上空で理不尽が開始します
エレートトレアとセイングラートは【空跳躍】の魔法を使って城の外の空中に立ち、逃げた筈のディランを探していた。
「どこに行ったのかしら……」
「空を駆けたなら見えているはずだが、城下町に逃げ込んだか?」
城の上から全方位を見渡しても、空中にディランの姿は見えない。ならば下に隠れたと考え、魔法で遠視しつつ探しているが、一向に見つからない。町から飛び出す可能性もあるので、2人で手分けして探している。
「なんだまだみつからんのか。なさけないなー」
「なんだとって、うわぁっ!」
「ピアーニャ!?」
しれっとピアーニャが混ざってきた。あくびをし、ニヤニヤと2人を見守っている。
「今はディラン王子を探すのに忙しいのだ。後で相手してあげるわ」
「おまえ、クチョウがアンテイしないなー。グンジンらしくふるまうの、つかれないか?」
「ほ、ほっといてもらおう!」
「なんだもう見抜いたのか。姉上は誰よりも繊細なのに、無理して強く見られようとしてるんだ」
「ちょっとセイン!」
(まぁこれだけかくすのヘタだとなぁ……ラッチとおなじだな)
ピアーニャは2人の邪魔をする気は無く、アリエッタ達の事を考えながら横で様子を見る事にした。
邪魔をする素振りが見られないので、セイングラート達もピアーニャの事は後回しにする事にした。
(いまごろ、アリエッタはどこかにフデをかくしただろうな。まぁアイツならカミのケをつかってエをかけるし、カンショウしなくても、やりたいホウダイだろうなぁ……。あ、ディランみっけ。まだにげるキなさそうだな。おしえたほうがいいか?)
ピアーニャは目の前の2人にヒントを出すか、答えを教えるか、迷っていた。理由はもちろんその方が面白そうだから。
迷った末に、城下町を睨んでいる2人に声をかけた。
「なぁなぁ、ディランみつけたんだが、おしえてほしいか?」
「なにっ! どこだ!」
「セイン落ち着いて! ピアーニャはディラン王子側よ。本当の事を教えると思う?」
「ぐっ、すみません。焦りました」
エレートトレアの警戒心に、ピアーニャは感心した。『敵』からの情報を素直に信じるのは危険という事を、理解しているという事である。
(さすがショウグンだな。それに、まだつよくなるヨチはある)
ニヤニヤしながらエレートトレアを見ていたが、続いてセイングラートに視線を移す。
(コッチは、カンジョウがオモテにでやすいか? だが、つよくなりそうなキがするな……)
ピアーニャはこれまでシーカー達やエインデル王家を鍛えてきたので、なんとなく人を育てる目線で考える事が多い。
そんな事を目の前の王族2人を見て考えていたら、自然と顔が綻んでいた。
「何だその顔は」
「いや? オマエらをきたえたら、つよくなりそうだなーと、おもってただけだ」
「ずいぶん偉そうな幼女だな」
「ヨウジョいうな! わちはそもそもオトナだ!」
『いやそれはおかしい』
「ハモんな!」
2人はハウドラント人の事を一切知らない。なんだか悔しくなったのか、ピアーニャは教える事にした。
「わちはこれでもセンセンダイのエインデルおうのジダイから、あのオウゾクをきたえていたのだ。エラいにきまってるだろ」
『は? 先々代?』
「うむ、ディランのソフがうまれるマエからだな。あのコロはわちよりちいさかったのに、いつのマにかジジイになりおって」
「……異界の者はそんなに長生きなのか?」
「それはリージョンにもよるな」
(信じるなら、ピアーニャは最低でも100歳って事かしら。いや若作りなんてレベルじゃないわよ!)
