化けて出ています
「という訳で、帰還した」
「素直かっ!」
ディランがネフテリアに蹴り飛ばされた。
「しょうがないだろう。あの場所に僕がいた所で、ドルナ達を止める事など出来ないのだから」
「いやまぁそうなんだけど、だからって放置て……」
「帰る前にピアーニャに手伝ってもらって、しっかりとまとめておいたが」
「何これ、報告書? 随分な超大作……」
リジェスネイフでドルナ達が暴れた2日後の夕方、ディランはまずネフテリアに報告する為に、ニーニルに立ち寄った。あわよくば本体のニオに会いたいと思いながら。
翌日になったのは、リジェスネイフ城から脱出し、ヨークスフィルンで報告書をまとめていたせいである。
「流石に疲れたがな。すまないが休ませてもらう。ニオの部屋は──」
「外に兵士や密偵の宿舎があるわよ」
「妻に癒して貰いたいのだが」
「10年早いしあげないわよ。シス、案内してあげて」
ネフテリアが指を鳴らすと、ディランの足元の影が広がった。
「ふっ、兄は悲しいぞ」
どぷん
ディランは優雅な仕草のまま、影に沈んだ。
「じゃあ、わたくしはこの鈍器として使えそうなくらい分厚い報告書読むけど、ボルクスはどうする?」
「帰って酒が飲みたいので、すぐ国王陛下に帰還報告しに行きますぜ」
「酒の為かい……」
ここにボルクスが残っても仕方がないのは確かなので、大人しく見送る事にしたようだ。
ネフテリアは手元にある報告書の山を見て、軽くため息を吐いた。
「まぁ色々やらかすのは分かってたけど、それにしたって滅茶苦茶な量でしょコレ。リジェスネイフは国として機能出来るのかしら?」
(そうなんだよなぁ……あの後も滅茶苦茶だったんだよなぁ……)
──2日前のリジェスネイフ城。
「帰っていいので?」
「あ、いや、帰るなら子供達を連れて帰ってくれないか」
「そうか、ではルルーアルデ姫、ココネミット姫。エインデルに帰りましょうか」
『はい』
2人の王女が素直にディランに従った為、帝王と王妃が焦った。
「こらこら、お前達は余の娘だろう! どこへ行こうとしている!」
「そうよ! そんな変態に近づいては駄目!」
ディランの評価は最底辺につき、必死に止めようとしている。だが2人は嫌そうな視線を両親に送った。
『えぇ~……』
「揃ってそんな顔をするなっ! 余が何かしたというのか!」
『戦争』
「は?」
「わたし達、別に戦争なんてしたくないんです」
「イシュマお姉様に虐められるのも嫌です」
「え? え?」
ルルーアルデもココネミットも、両親に歯向かうのは初めてだった。だからなのか、手が少しだけ震えている。
この時ピアーニャがアリエッタに視線を送った。そして現実に干渉しない『雲塊』を薄く床に敷き、座る。間もなくアリエッタとニオが『雲塊』に座った。
ニオはアリエッタに手を繋がれている。だからなのか、全身が思いっきり震えている。
王族はもちろん、宰相や兵士やメイド達も、双子の発言について考えている。しかし、ニオの不思議な挙動の方が気になってしまい、考えがまとまらない。
「ちょっとすまん、子供達は部屋に入っててくれるか? ほらそこの」
「ふむ……だがことわる」
「断らないでくださる!? 気が散るのよ!」
そもそも引っ掻き回しに来ているピアーニャが、相手の命令を聞く訳が無い。
ディランが優しく微笑みながら、王妃に語り掛けた。
「落ち着いてください王妃陛下。ピアーニャは王族の命令など一切受け付けません」
『は?』
「それどころか、私も妹も、それに父も母も遠慮なくぶっ飛ばされます。なんなら武器扱いされます」
「言っている事がまったく分かりませんが!?」
王妃には理解出来ないが、隣にいるエレートトレアには心当たりがあった。
「まさか兵を盾にしたり放り投げたりしていたが、あれはいつもの事なのでしょうか?」
「おお、既に体験したのですね。流石、若くして隊長となったエレートトレア殿下」
「それ褒めてます!?」
ディランとピアーニャが面白がる素振りを見せたので、帝王は諦めて娘の説得を試みる事にした。
「一体どうしたというのだ2人とも。戦争をして勝利を収めれば、わが国は大きくなれるのだぞ?」
「戦争したら人が死ぬのに、そんな死者の国を大きくして意味はあるのでしょうか」
「えっ……」
「お父様、頭大丈夫ですか? 国が大きくなるのが嫌なんじゃなくて、戦争するのが嫌なんですー」
