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テンセイ者たちのエキサイトライフ  作者: 数札霜月
第二章 転生預言者の■■■ライフ
30/35

3:旅路の成果

「んむ……」


 目を開けて、見える天井に己の現在の居場所を確認する。

 この四か月の間に身についた新しい習慣。

 目に見える周囲の光景で、それによって呼び起こされる自身の記憶で、そして何より、自身を抱き枕にして眠るシルファの存在によってこの自分がどの(・・・・・・・)トーリヤなのか(・・・・・・・)を思い出して、トーリヤは最後に自身の目をこする小さな手を眺めて自分のいる状況を把握する。


 現在トーリヤ達が泊っているのは、二日ほど前に訪れた比較的大きな町の、そのはずれにある空き家の一つだ。


 到着早々に町に迫っていた魔物を討伐するという衝撃的な活躍を遂げたことで町長らしき人物から熱烈な歓迎を受けて、戦闘直後の後始末に協力する必要もあって、ひとまずの宿としてこの空き家に逗留させてもらっている。


 実のところ、当初はこんな空き家ではなくそれこそ町長の屋敷など人が世話をできる宿泊先を進められたりもしていたのだが、あまり人に見られたくない手札を頻繁に用いて生活しているトーリヤ達にはこうした空き家の方が都合がよかったため、町はずれにあるこの場所に宿泊する形をとっていた。


「――ぁふ……。おはよう……」


「おう、おはよう……。今日はちゃんと自分で起きられたな」


「んぅ……、待って、意識起動……、あと二秒――」


 同じ寝床を使っていたシルファがひどくぼんやりした様子でそう呟いて、そしてきっかり二秒後、その言葉通り、まるでスイッチでも入ったがごとく目をぱっちりと開いて動き出す。


「んっしょ、それじゃ、さっそく走りにいこ」


 シルファはさっそくとばかりに長い髪をまとめて、本来はそこまで(・・・・・・・)好きではない(・・・・・・)早朝ランニングへとむけ、張り切った様子でてきぱきと素早く着替えを済ませていく。


 その様子にトーリヤが複雑な気分になりながら、すでにいろいろな意味で今更だと思い直して、自身も置いて行かれぬよう準備を進めることにする。


 身支度を整え、それと並行して自身のそばにU(ユニフォ)の名を持つ、トーリヤを男にして二、三歳成長させたような外見の少年型分身を一体生成。爬虫類の皮で作ったような下着、鱗皮服(スケイルウェア)の上から用意していた衣服を着せて最悪人に見られてもいいよう体裁を整える。


「んじゃ、あと頼んだ」


「ああ、任せとけ」


 荷物の中から調理器具を取り出し、食料をあさる少年型の分身と簡単に会話を交わし、トーリヤは朝食の準備をその一体に任せるとシルファを追って外に出る。


 案の定、家の中にいなかったレイフトとエルセはすでに起き出して、それぞれ動きやすい格好でそれぞれ木剣と短剣で素振りを行っていた。


「――おう、二人ともおはよう」


「おはよう。起こす手間は省けたのね」


 家から出てきたトーリヤ達に対して、レイフトが朝から明るく、エルセの方が表面的にはそっけなくそうあいさつしてくる。

 様子から見て、この二人はすでに付近の、あの家を借り受けてすぐ目をつけていたルートをひとっ走りしてきたのだろう。


 普段の訓練から考えればすでに筋トレも済ませ、恐らくこの後は二人で朝食まで模擬戦でもしていることだろう。


 軽い準備運動を行いながら、多少の訓練をしたもののさっぱり肉がつかなかった本体(じしん)の貧相な体を眺め、トーリヤはこの体だってまだまだこれからだと思いつつ体と体力づくりのために出発することにする。


