お楽しみは終了します
「よし、ゲットだぜ」
「は?」
エレートトレアが飛ばされた先に、ピアーニャが先回り。雲でガッチリ捕まえた。
(まさかこいつ、わたしを盾にする気か!)
先刻、部下を盾に接近された事を思い出し、魔力で防御しながら脱出を試みる。
何もかもすり抜けるドルナに盾は不要なのだが、ドルナの存在に慣れていないエレートトレアはその考えに至らない。
そしてピアーニャが直接対決の場でそんなヌルい戦術を使う筈が無いという事も知らなかった。
「くらえボルクス、パフィじきでん【エレートフレイル】!」
ぶおん
「えゐにゅおあああああ!?」
細く伸ばした雲で、楽しそうにエレートトレアを振り回した。完全にパフィの悪影響である。
武器にされ慣れてない王女は、悲鳴を上げ、涙を撒き散らしながらボルクスへと飛んでいく。奇跡的に防御の魔力は保っているようだ。
一瞬ボルクスは迷った。
(どうする? 迎撃するか、受け止めて不慮の事故するか)
とても真剣である。
しかし、上からセイングラートが飛び込んできた。
「【灼赫掌】!」
「うおっ」
ボルクスは炎の掌底を大きく回避し、セイングラートがそのまま落下。無事エレートトレアはその場を通り過ぎた。
「邪魔が入ったか」
「なんか不埒な予感がしたのだっ! 【火の弾】!」
すぐに空中に立ち止まったセイングラートが、ボルクスを見上げ魔法を放つ。
「【水流蛇】」
元々エレートトレアをキャッチする方法の1つとして考えていた水を鞭のように操る魔法で、炎の弾を迎撃。2人は硬直状態に陥った。
だが、ピアーニャが空振りしてそのまま終わるわけがない。泣き叫ぶエレートトレアの軌道を変え、セイングラートを見ながら上空を走るディランに向かわせた。
「やはり気づかれていたか」
立つ場所にのみ魔力の足場を作る【空跳躍】では、ピアーニャの攻撃の速度には対抗出来ないと判断したディランは、ここで使用する魔法を切り替えた。
「【滑走閃路】」
リジェスネイフに来る時にも使用した、やや広めの足場を作り空中を滑る魔法。常時使用する魔力が多くなるので、同時に使える魔法は限られるようになるが、今は移動速度が大事であり、人に当てる魔法は強くなくていい。しかしこの魔法にも弱点はある。
「わちのマネのマホウだな。ツカイガッテはカイゼンしたのか?」
「いや、なかなかいい手が思いつかなくてねっ」
ディランはジグザグに滑走し始めた。そのままエレートトレアを回避。
ピアーニャはエレートトレアを容赦なく振り回す。しかしディランにはなかなか当たらない。
「なんだ、しっかりタイサクできてるじゃないか」
この魔法の弱点とは、事前に移動先をある程度設定しなければいけないという事。継ぎ足しは自由だが、一呼吸分の移動は固定されてしまう。とっさの移動変更が出来ないので、一瞬の判断と反応が重要な戦闘には向いていないのだ。目的地に移動するだけならとても便利なのだが。
「いやそれはいいから! 負けでいいですからもう止めてくださああああい!」
ピアーニャの武器が降参した。
「なんだもうムリか」
「まぁ慣れてないと、誰でもこうなるだろうな」
「やはりきたえるしかないなー」
(1国に1人、ピアーニャ先生か……少なくとも悪い事はしなくなるだろうなぁ……)
顔をべしょべしょに濡らした第一王女エレートトレア、あまりの酷い仕打ちに心が折れて戦線離脱──
「ちょうどいいから、そのままブキになってろ」
させてもらえなかった。
「いきゃああああああ!!」
「女性は同じ女性に対し容赦は無い……という事か」
そういう次元の話なのだろうか。可哀想に思えたディランは、エレートトレアを迎撃するのを諦め、回避に徹する事にした。もしかしたら力づくで気絶させるよりも残酷かもしれない、と思いつつも。
チラリと下を見ると、まだボルクスとセイングラートが魔法を撃ちあっている。
それを見たピアーニャが笑顔になり、エレートトレアを振り回しながら下へと急降下し始めた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「まずい、ボルクス気を付けろ!」
上から悲鳴が聞こえた2人は、互いへの攻撃を中断し、斜め後ろに跳んだ。セイングラートだけは上に向かって1発魔法を放った。こちらもドルナの存在に慣れていないので、自然と反撃してしまうのだ。
「え?」
魔法に向かって、エレートトレアの顔面が突っ込んだ。
ボンッ
「あがばっ」
「姉上ーーーー!!」
幸い魔力で全身を防御していたので無傷である。しかし衝撃はあったので顔がおかしな事になっていた。
ピアーニャは横に飛び、意味もなく遠心力をつけて武器を振り回す。『雲塊』は高速で移動変形できるので、遠心力はそもそも必要としていないというのに。
「たすけておかーさまああああ! うわあああああん!」
将軍の威厳など完全に吹き飛んでしまった王女の悲鳴が空に響き渡る。
「あねうっ!?」
どひゅん!
