディアン王国。
大陸の南西部に位置し、温暖な気候と肥沃な大地に恵まれた豊かな土地で、海に面しているため海運業も盛んであるものの、西側にある大海に強大な魔物が現れて以降進出した船が軒並み消息を絶つようになってしまい、海が事実上の行き止まりになってしまったことである意味ではこの大陸の西の果てとなってしまった国でもある。
次に、この世界における巨大宗教の総本山を要するハルメリア聖教国。
こちらは大陸の中央を占めているほか、宗教国家という性質上いくつもの小国を傘下に収めており、他の大国であってもおいそれと手は出せない、この世界の覇権国に近い立ち位置を占める国といえるかもしれない。
そんな聖教国を挟んで北側に横に広く存在しているのがグラスロウ帝国。
こちらは北方の国家にありがちな典型的な軍事大国で、歴史的にも頻繁にあちこちの国と戦争を行い、この世界の地図を複雑化させる一つの要因となっている。
変わって東方、大陸の南側で王国と隣接しているのが、この世界では珍しい連合制を採用しているというオーベンバント連合国。
温暖な気候を存分に活用した農業国家で、聖教国や帝国と比べれば大きさでは劣るものの、昨今では商業も盛んで経済力については今最も勢いがある国家と見てもいいかもしれない。
最後に、その連合国を挟んで王国とは大陸の反対側、東部に位置しているのがサイエン仙導境。
こちらは大国と呼ばれる五か国の中では比較的産業面での特色は少なかったが、身体強化を基軸とした独特の魔法運用と、それを極めた【仙】と呼ばれる者たちによって統治された国で、加えて昨今は巨大な技術革新が起きて新技術が世界を席巻し始めているらしい。
これ以外にも、大国に挟まれた小国などが無数に存在しているが、この世界における主だった大国はこの五つ。
そしてこの五つの国のうち王国以外の四か国に、どうやら昨今巨大な変化をもたらした驚異的な人物たちが現れているらしいのだ。
それこそが――、
――聖教国の聖女。
絶大なカリスマによって多数の信徒をまとめあげ、国内の社会システムの不備を劇的なまでに最適化して見せた変革者。
――帝国の天帝。
帝位継承権では最下級の地位にいながら、その圧倒的なこの力で他の有力候補たちを淘汰して帝位に突いた絶対王者。
――連合国の預言者。
未来を予知する人知を超えた力によって、国の行く先を阻む要素すべてを回避させ、あるいは先回りして対応させることで国内産業の発展に貢献した異能の持ち主。
――仙導境の賢者。
もともと魔法を組み合わせた武術を探求する武人の国だった仙導境に生まれ、そんな国内で他国にもない先進技術を次々と確立して見せた異端の天才。
そして今、この五大国に名を連ねる王国にも、他の国の傑物たちに並ぶ王国の勇者と呼ぶべき存在が――。
「――なあ、それってさぁ、他の国にはすごいやつらが表れてるのにこの国には表れてないから、同じ大国なのにこんなのは沽券にかかわる、って言って目立つ活躍をし始めた俺を勇者に祭り上げようって話なんじゃ……」
「――お、お前も気づいたか? ま、少なくともお偉いさん視点ではそういうことなんだろうな」
恐らく他の大国に次々と英傑達が出現しているにもかかわらず、自国にそれに匹敵する存在がいないことに思うところのあるお偉いさんが一定数いたのだろう。
勇者という呼称も、魔物が存在するこの世界で、それを討伐する英雄的活躍をした人物にこの国で送られる称号を使いまわしたものらしく、そうした要因がレイフトを勇者と持ち上げる事態にある程度繋がっているのだと推察される。
実際この国の歴史をひも解けば、様々な理由で勇者と呼ばれた人物が過去の時代にもいたらしく、なにを隠そう現在の王朝の初代国王がその【勇者】と呼ばれた人物の一人なのだとか。
ただし、その一方で。
他の四大国に現れたという四人の傑物、その情報にトーリヤが持つ情報を組み合わせると、市井の人々の視点で見た時とはまた別のものが見えてくる。
「……んぅ。トーさんは、その四人がトーさんと同じ異世界から来た勇者なんだと思う?」
「可能性は高いと思う。詳しいことは会ってみないとわからないけど、それぞれの国で劇的な活躍をしてるってのも、転生特典の能力や前世の知識を活用してのものならいろいろと納得ができるし」
その手の話を知るトーリヤの目から見れば、例えば仙導境の賢者が行っている技術革新などいわゆる『前世の知識で生産チート』そのものだ。
天帝と聖女にしても、すでに国家を牛耳るほどの立場に上り詰めている様子だし、転生特典の能力と幼少期から大人としての人格を有する転生者の特性を考えればそれほどのことができたとしても不思議ではない。
(未来を知る預言者についてだけはよくわからないんだが……。まさか前世でこの世界の未来をゲームでやって知ってました、とかじゃないよな……?)
