9 次の町へ
朝早く、俺たちはナトジャの村を出て王都へと向かう。
夜明けすぐだっていうのに街道には人影が意外とあった。
馬車の姿もあって、楽そうだなって思って俺はアレクシアさんに尋ねた。
「アレクシアさん、馬車で移動はしないの?」
「それぞれの町をむすぶ馬車があるんだけど、ナトジャ村からっていうのは無いのよ」
と言い、アレクシアさんは苦笑する。
「あれは商人とか、個人の所有の馬車ね。ナトジャは大して大きい村じゃないから。だから歩くしかないのよ。次の町からだったら馬車移動できるはずよ」
なるほどそういうことなのか。
俺にはよく分かんねえけど、ナトジャの村って端から端まで余裕で歩けたもんな。
だから小さい村なのは確かなんだろう。
街道の途中でポツポツ、と家があって、休憩しながら進んだ先。
ナトジャの村よりもずっと大きな町、ブレーヌにたどり着く。
俺は町を眺めて思わず声を上げた。
「うわぁ……」
白い壁の家がたくさん並んでいて、なんか、テレビとかで見たヨーロッパの街並みみたいだ。
山の傾斜を使って並ぶ家は、どれも赤い屋根で統一されている。
「すげえ」
人の数もナトジャよりずっと多い。でもみんな金色の髪や明るい髪色が多くて、俺みたいな黒髪は見当たらない。
これは俺、悪目立つするよなぁ……
エルフの姿も見えないけれど、明らかに人間じゃない人の姿が見える。
背が低くて体格のいい、ひげが生えた……あれ、ドワーフだよな。
それに人間の姿に似てるけど、ちょっと耳がとがってるのはきっとハーフエルフだろう。
すげえな、ファンタジー世界だ。
ひとり感動していると、アレクシアさんの声が響いた。
「ユーキ! まず宿を決めましょう。今日はもう日が暮れるし休んで、明日、町の探索をしましょう!」
「あぁ、うん。確かに、足、パンパンだよ」
言いながら俺は苦笑する。
休み休みとはいえ一日歩いていたから足、すげー痛い。しかも荷物も抱えてだからまじで辛かった。
『お前なんで俺を使わないんだよ』
そう、呆れたようにクロが言う。
それはこの道中、俺が足が痛い、と呟くたびに何度も言われた言葉だった。
俺は、クロに向かって小さく言った。
「うるせえよ。お前を頼るわけないだろ? 歩くの疲れただけで願い事なんてしないし、しかも何要求されるのかわかんないってのにさ」
『あー? お前楽して生きたくねえのかよ?』
そう、クロは煽るように言ってくる。
楽して生きたい。そういう思いがないわけない。でも、人生、うまい話があるわけがない。
だいたい就職だって、最初、募集の時はうまい話だったんだ。
給料もよかったし、福利厚生もちゃんとしてて。
でも、入ってみたら上司はまじでサイテーだったんだ。
だから俺はクロの要求に首を横に振る。
「そういうのいらねえっての」
『え、なんで? まじお前わけわかんねえよ』
そうクロは言って、黒く光って見せた。
すると、不思議そうにアレクシアさんが俺に話しかけてくる。
「ユーキ、ひとりごと多いわよね。大丈夫? 疲れてる?」
そう言われて俺は慌てて首を横に振る。
「だ、だ、大丈夫だから。えーと、宿、捜しに行きましょう!」
言いながら俺は、通りの向こうへと目を向けた。
宿を決め、俺は靴を脱いでベッドに寝転がる。
部屋は六畳ほどで、ナトジャで使った部屋とあんまり広さは変わらない。
室内は綺麗だし、ソファーがひとつ、置かれている。
それに数冊の本が、テーブルの上にあって俺はその本を手に取ってベッドの上で読んだ。
その本はこの辺りの歴史とか石の話が書かれていた。
「まじで石の伝説が多いんだな、この世界」
歴史の話に普通に石の話が出てくる。
空から石が降ってきて、その石を拾った人が幸福を手に入れたとか、石に取り込まれて悪党になった話とかいろいろ載っている。
この町にも特産の石があるんかな。
そう思って調べていると、ジャスパーっていう石が有名だとわかった。
「ジャスパーって聞いたことないな」
『お前マジで何にも知らねえんだな。ジャスパーっていうのは石英の一種だよ』
自慢するようにクロが言う。
「へー、石英は聞いたことあるような。お前、物知りなんだな」
そう感心して言うと、石は照れたようにオレンジ色に光った。
……つうかこいつ、何色に光るんだ?
『へへへー。俺は石だからな! 石には詳しいんだぞ』
たぶん胴体があったら胸、張ってそうだな。
うぜえ、と思っていたけどそこまでじゃないかもしれない。
『だからほら! 願い事しろよお前。なんでもかなえてやるからさー』
そう、誘惑するように今度はピンク色に光る。
うん、前言撤回。
こいつ、めちゃくちゃうぜえ。