 ついでとばかりに、昨晩就寝前に一度消滅させていた馬の分身を二体連続で家のそばへと現出させながら。


「一応今日の予定だけど、この後飯食ったら例の酒場に顔を出すつもりだから、三人ともそのつもりで準備しててくれ」


「りょーかい」


「いつかみたいにさらわれないでね」


「さすがに今回は……。俺らも顔が知れてるみたいだし、手を出してくる奴はいないと思いたいが……」


 島から陸に渡ってすぐ、人里に到着して早々トーリヤの本体が誘拐された事件を思い出し、トーリヤは若干嫌そうな顔をしてからシルファを追う形で走り出す。


 昨日までのこの町の様子を鑑みて、早ければ明日には次の町へと旅立てるかと、頭の中でそんな算段へと思考を移しながら。







 トーリヤとしては意外な話だが、この世界には和製ファンタジーに存在する冒険者のような職種が本当に実在している。


 【猟兵】と呼ばれる、狩人と傭兵を足して二で割ったようなその職業は、この世界に生息する危険な巨大生物を相手に狩りをしたり、あるいは人里近くに現れた危険生物の撃退や退治を請け負ったりして生計を立てている者達で、戦闘を生業として危険生物(モンスター)を相手にしているという意味でトーリヤの思い描く冒険者に近しい生き方をしている人々だった。


 そしてそんな冒険者に近い【猟兵】が存在しているのと同じように、前世における冒険者ギルドに近い施設というのも一応ではあるがこの世界には存在している。


 とはいっても、こちらはただ猟兵たちがたまり場にしている酒場が自然とそうした役割を果たすようになったというだけの話なのだが、基本的に電話はもちろん郵便事業さえ整備されていないこの世界において、近隣の町や村落から猟兵に仕事を依頼する際の仲介業者や情報屋のような役割を負っており、国を股にかけた組織でこそないものの、ある程度情報が集まる場所として猟兵の集まる酒場はギルドに近い組織として機能していた。


 そんな猟兵たちの集まる酒場に、まだ日も高い昼頃、何か情報が得られるかと考えトーリヤ達四人が訪ねて行って――。


「よぉうっ、勇者様御一行じゃねぇか……!! よく来たな……!!」


 昼間から酒を喰らって騒いでいる、ダメな大人の見本のようなひげ面の男の一人が、そんなトーリヤ達に上機嫌で声をかけてきた。


「おう嬢ちゃん。一昨日は治療ありがとな。おかげで今日は朝からすっかり具合がよくって逆に腹が減っちまってな」


「腹が減るのはまあそうだろうけど、病み上がりのくせして昼間から酒を飲むなよ。言っとくけど怪我の治癒に必要な栄養素にアルコールは含まれてねぇぞ」


「――くっ、はは、相変わらず何言ってるかわかんねぇ嬢ちゃんだ」


 いっそなれなれしいといってもいい大柄な男に対して、四人の中で一番幼い外見をしたトーリヤが平然と、否、若干顔をしかめながら呆れた様子でそう応じる。

 とはいえ、そうやって平然と対応できたのはあくまでもトーリヤ一人だけだった。


「――ん、ふ……。誰……?」


 投げかけられた巨大な声にビクリと肩を震わせて、とっさにトーリヤの後ろに回って服の裾を掴んでいたシルファがそう聞いてくる。

 島から出てわかったことだが、四年の歳月の中で身も心も成長し、下手な大人などよりはるかに強い力を得ておきながら、この娘はいまだ大人の男に苦手意識があるらしい。

 あるいは、長らく島の中で身内としか接してこなかったが故の人見知りのようなものなのかもしれないが。


「ほら、一昨日の魔物との戦いに参加してた猟兵の一人だよ。名前は確か――、そう、名前だけは強そうなバルトルドさん」


「――ほっとけ。お前ら四人に比べたら弱そうに見えるかもしれねぇけど、こっちだって別に実力が伴ってねぇわけじゃねぇんだよ」


 トーリヤ達四人の内、トーリヤだけがバルトルドと知り合っている理由は実にシンプルだ。

 おととい行われた魔物の討伐時、他の三人がその魔物を討伐するその間に、トーリヤの方は負傷して動けなくなっていたバルトルド達猟兵の生き残りを一人で治療して何人かの死にかけていた者たちの命を救っていたのである。


 トーリヤの方も一応それなりの治療代は請求していたが、それでも猟兵たちの中には命に関わったり、あるいは何日も引きずるような重症や、一部猟兵をやめなければならないような怪我を負っていたものも多く、そんな負傷がたった一日で治ってしまったためか本気で高いと抗議してきた相手は一人もいなかった。