姉を助けようと動こうとするセイングラートに向かって、横と上から魔法が飛んできた。
「貴様らっ!」
文句を言いたいが、そもそも2人とも最初から敵である。どうするか迷っていると、振り回されたエレートトレアが再び飛んできた。
「どうにかして姉上をっ……」
あの白い物をなんとか破壊すればと考えながら、2人からの攻撃を避けながら雲に向かって攻撃を放ってみる。しかし当然効果は無い。力を溜めずに撃つ魔法では『雲塊』を押す事すら難しいのだ。
しかし諦めるわけにはいかない。
「うおおおおお!」
何度目かの魔法を撃ったが、エレートトレアを放す気配が無い。悔しい思いをしながらボルクスからの魔法を避けた時、下から強烈な赤い光が飛んできた。
ドシュウウ!
『!?』
これには5人全員が驚いた。ピアーニャも含めて。
少し前、城の廊下ではニオが相変わらずうなされていた。その夢の中では、視界を埋めつくす程のアリエッタが、ニオを追いかけていた。
『ニオーあそぼー!』
「ひぃ、いやぁ、たすけぇ……」
そんな容赦ない悪夢の中に、さらなる脅威が現れた。
「あ、ああ……」
なんと空に大きなアリエッタの顔が現れた。とってもキラキラした笑顔である。
どんなアリエッタだろうと、ニオにとっては魂を震わせる悪夢でしかない。視界を埋めつくしたアリエッタの笑顔は、余裕でニオの限界を突破した。
「ひ、ひひ、【熱線】ァァァァァ!」
ニオは夢の空に向かって、全身全霊を込めて対象を焼き尽くす魔法を放った。
その夢は現実のドルナ自身にも影響し、目を閉じ眠った状態のまま、上に向かって手を突き出し、同じ魔法を全力で放っていた。
『……はい!?』
突然小さな手から放たれた超極太ビームを見て、その場に残っていた大人達は呆然とするしかなかった。
ニオから放たれた【熱線】は城をすり抜け、セイングラートとエレートトレア、ついでにディランを飲み込んだ。あまりに太かった為、下を見ていたディランも避ける暇が無かったのだ。
しかしドルナの攻撃なので3人には全く影響がない。驚いただけである。
影響があったのは『雲塊』のみ。
「わちのクモが、けしとんだ、だと?」
頑丈な『雲塊』が一部消滅したのだ。実際に本物のニオが撃った場合、当たった個所の灰すら残るか怪しい程の威力である。
雲が消えた事で、エレートトレアは落下していた。慌ててセイングラートが回収する。
「姉上、姉上っ」
「うえーん、こわかったよぉママぁ~」
「我はママではありませんっ」
どうやら恐怖のあまり幼児退行してしまった様子。セイングラートに抱き着いて泣きじゃくってしまった。
こんな姉上を人の目には晒せないと思い、どうするべきか悩んでいると……
「【水の弾】!」
「ちょっと待てぃ!」
ボルクスが容赦なく攻撃した。なんとか逃げ出すが、上からも容赦ない攻撃が降り注ぐ。
「いい加減にしろよ貴様らあああ!」
ピアーニャもノリで攻撃に参加する。
「待て待て待てうわああああ!」
「びえええええ!」
セイングラートは泣き叫ぶエレートトレアを抱えながら、下にある城へと逃げて行った。
残った3人は苦笑しながら集まった。もう戦意は無い様子。
「結構楽しんだし、そろそろ帰って報告書まとめるか」
「そっすね。総長は他の子に何してたか聞いてきてもらえます?」
「しょーがないな。あっちのマチだったな。あとでいくからな」
リジェスネイフをからかって満足したのか、これで本当に帰る事にしたようだ。
この後、ディランとボルクスは一足先に転移の塔がある町の宿で待機。ピアーニャはアリエッタ達を見つけ出し、本日の行動を事細かく聞き出した。
「オマエたちは、このままスキなようにすごせ。あとでわちも、もどってくるからな」(オウゾクをきたえに)
『はーい』
「あ、ニオはカイシュウしとけよ」
『はーい』
「あと、セイングラートがおちこんでるとおもうから、からか……なぐさめてやれ」
『はーい』
「ピアーニャよ!」
ピアーニャがディラン達の元に戻る前に子供達に指示を出していると、帝王が慌ててピアーニャに話しかけた。城内を回って現状を全て把握したその目には、疲れの色しか見えない。
「と、ところで城や人員がボロボロなんだが、余はどうしたらいいと思う?」
「ん~……がんばってくれ☆」
帝王は膝から崩れ落ちた。もう色んな意味で戦争は無理そうである。
今章のまとめが近い。




