もう一度爆破します
セイングラートは真っ直ぐにディランを見据え、掌を向けた。
対するディランは髪をかき上げ、余裕の笑みを浮かべて返答する。
「ふっ、ならば私は全力で逃げてみせよう」
「絶対に逃がさん! さっさと帰れ!」
『どっち!?』
絶対に帰さないという意味と、絶対に帰らせてやるという意味が共存した謎の宣言に、見ていた帝王達が聞き返していた。
もちろんセイングラートはただ帰す訳ではない。ディランを捕まえ、子供達を説得させて一緒に帰らせるのが目的である。しかしニオはともかく、ピアーニャがディランの説得に応じる事は無いだろう。ピアーニャから発生したアリエッタも同様に。
ディランがピアーニャに視線を送ると、ピアーニャはニオに耳打ちした。
その動きを見逃さないセイングラートが、今日の恨みとばかりに攻撃を仕掛ける。
「何をする気だ! 【風の刃】!」
「殺意籠ってないか? 【魔力球】」
仕掛けてくる事が分かっていたので、ディランは風の魔法をあっさり相殺する。
セイングラートの方もこうなる予想はしていたので、すぐに次の攻撃に移った。
「【風の剣】!」
「おぉう……【魔連弾】」
捕縛する事が目的なので、手に風の刃を纏わせて接近しようとするも、魔力の弾丸を連射されて上手く近づけないでいる。
その間に、アリエッタ達が動いていた。大人達がディラン達に注目している隙に、廊下の隅にコソコソと向かい、道具を拾っていた。
「杖はあっち……ニオが……」
「筆は……」
実は物置部屋に入る時に、扉をすり抜ける為に少し離れた廊下の隅に投げ捨てていたのだ。本体のアリエッタに色を付けてもらった道具は現実をすり抜ける事は出来ないので、置いていくしかなかったのである。
ニオは杖を離れた場所に置いた。同じ場所にアリエッタがルルーアルデの杖を置く。
「そういえばココネちゃんの杖は?」
「火事になった時に火に投げ込んだの」
「そっかー」(火事?)
「それじゃあニオ、ジュンビいいか?」
「う、うん」
「あの! 何してるんですか!」
子供達の動きに気が付いたメイドが声を上げた。
セイングラートの戦いを見ていた大人達が、不穏な言葉に振り向く。
しかし時すでに遅し。
「せーの」
ガンッ
ピアーニャが『雲塊』で2本の杖を遠くに弾き飛ばす。
そしてニオが素手で魔法を放った。
「【滅却の鎮魂花】!」
『ゑ゛っ……』
聞き覚えのある魔法に、帝王を含む数名の顔から血の気が引いた。
誰もいない城の奥に向かって花の形をした魔力弾が飛び、通った跡には大きな青い結晶が咲き乱れる。結晶は床だけでなく壁や天井からも生え、洞窟の様になっていた。先程飛ばした杖も結晶の中に閉じ込められている。
魔力弾は城の壁をすり抜け、外に出た。城の上部から放たれた魔力弾だったが、その影響範囲は広く、城下町にも青い結晶が生えていた。
「余の城がああああ! 民がああああ!!」
試しに撃たせてみたのがトラウマだったのか、帝王が叫んでいた。
帝王が絶叫したお陰か、宰相が冷静さをある程度保ち、王妃達に説明する。
ただ事ではない雰囲気に、セイングラートも振り返る。
「えとあの、それじゃあ防御するね」
「でしたらあんな魔法撃たないでください! ていうか消してください!」
国を消し飛ばす魔法を使っておきながら、オドオドと全員を守ろうとするニオに文句を言う宰相。
するとニオがキョトンとした顔になった。
「あのあの、どうやって消せばいいんでしょう?」
「あ・な・た・の! 魔法ですよね!」
「ひゃあああ! ごめんなさいごめんなさい!」
そうこうしている内に、結晶は黄色へと変色していく。
「お父様、この魔法は一体!」
エレートトレアが聞くが、帝王は混乱中。代わりに謁見の間から一緒にいる兵士が手短に答えた。
「あの結晶が赤くなると大爆発します。先程それで城と城下町が破壊されました」
「あっ」
先程大きく破壊された城下町を見たエレートトレアが息を呑んだ。
(信じたくはなかったけれど、本当だったのね……)
ニオがか弱いという事を信じていたかったようだが、実際に魔法を見てしまっては信じざるを得ない。考えを切り替え、ここからの対処を考える事にしたようだ。
結晶が赤みがかってきたところで、兵士に聞き返す。
「何かするべき事は?」
「全力で障壁を張るのは絶対です!」
「いえ、結晶を壊すとか、しなくてもいいのかしら?」
「それでどうにかなるかは分かりませんが、時間はあるのでしょうか」
エレートトレアは改めて大量に生えた結晶を見た。
「赤くなると爆発するのよね?」
「はい!」
「もう赤いわね?」
「赤いです!」
「壊してどうにか出来たとしても、全部は無理よね?」
「絶対に無理です! 防御してください!」
『いやあああああ!!』
今の2人の会話で全員が対処不能である事を悟り、イシュママリエと兵士を守る陣形で魔力による障壁を展開した。
ニオもしっかり防御し、ドルナ全員を守っている。アリエッタが頑張るニオを支える為に抱き着き、応援の言葉を耳元で囁いた。
そして城内外で大爆発を起こした。
づどごおおおおおん!