魔王に対抗する戦力として異世界転生するというフィクションみたいな境遇に置かれているトーリヤだったが、さすがにその話がある程度正鵠を射ただけのたとえ話であることは理解している。
故に、さすがにそんなところまでフィクション的な設定を背負った人物がいるとは思っていないわけだが、ではその預言者というのがどのような存在なのか、他に当てがある訳でもない。
あるいは、あと一年後に魔王が襲来するという情報の出所がその預言者なのではと思ったこともあるが、そちらについても現状では真偽不明のままだ。
そもそもの話、この世界に送り出された時の状況や四年間の島暮らしの影響もあって、現在のトーリヤは他の勇者たちに比べて圧倒的に情報弱者の立場に置かれているはずなのだ。
ゆえに、トーリヤは【勇者一行】として名を上げつつ他の勇者と思しき人物の情報も集めて接触を考えていたわけだが、しかしその勇者たちにしてみても全く不安がないという訳ではない。
『――ああそうだ、最後に一つ。君と同じ、魔王に対する他の勇者の連中についてだけど――』
『――絶対に分かり合えないから、くれぐれも気を付けて』
詳しい事情が何一つ分からないまま今日を迎えてしまっているトーリヤだったが、だからと言って送り出される寸前にかけられた注意喚起の言葉まで忘れているわけではない。
同じ魔王に対する勇者という立場にありながら、絶対に分かり合えないとまで言われた他のメンバーについての言及には、それが先入観になりかねないとわかっていても重く受け止めずにはいられない言葉だった。
(けど、そこまで分かり合えない相手って印象は受けないんだよな……。まだ噂話を集めてるだけの段階だから、正確な情報まではつかめていないのかもしれないけど……)
現在話に聞いている四人の勇者候補たちについて、聞こえてくる噂は決して危険や邪悪さを感じるようなものではない。
トーリヤなど、決して分かり合えない転生勇者と聞いて、他のメンバーが勇者という立場に胡坐をかいて好き勝手やっているのかとも思っていたが、聖教国の聖女や仙導境の賢者などはわかりやすく国の発展に貢献しているし、帝国の天帝なども仰々しい肩書に反してそこまで強権的な政治で国を治めているわけではない。
唯一、連合国の預言者についてだけは気難しい変人のような噂が聞こえてくるが、それでもその預言によって国に恩恵をもたらしているあたり、決して分かり合えないと思わされるような、蛮行に及ぶ人物という印象は抱かなかった。
むしろ客観的に見れば、かく言うトーリヤ自身の方が勇者全体から見れば立派な問題児に思えてしまうくらいだ。
(問題行動を起こした覚えはないが……、まあ、足手まといって意味じゃ俺が一番の問題児だよなぁ……)
なにしろ他の四人に比べれば勇者としてこの世界に送られた時期が最後発。
その上まともに事情を把握しておらず、さらには四年間も島に閉じ込められてまともに活動できていなかったという始末である。
客観的に見えても、他の勇者たちに比べて相当に出遅れてしまっていることは確実で、正直足手まといと判断されて追放されたとしても文句が言えないレベルである。
正直に言えば、『絶対に分かり合えない』とまで言われた事前情報よりも、そうした自身の出遅れ具合の方がよっぽどトーリヤの中では気が重い。
(――それでも、だ……)
それでも、魔王襲来まで一年を切っていると思しき今、トーリヤとしては他の勇者たちと接触しないわけにはいかないのだ。
これまでは、まだ情報収集の段階だったために国内での知名度向上に重点を置いていたが、勇者と思しき者たちの情報が集まって、その上さらに現在位置にいたるまで判明したとあっては、いよいよ接触を先延ばしにするわけにはいかなくなる。
「四人の内三人は現状すぐ会えそうにない。国とのつながりが強いからそれこそ国の中心部に行けば住所くらいはわかるかもしれないが、あっさり面会できるような立場とも思えないし、そもそも物理的な距離も遠い。
けど最後の一人、【連合国の預言者】だけは話が別だ。」
現在トーリヤ達が向かっているのは、隣国であるオーベンバント連合国に存在する、王国に比較的近い国境近くの村だ。
どうやら四人の中で唯一【連合国の預言者】だけは、他の三人と違って国の中枢と繋がり首都などに住むことなく、それどころか田舎に引きこもってほとんど人と接触しない世捨て人のような生活を送っているらしい。
他の三人は距離的にも遠く、立場的に面会も難しいが、この予言者であれば現状のトーリヤ達でも面会がかなうかもしれない。
幸いにして、現在トーリヤ達がいるのはヴィディアン王国の中でも比較的南東の国境線に近い地域だ。
無論、王国自体それなりの面積があるので近いと言える距離ではないが、分身の馬を使えば数日でたどり着けるあたり行けないほどの距離ではない。
そんな考えの元、トーリヤはひとまず分身たちを先行させつつ、三人の子供らと共に連合国に接する国境付近を目指していたわけだが――。
「――あ? なんだこりゃ……、どういう状況だ、これ?」
目のまえに広がる光景、ではなく、分身を通してみたその光景に、思わずトーリヤは馬上でそうこぼしていた。