しかし、ピアーニャの見た目が3歳程度なので、エレートトレアはちっとも羨ましいとは思わなかった。
セイングラートが今の話の内容を整理し、ピアーニャに質問をする。
「……つまり、エインデル王家を鍛えていたのは、貴様という事か?」
「うむ」
「軍事を増強していないはずの国で、ディランやネフテリア王女が恐ろしい程強かったのは、貴様のせいか!」
「そうだな」
「………………」
セイングラートはピアーニャの話を信じたわけではない。だが、これまで謎だった同年代の王族が飛びぬけて強かった理由と考えたら、納得出来てしまったのだ。
そして本当にそれが事実か、確かめる方法が今は1つしか思いつかない為、ピアーニャに再度質問するのだった。
「見つかりますかね?」
「見つからずに戻っていったら、手紙でバカにしてみるのも悪くないな」
ディランとボルクスは、空中で談話していた。その様子は、隠れているというよりは見つかるのを期待している感じである。
「運よくあの2人だけと対峙できるのだ。ピアーニャが何か吹き込みそうだし、大丈夫だろう」
「あの人、絶対面白がってますが」
「……気を抜くなよ」
「了解」
その言葉の直後、セイングラートとエレートトレアが上を向いた。
「まずは牽制っ」
『【魔連弾】!』
ピアーニャ達のさらに遥か上空から、ディランとボルクスは魔力弾を連射する。
2人は城からかなり上の空中に待機していたのだ。セイングラート達は『逃げた』という先入観から、近くに留まっているという可能性を除外していた為、見つける事が出来なかったのである。
「おお、流石ですね。避けながら近づいて反撃までしてきた」
「2人とも対人戦前提で鍛えている。特に攻撃魔法をな」
「でしょうね。【散水砲】」
下から【空跳躍】を使って駆け上がりながら、しっかりと応戦してくるセイングラート達。もちろんボルクスは撃ち返す。
だいぶ接近したところで、ボルクスの後ろで様子を見ていたディランも攻撃に加わった。
「【衝風破乱】!」
ドドドド
「ちっ」
セイングラートとエレートトレアはお互い離れるように大きく回避し、ディラン達を挟む形になった。
そのまますかさず魔法を放つ。
「【火の弾】!」
「【風の刃】!」
両側の少し下から放たれた攻撃を、ディランは上に、ボルクスは前方に避ける。お返しとばかりに、ボルクスが両方に向けて魔法を放った。
「【散水砲】!」
水しぶきが2人の体を濡らす。
そこを狙ってディランが魔法を──
「っ!」
急遽後方に回避。ディランのいた場所を、人の頭程の白い塊が勢いよく通り過ぎた。
咄嗟に放とうとしていた魔法を、横に向かって放った。
「【雷閃槍】!」
かなりの速度で飛んでいき、触れるだけで痺れや火傷を負わせる1本の槍を放つ魔法は、ピアーニャをすり抜けて彼方へと飛んで行った。
「やはりそう来たか」
「トーゼンだろ。オマエこそよくよけたな」
「生まれた時からの付き合いですから。ピアーニャ先生」
ディランがピアーニャを先生と呼ぶ時は、師匠として敬う時。そんなやり取りを、セイングラートとエレートトレアは不思議そうに見ていた。
「なんで?」
「仲間じゃなかったのか?」
動きが止まってしまっているが、そんな敵を見逃す程、ボルクスは甘くない。
「よそ見は良くないですぜ。【魔渦風】!」
ゴオオオッ
「うわあっ! 待て待て待て!」
魔力の竜巻がセイングラートを襲ったが、ギリギリで回避。今の状況を聞きたくて、ボルクスを制止しようとした。
「話をごおっ!?」
「セイン!?」
セイングラートの後ろから、人の頭程の大きさの白い玉がぶつかった。先程ディランを襲っていたピアーニャの『雲塊』である。
「ピアーニャどうして!? 一体どっちの味方なの!?」
先程ディラン達の居場所をセイングラート達に教えたのは、もちろんピアーニャである。ピアーニャの事が事実かどうか聞けるのは、今はディランしかいないので、セイングラートは素直に居場所を聞いたのである。流石にディランと自分の両方が攻撃されるとは思ってもみなかったようだが。
理由が分からないのは流石に可愛そうだと思ったのか、ボルクスが説明した。
「ピアーニャ総長って、長年王族やシーカーを鍛えているせいか、育成癖があるんすよ……」
「い、育成癖?」
「あの感じだと、俺達4人まとめて訓練させる気ですぜ」
「え、どういう事……?」
「つまり──」
「わちのコウゲキをかいくぐりながら、アイテをたおしてみせろ。かったほうには、ゴホウビをかんがえてやる」
ピアーニャが理不尽なルールを宣言した。要するに外部勢力として自分が両方に攻撃するから、避けながら勝負して勝ち残れという事である。ピアーニャはドルナなので、落とす事は不可能。無敵である事を利用した理不尽なゲームである。
「え、なにその滅茶苦茶な……」
「【魔力球】」
「ひゃうっ!?」
納得いかないエレートトレアが口論を仕掛けようとするが、ボルクスがエレートトレアの眼前を通り過ぎるように魔法を撃った。当てなかったのは最後の優しさである。
エレートトレアが文句を言おうと振り向くが、ボルクスの目は恐怖に満ちていた。
「すみませんね。勝ち負けに関係なく腑抜けた事をしていたら、後で何されるか分かんないんでさぁ」
「ひぃ……」
その言葉から本気の恐れを感じ取り、エレートトレアは自らの頬を叩き、気を取り直した。
話を聞いていたセイングラートも、真剣な顔つきになり、今まで以上の殺気をディランに向けた。
「いいメだな。わちがおもいっきり、きたえてやろう!」
リジェスネイフ城上空で、突然ピアーニャの理不尽な気まぐれによるサバイバルバトルが始まるのだった。
敵味方の概念で行動しないドルナ達……いや本体もそうだった。
久しぶりのマジバトルですね。今回は魔法と雲だけだから変な描写はなさそう……かも?(ラスィーテ絡み
が異常)