廊下の壁にヒビが入り、爆風が吹き荒れる。
悲鳴やうめき声を上げる者もいたが爆音でかき消された。
身構えていないイシュママリエと兵士が一瞬目を覚ましたが、くっついたまま勢いよく転がり、上下が入れ替わった状態で目を回し、再び気を失ってしまった。
やがて爆風が収まり、周囲が見えるようになってくる。帝王が顔を上げると、結晶が無くなり、廊下が1か所大きく抉れていた。
「皆、無事か?」
「はい……」
「う……」
「なんとか」
大人達が身を起こし、無事を確認し合う。全員がイシュママリエ達の方を見たが、どうしていいか分からず目を逸らした。
無事ではない者は他にもいた。
「ピアーニャ大変! ニオが!」
「そんな……ニオちゃん!」
「目を開けて! 死なないで!」
「ダイジョウブだからおちつけ……」
アリエッタの抱擁と囁き、そして大爆発のショックで、ニオは真っ白になって気を失っていた。よほど精神的なダメージが大きかったのか、声をかけてもゆすっても目を覚ます気配は無い。
混乱したアリエッタは、何故かセイングラートを睨みつけた。
「よくもニオを!」
「は?」
「ニオに魔法当てたんでしょ! 可愛いからって!」
「するかそんな事ぉっ!」
完全なる言いがかりである。
「さっきのとんでもない魔法を防ぐなら分かるぞ? なんで理由が可愛いからなんだ!」
「ふはははは! 自白したな愚か者めー!」
「違うからな!?」
突如アリエッタとセイングラートの漫才が始まってしまった。
これはしばらくかかるなと思った面々は、改めて破壊痕を見た。
「……これだけか?」
「陛下も思いましたか。最初のは壁も町も破壊していたのに」
「爆発はあったが、そこだけだな」
1回目に比べて規模が小さすぎる被害に、帝王と宰相は首を傾げていた。
ニオを見たが気を失っている。そしてルルーアルデとココネミットとピアーニャが目を逸らした。
「何か知っているな?」
「し、しりません~」
「どうせわたし達には何も出来ないしー、聞くだけ無駄ですー」
(もうちょっとうまくかくせよ……まぁコドモにはカケヒキはムリか)
ドルナ・ニオが素手で魔法を放ったのが原因である。アリエッタが色を付けた杖を使わなければ、現実に干渉する事が無い。つまり爆発は見た目だけのものになるのだ。結晶が生えた城下町もまったくの無傷で、住民が困惑している。
実際に爆発したのは、2本の杖を巻き込んだ一部の結晶だけ。杖が接触した事で、アリエッタの力の影響を受け、現実の爆発となったのである。
(まぁこれでツエはなくなった。ゲンジツにカンショウできるのは、わちのクモとアリエッタのフデだけだな。ファナリアじんにはつかえないから、もうどうにもならん)
いきなり魔法を放った本当の目的は、ドルナを攻撃出来る手段の処分にあった。魔法の媒体に使える杖は、ドルナ・アリエッタ達にとって危険にもなり得たのだ。
アリエッタにしか使えない筆は本人が回収し、ポーチに収納済み。これでリジェスネイフにはドルナを脅かす存在は無くなった。
ここで王妃がふと気づいた。
「あの、ところでディラン王子は?」
『………………あ』
「しまったあああああああ!!」
どさくさに紛れて、ディランとボルクスは逃走していた。
「セイン、エレア、追いなさい!」
『はいっ』
まだ遠くには行っていない筈と、王妃の命令でセイングラートとエレートトレアが城を飛び出した。それを追って、ピアーニャも飛び出した。
「それじゃあ次はどこに隠れよっか」
漫才相手がいなくなったアリエッタ達も動こうとした。目的はもちろんイタズラである。ニオは誰にも触れる事が出来ないので、一旦放置するようだ。
この場を離れようとする2人の娘に、帝王が声をかけた。
「頼む何処にも行かないでくれ! 余の目の届く所にいてくれぇっ!」
「嫁入り前の娘の前で駄々をこねる父親みたいな事言わないでください!」
物理的に何も出来ない相手にできる手段は説得のみ。
今日のお昼ご飯は浜焼きかな?