 もっともこれは、単純に昨日の戦いに参加していた猟兵たちにそれなりの収入があったというのも理由としては大きいのかもしれないが。


「そういやお前さん、もう魔物討伐の賞金は受け取ったのか?」


「ん? ああ。なにぶん子供の集まりだからもっと舐められるかと思ってたけど、この町の有力者――、町長? のところに行ったら、領主の使い高っておっさんからすんなりもらえたよ。それも結構色付けて」


「はッはぁ……。そりゃお前、噂の勇者様御一行相手に支払いをけちるような真似はしねぇだろうよ」


「――勇者様、ねぇ……」


 この町に滞在したことで知った話だが、どうやらトーリヤ達四人の存在はすでにこの辺り一帯では噂になっていたらしい。


 曰く、子供だけの四人組で立て続けに魔物を討伐している一団があるらしい、と。


 それ自体は別に不思議でも何でもない。

 島を出て大陸を旅し始めてから早三か月、その期間の間にトーリヤ達が海竜以外にもすでに二体の魔物を討伐していたのは紛れもない事実だ。

 問題があるとすれば、それは――。


「お前も鼻が高いだろ。血がつながってんのかどうかは知らねぇが、それでも兄貴分が(・・・・)勇者様って呼ばれるようになってるのは」


「――ああ、うん。まあ、途中からそんな気はしてたよねぇ……」


 バルトルドの言葉に、トーリヤは付近のテーブル席で、エルセと二人でシルファを守るように酒場の男たちにどうにか対応している、外見だけなら四人の中で最年長に当たるレイフトの方へと視線を向ける。


 実のところ、トーリヤ達の存在が知れ渡っている、そのこと自体はある程度まで思惑の通りだ。


 魔王と呼ばれる何者か、それが襲来するという一年前にしてようやく島を脱出し、活動を始めたトーリヤ達だったが、しかし後々のことを考えた場合一年という期間はあまりにも短い。


 神ならぬあの存在が語った【魔王】なる存在がどんな相手なのかわからない、それどころかいつ、どこに、どのような形で襲来するかもわかっていない現状ピンポイントでできる対策はないに等しく、そうである以上次善の策として人類社会の巨大な情報源、具体的には権力機構や国家機関とでもいうべきものとのつながりは必須だ。


 加えて、この世界にはトーリヤと同じように、他の世界から送り込まれた【勇者】ポジションの者たちも存在しているはずなのだ。

 前世の世界を送り出される際、この【勇者】については不穏な物言いがなされていたため接触には多少慎重になる必要があるかもしれないが、有力者にしろ他の【勇者】にしろ、まずこちらが名を上げて存在を主張しなければ接触することままならない。


 そして田舎の村の片隅の生まれで、挙句島流しにあって人類社会から完全に隔絶されてしまったトーリヤ達にとって、今から必要な相手に接触できる人間になるには目覚ましい活躍を遂げる英雄として名を上げる以外に他にないのだ。


 そんな考えも相まって、トーリヤ達は島から渡って着てのこの三か月、各地に差し向けた分身たちの情報収集を頼みに各地を巡り、その過程で二体の魔物を仕留めることに成功していた。

 さすがに海竜に関しては獲物が強大すぎるため手柄を主張しておらず、代わりに今回あの蝸牛の魔物を仕留めたことで三体目の魔物討伐となったわけだが、この国で年間に発生する魔物の数が両手の指の数に届くかどうかという話を考えれば、三か月で三体はいっそ破格のペースである。


 唯一問題があるとすれば、それは勇者として知れ渡っているのが本来その役割を引き受けたトーリヤではなく、その子供であるレイフトになってしまっていることなのだが。


「うわさに聞く勇者の光る剣ってやつ、ありゃ確かに噂になるだけのことはあったな。

 神々しい剣で再生する魔物をザクザク切っていく姿なんてしびれたぜ」


 本来勇者の役割を請け負っているトーリヤに代わって、周囲から勇者と見られ、この四人組(パーティ)中心(リーダー)と見られているのが、今まさに他の二人をかばう形でひげ面の猟兵たちとぎこちない会話を交わしているレイフトだ。


 理由については、もはやそれほど語る意味もないだろう。

 年若い一行の中でも最年長の少年(おとこ)、加えて【斬来光(サンライザン)】という固有魔法の性質は、どうやらそれを見る者たちに聖剣とか勇者といった言葉を想起させるのに十分な効果を発揮したらしい。

 そもそもの話、仮にレイフトがこの一行の中心として見られていなければ、トーリヤ達四人は恐らく【勇者様御一行】などとは呼ばれていなかっただろう。

 それほどまでに、レイフトの戦闘スタイルが与える印象は【勇者】という言葉の印象と一致しており、だからこそトーリヤ達はわかりやすく噂となって広まっているといえる。


 ではその一方で、レイフト以外の四人がどのような目で見られ、評価されているのかといえば――。


「もちろん嬢ちゃんたちもすごかったと思うぜ?

