もしかすると伝説の剣が刺さってます?
なんとも言えない沈黙が、辺りを支配した。
この場で立っているのは、アリエッタ達5人の少女と、セイングラートとディラン達。
宰相達はまだ、状況の変化についていけず腰を抜かしているが、ぶつかった衝撃で飛ばされた王妃が身を起こした。続いて気を失っていたエレートトレアも目を覚ました。
「う、一体何が……お母様?」
「何でもないのよ、オホホホ……大丈夫? 貴女、臭くない?」
「いきなり何ですか? その失礼な質問は」
「大丈夫ならいいの! 変な事聞いてごめんなさい」
先程の事故のせいで、王妃はエレートトレアと目を合わせるのが難しいようだ。
意味が分からないエレートトレアは、王妃の視線を追い、それを見てしまった。
「ひ、お尻……って、え!?」
今まで自分を追いかけていた裸の兵士が、うつ伏せになって転がっている。その腰の下に妹の頭部が見えているのだ。一瞬で危険な状態だという事に気がついたようだ。
「お母様! 早く退かさなければ!」
エレートトレアは慌てて駆け寄ろうとする。王妃も同じように動こうとした。しかし、それを制止したのはセイングラートだった。
「お待ちください! 危険です!」
「何を言っているの? 罠でも仕掛けられているとでも言うのかしら?」
「そういう訳では無いのですが……」
エレートトレアに問われ、口籠ってしまう。
その表情にただならぬものを感じた王妃が、エレートトレアを宥める。
「落ち着きなさいエレア。セイン、何か知っているの?」
「知っていると言いますか、可能性の段階ですが姉様には刺激が強過ぎるのではと……」
「…………あっ」
王妃の顔が少し赤くなったが、それ以上に嫌な汗が溢れてくる。その『可能性』に気付いたようだ。
(もしそうなっていたら、知る者は最低限にしないといけないわね。未だに純なエレアには酷ね。でもイシュマが起きる前になんとかしなければ)
王妃はまだ伸びている帝王を見た。身内だけでなんとか片付けたい様子。一旦全員に見ないよう声をかけようとした。
しかしここで、一番見せたくない人物達が騒ぎ始めた。
「アリエッタちゃん、イシュマお姉様潰れたの?」
コソコソと様子を伺っていたルルーアルデである。
さらに、ココネミットが倒れたイシュママリエの足をツンツンとつついていた。
「待って、待ちなさい。子供達は見てはいけないわ」
『何故ですか?』
「あ、その……それは……」
無垢な娘達の質問によって、王妃とセイングラートが困り果てる事になってしまった。
周りにいる宰相達も、状況を理解してしまっているのか困っている。イシュママリエの不名誉を直視しないように目を逸らしているのに、ここで関わってしまうと『知る者』として口封じされる危険性があるのだ。
しかし、そんな気遣いなど、5人の少女は持ち合わせていない。
ピアーニャがニヤニヤしながら、ココネミットを誘う。
「よしココネミット。オマエのアネがどうなってるか、みてみるか?」
「うん」
「待て待て待て待て!」
慌ててセイングラートが止めに入った。しかし、大きな手の形をした『雲塊』にジワジワと押され、近づく事が出来ない。
「おいいい! 頼むっ、まだ小さい妹に見せないでくれぇ!」
「えーなんのコトー? わち、わかんないー」
『ン゛ふっ』
「こらああああ!!」
唐突なピアーニャのぶりっ子。ディランとボルクスは吹き出した。
近づけないならと、今度はアリエッタとニオに向かって懇願するセイングラート。
「そっちの君達! 仲間を連れてこの場を離れてくれないか!」
しかし、アリエッタは呑気に何かを考え始め、ニオは顔を真っ赤にしてチラチラとイシュママリエの方を伺っていた。
(あの子、あんな清楚な顔して分かってないか?)
ニオは人格が完全に変わってはいるものの、魔王だった記憶は持っているので、大人の事情に関しては色々と察してしまうのだ。
一方、イシュママリエを真剣な顔で見ているアリエッタに、ルルーアルデが質問をした。
「えっと、どういう事なのかな?」
「んーとね、あの下に轢かれてるオバサンに、伝説の剣が刺さってるかもしれないの」
『ブフーッ!』
話を聞いていた大人達全員が吹き出した。
(そっちの子も分かってるんかい!)
