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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー

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お部屋に隠れます

 アリエッタは筆を構え、


「さささっと~ほいっ」


 空中に【進入禁止】の標識を描いた。

 そしてルルーアルデとココネミットの手を取って、その場から逃げ出した。


「ちょおおおお待てえええええ!」


 帝王が全力で呼び止めるが、完全無視である。

 代わりに冷静になっていた宰相が、3人を捕える為に魔法を放つ。


「【珠封檻(プリズンスフィア)】!」

 バチッ

「!?」


 しかし拘束魔法の為に飛ばした魔力は、アリエッタの見えない壁によって阻まれた。本物に比べて耐久力は弱くとも、全てを防ぐというピアーニャのイメージは健在なのだ。

 その間に少女達は通路を曲がって姿を消した。

 近くにいた兵士がハッとし、壁に向かって走り出す。


「うおおおお!」

 バリンッ


 全力でタックルし、アリエッタの壁を破壊した。


「この壁は強い衝撃に弱いので、私が先行します!」


 先程の経験から、迷わず先陣を切る。子供達の捕獲の為、宰相を含む数名も後に続く。

 通路を曲がった先に、複数の【進入禁止】の絵があるのを見た。


「大人を嘗めるなよ。まとめて砕いてやる」


 兵士は勢いをつけ、壁に突撃した。が、壁にぶつかったと思ったらバランスを崩し、勢いよく回転しながら斜め前方に倒れてしまった。


「おどおあああ!?」

 ゴロずしゃあ

「どうした!」


 兵士はヨロヨロと立ち上がる。宰相が慌てて駆け寄り、透明の壁に手をついた。


「斜め?」

「いやがらせかぁっ!」


 兵士は悔しそうに城の壁を殴りつけた。

 アリエッタは【進入禁止】の壁を斜めに設置した。壁に十分に衝撃を与えるには、垂直にぶつかる必要がある。斜めにした事で、タックルしてくる兵士を横に受け流したのだ。


「おらぁっ!」


 改めて兵士が見えない壁を壊した。しかし、


「……次はこの方向で」

「………………」(ええいイライラするっ!)


 複数の壁は、どれも違う角度で設置されていた。透明なので触れないと角度が分からない。

 つまり、壁があると思われる絵のある場所に手を出しながらゆっくり近づき、触れたら壁の向いている方向を確認するという作業が発生したのだ。早く進まなければいけない状態でこれはストレスになる。

