8 旅の目的
朝食の後、俺はアレクシアさんと一緒に装備を買いに行った。
「とりあえず何日かここに滞在して装備を整えて、次の町に行こうと思うの。とりあえず首都を目指して、他の国にも行きたいのよねー。東の『東方妖華帝国』まで行きたいなぁ」
って、アレクシアさんは語る。
「この、ストーニア大陸ってでっかいんですか?」
俺の問いかけに、アレクシアさんは大きく頷いて声を弾ませた。
「えぇ! 大陸はとっても大きいの。西と東を分けるように山が連なっているんだけどね。東側まで行きたいのよねー」
そしてアレクシアさんは、目を細めて遠くを見る。
大陸っていう概念が俺にはあんまりわかんないけど、この大陸は俺の想像以上にデカいんだろうな。
そう思うと、なんかわくわくしてくる。
俺はテンション高いアレクシアさんに、遠慮がちに尋ねた。
「ねえ、アレクシアさん。俺、その旅についていって大丈夫かな……?」
すると、アレクシアさんは大きく頷いて上ずった声で答えた。
「もちろんよ! 私も人間のこと知りたいし。なんていうの? 持ちつ持たれつでいきたいわね」
と言って、彼女は手を顔の位置まであげて笑う。
アレクシアさん、めちゃくちゃいい人じゃねえか? 大丈夫? ちょっと心配になってくる。
とりあえず、この世界の事をよくわかっていない俺にとって、アレクシアさんは命綱みたいな存在だ。
石のクロじゃあ頼りにならないしな。だって石だから。アレクシアさんはめちゃくちゃ心強い。
アレクシアさんのアドバイスを聞いて、俺は旅に必要そうなリュックやマント、防具などを購入した。
「まれだけど、モンスターがいる地域があるのよね」
「まれ?」
「えぇ。あまり聞かないけれど、山奥とか行くといるかもしれないから、防具は必要なのよ。それに山賊とかいるし」
って言われてしまう。
それってつまり、怪物よりも人間の方があぶねえって事では……?
山賊ってすっげー怖そう。想像すると怖くなってくる。
「あと武器よねぇ。ユーキは剣、使えるの?」
「ぶ、武器……?」
言いながら俺は店内を見回す。
今俺たちがいるのはいわゆる雑貨屋で、簡単な防具や武器も販売している。
そこには短剣や長剣、それに弓矢などが飾られていて、ここが戦いが普通の世界だって事を思い知らされてしまう。
剣なんて初めて見たぞ?
もちろん剣なんて使えるわけがない。
でも。
「俺、弓ならちょっとだけできるかも……」
自信なく呟いて、俺は弓を見つめる。
そうはいっても、俺がやっていたのは和弓だけど。
俺の答えに、アレクシアさんは感心した様な声を出す。
俺は高校の部活で和弓をやっていた。なんかかっこいいな、って思って始めたんだけど。二年半くらいやっていたけど大して上達はしなかった。
和弓はでかいけど、店にある弓はかなり小さい。扱い方も違うだろうけど、全然違う武器、しかも剣みたいに接近しないと使えないような武器よりも、弓の方がずっといいと思う。
「弓なら私が教えられるし、いいんじゃないかしら? 剣、使ったことないんでしょ?」
「うん……」
頷きながら俺は苦笑を浮かべる。
剣はさすがに怖い。だって、近づかないと攻撃できないんだから。
俺はショートボウっていう、小さ目な弓と矢を購入して、最後にスターダスト協会に立ち寄った。
そこで石手帳を買い、昨日貰った鉱石の買取表を見せて、スタンプを押してもらう。
埋まったのはひとつ、水晶のスタンプだ。
店を出て、俺はその石手帳を見つめる。
手帳の後ろには色んな石の名前と簡単な説明が書いてある。
今まで気にしたことねえけど、鉱石ってたくさんあるんだな。
水晶、アメジスト、シトリン、翡翠……
どんな石なのかわかんないものもあって、心が躍る。
俺は手帳を閉じて、村の向こうを見つめる。
「これが埋まるの、楽しみだなぁ」
「そうね! 私も楽しみなの! あとで弓の練習をしましょう! 明後日にはここを出て、王都を目指したいわね」
っていうアレクシアさんの提案に、俺は大きく頷いた。
ナトジャの村に来て三日がすぎた。
今はいわゆる夏から秋に変わる季節らしい。
村にいる間俺は、石を拾いに行ったり弓の練習をした。
アレクシアさんが用意してくれた、木にかかった的に向けて矢を放つ。でも的の端っこにあてるのが精いっぱいで、外れることの方が圧倒的に多かった。
俺は、端にしか穴が開かない的を見つめてため息をつく。
「和弓と全然扱い違うなぁ……」
「それでも的に当たってるじゃないの。経験者って本当なのね!」
そう言って、アレクシアさんは手を叩いて褒めてくれた。
褒められるとすっげー嬉しい。っていうか、褒められるの久しぶりだな。
会社で働いていた時は罵られてばかりだったから。
褒められるのはそれだけじゃなかった。
スターダスト協会に石を持ち込んだとき、鑑定の人に何度か言われた。
「あんたすげえな。こんな透明度の高い水晶ばかり確実に見つけてくるなんて」
と。
おかげで三回、石を拾いに行っただけで結構なお金になった。
「運がいいだけですよー」
そう俺は答えたけれど、さすがに光って見えるから、とは言えず。
たった数日で俺の名前は村中に知れ渡ってしまったらしく、ちょっと気まずかった。
だって、すれ違う子供に指差されて、
「ねえねえ! お兄ちゃん! 高い石見つけられるんでしょ? どうやって見つけてるの?」
なんて聞かれることが何度も起きた。
「え? いや、えーと」
なんて感じでしどろもどろになる俺を助けてくれたのは、やっぱりアレクシアさんで。
彼女の存在に俺は大いに助けられていた。
「石探しはねー、運も重要なのよー!」
「あー、エルフのお姉ちゃんだ!」
そう騒ぐ子供たち。
そもそも黒髪の俺と、エルフであるアレクシアさん、すっげー目立つ。
だって、ナトジャの村にいるのは人間ばかりだし、髪の色だって金色や明るい茶色が多いから。
そろそろ旅に出ないと目だって仕方ない。
俺たちは、アレクシアさんが言っていた通りナトジャの村について四日目の朝、旅に出ることにした。