 まあ、嬢ちゃんがこんなに簡単に人間のけがを治せちまうなんて噂にはなかったが、あの怪我をあっという間に直せるとあっちゃ、勇者様御一行にいるのも納得ってもんだ」


「――ああ、うん。大体わかった」


 確かによくよく思い出してみると、今回のように人前での戦闘を行った際に、トーリヤは周りから見てもそうとわかるような華々しい活躍はしていない。


 実際には、今回の魔物の出現情報の収集や、駆けつけるための足となる馬分身の生成、戦闘中の情報支援など一定の役割は果たしているのだが、そんなものが周囲で見ている人間に理解できるわけがないのだ。


 そもそもの話をするなら、トーリヤは名を売ることを目的としつつも危険すぎる力の持ち主とみなされることも懸念して、【生体転写】のようなわかりやすく驚異的な力は人前では使わないように立ち回っている。


 恐らくは昨日トーリヤがバルトルド達の怪我を治療するまで、世間一般ではトーリヤについて、他三人と違ってさほど役に立つ存在とはみなされていなかったのだろう。


 治癒魔法という、この世界の医療レベルと照らし合わせても破格といっていい能力を人前で行使したから単なる道連れとはみなされなくなったが、これまではやたら強い勇者一行三人組にくっついている、一人だけ役に立たない末妹程度の存在としてみなされていたというのは、ここまで聞いてしまえば十分に予想できる話だ。


 少なくとも、外見、および肉体年齢で最年少のこの少女が、実は他の勇者三人の父親であるなどとは、これまでこの【勇者一行】を目にしてきた誰一人として想像できなかったに違いない。


 結果、魔王の襲来を見越して勇者として名を上げるはずだったトーリヤは、ものの見事に育てた息子に勇者の名を奪われる羽目になっている。


(――まいったなぁ……。単純に評価されて持てはやされてるだけならともかく……。魔王襲来直前のこのタイミングであの三人に厄介な因縁を背負わせたくはなかったんだが……)


 トーリヤとて、別に子供らが評価されていることをうれしく思わないわけではない。

 血のつながらないたった四年の親子関係とはいえ、これまで育て、あるいは苦楽を共にしていた子供らが社会に出て評価されているというのは、前世では知ることのなかった誇らしさや喜びのようなものがある。


 だが一方で、すでに魔王の襲来が来年に迫っているこの状況で、戦力として知れ渡ってしまうことが身の危険につながることなど容易に想像できるのだ。

一応トーリヤの思惑としては、自身が魔王の討伐に動く際、子供らをどこかに仕官させて人類社会のバックアップを受けつつ、人類の生存圏の近くというある意味で一番安全な場所で身を守れるようにと考えての【勇者パーティー計画】だったのだが。

実際に知れ渡った【勇者様御一行】の噂は肝心のトーリヤよりもレイフト達の方がメインとして扱われる、望んでいたのとは少々違う形となってしまった。


 このままいくと、それこそ前世における勇者パーティーのイメージがそうであったように、子供らが魔王討伐のために一番危険な敵陣に投げ込まれる、トーリヤが一番恐れていた事態にもなりかねない。


(――どうしたもんかな……。今からでも能力を見せてこっちが戦力と見られるように売り込むか……? いろいろと悪さが出来すぎる能力だからもう少しマイルドな能力と偽装して――。やるなら召喚士とかビーストテイマー路線か……? いや、今回のことでヒーラー的な知られ方をしたと考えると回復職として――、けどそれじゃ戦力とは見られない可能性も……)


 ぶつぶつと、思考の一部を言葉として漏らしながら、トーリヤは望んでいたのとは違う展開にカウンター席で一人頭を抱える。


 そんな様子を、隣の席のバルトルドが不可解なものを見る目で見ていることになど気づきもせずに。

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