「ちょおおおっと待ちましょうか! 伝説の剣って言い回しはどこで覚えてきたのかしらっ!?」
流石にツッコミを我慢出来なかったのか、王妃が全力でアリエッタに問いかける。
「え? そのまま言った方が良かった?」
「いいえ伏せてくれたお心遣い感謝致しますっ!」
純粋な目でコテンと首を傾げられた王妃は、これは下手な事を聞いては危険だと悟り、勢いよく頭を下げていた。
その様子を見て慌てて宰相が高速で這いずり寄る。
「い、いけません王妃陛下! そんな軽々しく頭を下げ──」
「うるさい! だったら私より早く動きなさい! 貴方は判断が遅すぎるのよ!」
『う……』
無茶な言い分だが、今は突発的な出来事が多すぎるので、一瞬の判断の遅れが命取りになる。特に幼い娘達の教育に関しては、母は敏感なのかもしれない。
そんな母の想いを察したディランが、優しい笑みを浮かべて前に出た。
「別に言ってしまった方が背徳感があって良いだろう? アリエッタ嬢よ構わぬ、遠慮なく叫ぶのだ、おチ──」
『お前は黙ってろ!』
ドゴゴゴゴゴっ
「んだわーっ!」
「ひょわっ!?」
今度はこの場の大人全員が俊敏に動き、全員で【魔連弾】をディランに向けて放った。ボルクスはかろうじて避けたが、ディランは勢いよく壁にめり込んだ。
教え子を倒されてしまったピアーニャが、呆れ顔でため息を1つ。
「あーあ、シロをこわすなんて、ナニかんがえてるんだオマエら」
『いやお前が言うなっ!』
自分のやってきた事を棚に上げた発言に、セイングラート、エレートトレア、宰相、そして娘の教育の危機に目を覚ましていた帝王が、思いっきり叫んでいた。
「そうだこんな事している場合ではありません! その子達を捕獲しなければ!」
「え、そこまで危険人物なの?」
エレートトレアが気を取り直して捕獲しようとするが、外の事情を知らない王妃は、何故そんなに必死なのかが分かっていない。
便乗して今の呑気な雰囲気を諫める声も上がった。
「そうだぞまったく、クニをこわしたヤツをメのマエにして、なにをノンキにしてるんだ」
『だからお前が言うなぁっ!』
実行犯のリーダーに言われてしまい、事情を知っている者は憤慨した。
しかし今はそんな事を気にしている場合ではないかもしれない。
「ココネちゃん。伝説の剣が刺さってるか見てみたい?」
「うん。どんな剣なのかな」
「わーーーっ! 待ちなさいココネっ!」
アリエッタが兵士の尻を指差して、ココネミットを誘った。王妃が止めようとすると、アリエッタがハッと気づき、謝った。
「あっごめんなさい。ルルアちゃんを仲間外れにするのは良くないね」
「そうじゃないっ!」
アリエッタを止めようとする王妃と宰相。他の者も王女の心を守る為に動きたかったが、そちらにばかりツッコミを集中させる訳にはいかない理由があった。
「あのその、ごめんなさい。やりすぎて国を壊してしまって……」
ニオが半泣きで謝っていたのだ。その涙はとても煌めいていて、大人達は言葉に詰まってしまう。
「いや良い。あの程度は壊れたうちには入らぬ」
「正気ですかお父様! 城下町が消し飛んでいましたよ!?」
「はっ、そうであった!」
危うく許しそうになった帝王をエレートトレアが諫めていた。
「くっ、まさか魔法で魅了を……」
「いや、そいつはナニもしとらんが?」
「ただ愛らしいだけなのか……」
セイングラートが、ニオの魔法だけでなく可愛らしさにも恐れおののく。まだ幼い段階で今の魅力なのに、このまま順調に成長したら一体どれだけの国が傾くのだろうと考えていた。
「どうだ我が妻は。可愛いだろう」
「うわいきなり復活するなよディラン!」
「というか、何故幼児愛好者と名高いディラン王子がここに?」
セイングラートが見張っていた筈のディランが城の奥まで来た事に疑問を持った帝王が、ようやく本人に問う機会を得た。
「ご挨拶が遅れました、ノスディアード・リジェスネイフ・ベイオリッシェ陛下。今回私は保護者としてついてきましたが、御覧の通り手に余る美少女達故、ただ国の行く末を静観しておりました。今はなんとなくセインに同行しただけでございます」
『帰れぇっ!』
余りにも無責任な答えだったので、話を聞いていた全員が叫んでいた。
その間にも、王妃がアリエッタ達を兵士の尻から直接遠ざけようとしていたが、掴もうとした手がすり抜けて困惑し、何度も何度も涙目になりながら娘達に向かって手を振り回すのだった。
教育って大事ですよね。
厳格に育てられたので、長女のエレートトレアはとても純心です。