 さらに、ピアーニャの知能を持つアリエッタによる嫌がらせは、こんなものではない。


「……ん?」

「どうしました?」

「壁、どこだ?」


 宰相が絵の近くで壁を探し、両手をわさわさ動かし、蟹股でうろついている。

 そう、絵があっても壁があるとは限らない。ただ無駄に探す時間だけが浪費された。


「ふふふ……腹が立ち過ぎて笑いがこみ上げてきたな」

「はっはっは、そうですねぇ!」


 次に見つけた壁は、そこにいる大人達全員が一丸となり、怒りを込めて全力で破壊した。


「っていう感じに滅茶苦茶怒ってると思うのよ」

「あはは……」

「サイコーねっ」


 大人達の顔が怒りに歪み、殺意が芽生え始めている頃、ルルーアルデの部屋に辿り着いたアリエッタ達は、大人達の動向を想像して楽しんでいた。


「これでよしっと。これで堂々と歩けるね」


 アリエッタは自分の筆を、ルルーアルデの机の引き出しに置いた。王女の私物としてしまい込む事にしたようだ。

 これで現実に干渉出来なくなるが、筆に邪魔されずにドアや魔法を完全にすり抜ける事が出来るようになる。必要だと思ったら筆を取りに来ればいい。


「後はお迎えが来るのを待とう」

『おーっ』


 部屋に入る時は、筆を持った手で筆と一緒にドアノブを握って開けたのだ。筆と杖を失った以上、現実に干渉出来ないので、自分でドアは開けられない。

 目を瞑りドアを認識していない状態ですり抜ける事も出来るが、今回はそれをしないようにした。

 しばらくして、部屋の外に宰相達が辿り着いた。


「あンのガキどもぉ。絶対に許さんぞ……」

「ぜってぇ逃がさねぇ、へへへ」

「ガキだと思って調子に乗りやがって」


 顔とセリフが完全に悪党である。かなりイライラが溜まったようだ。

 城内の混乱によって周囲に人がいないのに、どうしてルルーアルデの部屋にいるのが分かったのかというと……


「ご丁寧にこんな落書きしやがってぇ!」


 ドアの横の壁に、『おじさんこちら☆』という文字と、アリエッタ達3人の簡単な顔イラストが描かれていたのだ。

 この部屋に入った事は間違いない。ルルーアルデ様が連れ込んで隠れているに違いない。そう判断し、部屋のドアを思いっきり開け放った。


「もう逃げられんぞ観念し……ろ?」


 男達の動きが完全に止まった。

 その視線の先には、部屋の中に飛び散ったおびただしい量の赤色。そして赤色の上に力無く人形のように座っているルルーアルデと、横たわるココネミット。

 さらに、部屋の中心で背を向けて立っている()()()()()()の背丈の少女。真っ赤に染まったドレス、赤く塗れた手足、先端が赤くなった銀髪を揺らし、ゆっくりと顔を上に向けた状態から首を捻り、宰相達の方に向いた。


「うふふ……」


 その顔には赤い物が垂れて、目を見開き、異様なまでに美しく整った顔の造形が、さらに恐怖を感じさせていた。


『あんぎゃああああああああああ!!』

 ばたむ!


 大人達は全力で叫んでいた。そして思わず扉を全力で閉めた。

 部屋の中の様子が見えなくなった事で、全員その場にへたり込んだ。


「あ、あああ、ああ」

「こ、腰が……ぬ、ぬ……」

「抜け……ぉぉ」


 宰相は泣いている。少女と目が合って相当怖かったようだ。

 少しの間震えながら息を整えていたが、やがて兵士がなんとか立ち上がり、携えていた杖を構えた。


「一瞬見えましたが、ルルーアルデ様とココネミット様が倒れていました。救出に向かわねば……」

「ま、待て! 中にはあのバケモノが……」

「……私はこの城に仕える身ですから」


 自分に言い聞かせるように、兵士は呟いた。その手はガタガタと震えている。

 その姿を見て宰相は冷静さを取り戻した。


「すまんな。援護するぞ」

「しかし……」

「もし勝てぬ場合は、全力で逃げさせてもらう。良いな?」

「……もちろんです。足止めしている隙に報告を」

「ああ、頼む」


 戦場では未知と遭遇し勝てぬと判断した場合、全滅よりも情報の持ち帰りを重視する。そして対策を練り、再戦するのだ。

 兵士は囮を、宰相は情報収集を担う事にした。軍事国家に住まう者の覚悟の形である。城内で覚悟を決めるのは想定外のようだが。


「3、2」


 兵士は短いカウントダウンを始めた。扉を開けるタイミングを仲間に分かりやすくする為である。


「1、うおおお!」

 バンッ


 扉を開け、全員杖を構えた。


「………………?」

「な、に?」


 部屋には何も無かった。

 赤い色も、2人の王女も、部屋の中心にいた女も。

 ただ平穏で静かな王女の部屋が、そこにあった。


「私は夢でも見ているのか?」


 ある意味その通りなのだが、そんな正解は普通想像だに出来ない。

 兵士は注意深く部屋に入り、隅々まで目を凝らした。


「何もない、ですね」


 呟いたその時だった。


「ふふっ」

「くすくす」

『ひっ!?』


 少女のような笑い声が聞こえた。普段であれば怪しい声の元を探し出そうとするのだが、先程の光景の事もあって恐怖の方が強いようだ。


「どこだっ! どどどこにいるっ!」


 恐怖を振り払うように、大声で叫びながら色々な方向に杖を向ける。しかし何も出てこない。

 緊張と恐怖と焦りが入り混じり、大人達の呼吸が荒くなっていく。

 そんな部屋の隅にある大きなソファの下で、3人の少女が口を押さえて笑いを堪えている。

 ソファの下は子供だろうと潜り込める空間は無い。しかしドルナなので物置部屋の時のように、体の大部分をソファに埋める形ですり抜けていた。


「しー……」


 ルルーアルデに窘められ、アリエッタとココネミットは身体が収まりきらない狭い空間で、口を押さえながらコクコクと頷くのだった。

 ちなみに、大人達を怖がらせた先程の光景は、アリエッタの仕業である。

 部屋を赤色で血まみれのように演出し、双子に死んだふりをさせた。そしてアリエッタ本人はキノコの絵を描き、触れて大きくなった。後は体にも赤色をつけ、不気味な演技をしたのである。

 一瞬で部屋を元通りにしたのは、『夢は目が覚めると儚く消える』という、ドルナそのものの力だった。


(うーん、なんてイタズラに便利なんだろう)


 証拠や痕跡が一切残らない恐るべき力は、ココネミットにとってはただ面白い便利機能でしかないようだ。

ホラーゲームでシャフ度演出されると怖いですよね。しかも本当に首折れてたり切れてたりしてるし。

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