2人の意見は、そこに生きようとする民としては真っ当な意見ではある。本心からもそう思っているが、言うべき内容はリジェスネイフに来る前にあらかじめ決めていた。
(しかしココネミットはあんなチョウハツテキだったか? カゾクあいてだからだろうか)
元々少し気が強かったが、イシュママリエとやり合った影響で短期間で一気に口が悪くなった……という結論には流石に辿り着かないピアーニャであった。
「だいたい、何の罪も無い人達を殺して偉そうにするって、楽しいですか?」
「それは国の為に必要な事なのだ」
「そうよココネ! だからこそわたしは軍に入ったのよ!」
国の為に争い、統一して人々を治める。それも国としての生き方の1つである。しかし、穏やかに暮らしたい人々にとっては害悪でしかない現実もある。
ココネミットとルルーアルデも戦争が前提の教育を受けて、これまでは戦争する事に疑問を持たなかったが、ディランに助けられて異界に行き、ネフテリア達と出会った事で価値観が変わったのだ。
「つまりエレアお姉様は」
「人を殺して奪いたい?」
「違っ、誤解よ!」
幼い率直な意見はとても残酷である。エレートトレアは母への憧れと自らの誇りの為に軍人をやっているので、別に戦争を肯定している訳ではないのだ。
「でも戦争って、やってる事はただのでっかい盗賊行為ですよね?」
『うぐっ!』
戦争理由はそれぞれだが、双子からは自国の戦争に対するスタンスがそう見えるようだ。
純粋な目でズバリと言われ、大人達に迷いが生じた。弁解の言葉がなかなか浮かばず、沈黙する。
その様子を見たディランとボルクス、そしてピアーニャがため息を吐いた。
「あー、国の方針に関わりそうだから、私は逃…帰る」
「お前『逃げる』って言いかけただろ! どうにかしろよこれ!」
「しかし、先程帰れと言われたし……」
「この子らを連れてきた保護者だろうがあっ!」
「最初から私にはどうにも出来ん」
「だったら、なんで、来たんだっ」
怒り心頭のセイングラートは、ディランの肩を掴んで、ガックガックと揺さぶった。
「ほらっ、そもそももっ、イシュマママッマリエ姫にっ、おそわれてたっ、2人を保護っ、してつれてきたっ」
「あっ……」
揺さぶりが止まった。
忘れていたイシュママリエの事を思い出したのだ。
「つまりこれは、因果応報……なのか?」
「えーっと……」
兵士の下半身を顔に乗せた娘を見て、両親が困っている。
そこへ、ルルーアルデがボソリと呟いた。
「……だからわたし達、化けて出てきたんです」
『………………えっ?』
何を言っているのか理解出来なかった大人達が、ギギギギッと首を動かし、ディランを見た。
(そういえばそういう設定もあったな)
(コイツ、ちょっとわすれてたな?)
ピアーニャのジト目は無視し、ディランが説明する。
「私が助けられたのは、魂さ」
「う…そ……」
「嘘でしょ! ルルア! ココネ!」
嘘である。ドルナの事を話さなければ、子供達は幽体としか思えないのだ。
王妃とエレートトレアは双子に駆け寄り、手を伸ばす。しかし触れる事が出来ない。手を伸ばしすり抜けた回数だけ、目の前の双子が幽体だという確信を得てしまう。
「そんな……いやよ……」
「なんで娘に触れられないのっ。なん…で……」
ぼけーっとした顔の双子の目の前で、母と長女は崩れ落ちた。他の面々も動く事が出来ない。メイドに至っては嗚咽を隠しきれていない。
しかしディランは容赦なく口を開く。
「というわけで、『戦争被害者』の事は頼んだぞセイン」
「え゛っ」
戦争被害者として差し出したのは、アリエッタ、ニオ、ピアーニャである。もちろんそんな現実は存在しない。しかし状況と話の流れのせいで、その嘘は簡単に受け入れられてしまう。
例え、セイングラートだけがその嘘に対して疑念を持っていても。
「冗談だろう? 連れてきたのだから連れ帰る事も出来るのではないか?」
「本人達がここに居座る気だから、私にはどうする事も出来ないのだよ」
これは本当である。そもそも触れる事が出来ないので、物理的な回収は不可能なのだ。しかも5人ともネフテリアに言われて、本体がいるエインデル王国には帰らないつもりでいる。
「……彼女達が残ったら、どうなる?」
「寝ている時に、枕から頭や手が生える」
「絶対連れて帰らせてやるからな!」
安眠の為、とうとうセイングラートが戦闘態勢に入った。
GWは雨ですよっと。
2日間色々やってたからグータラするのもいいですね。




