7 クロの奇跡
食事の後、俺は部屋に戻りながらアレクシアさんに言った。
「俺も、そのスタンプ? 集めたいんだけど、どうしたらいいのかな」
「スターダスト協会で買えるわよ! 今日、石を買い取ってもらった時、控え貰ったでしょ? それを見せれば別の窓口で押してもらえるんですって。私も明日行くから一緒に買いに行きましょう」
そう、アレクシアさんは嬉しそうに言った。
部屋に戻って、俺は荷物をテーブルに置いて、ポケットの中で騒ぐクロを出してベッドに座る。
『ぷはぁ! お前俺を無視するなって言ってるだろ!』
怒る石。
俺は黙って、さっき宿の人に頼んで譲ってもらった麻ひもを取り出す。
それに気がついたらしい石は、文字通り青く光りながら言った。
『ちょ……お前、何考えてるんだよ?』
なんか怯えているんかな?
つうか色で感情、表してるんだな。怒ると赤。怯えると青なんだ。あと何色があるんだろう。
そう思いながら俺はクロを握り、麻ひもをグルグルに巻きつけた。
『え、おま……! 何すんだよ、おい!』
なんかすっげー文句言ってるけど、俺は気にせずクロに麻ひもを巻いていく。
ポケットに入れておくと邪魔だし、ポーチにしまおうかと思ったけど、たぶんさっきみたいに騒ぐに決まってる。
そうなると、ひもを巻きつけて首から下げるのが一番かな、って思ったんだけど。
あんまり器用じゃないんだよなー俺。
不格好だけど何とかそれっぽくなって、俺はクロを目の高さまで掲げる。
「よし、うまくできた」
『う、う、うまいか? すっげーぐるんぐるんに麻ひも巻きつけてるだけねえか!』
「お前、文句多すぎ。こうすれば首から下げられるじゃん?」
言いながら俺は、クロを巻きつけた麻ひもをいい感じの長さに縛って、首に下げる。
ちょうど胸の辺りにクロがくるように調整して。
うん、いい感じだ。
「こんなもんかな」
そう呟いて俺はクロを撫でた。
てっきり文句言われると思ったけど、クロはまんざらでもなさそうで。
『うん、まあ……たしかにこれなら無くされねえもんな』
と、納得したように言う。
こいつ、意外と聞き分けいいのかも。
「なあクロ」
『だからクロじゃねえっての』
不服そうにクロが言うけど、俺は無視して話を続けた。
「お前、何でも願い事を叶えるとか言ってたけど、何者なんだよ?」
『お前、ウィッシェヴァイスを知らねえのかよ?』
驚いたような呆れたような声。
その石の名前、アレクシアさんも言っていなかったよな。有名な石なんかな。
黙る俺に、クロは笑いを含んだ声で、黒く光りながら言った。
『まーじーで、何でも願い事叶えるぜ? 金だっていくらでも用意してやれるし、力を与えることだって可能だ』
なんか悪巧みしている様で胡散臭い。
だから、俺はジト目でクロを見つめて低い声で言った。
「へえ」
『あ、その声信じてねえな! マジだってば!』
「あー、はいはい。どうせ、タダで叶えるわけないんだし、どうせろくでもないことになるんだろ。知ってるんだから」
言いながら俺は立ち上がる。
上手い話には裏がある。
なんか代償が必要とかなんとか言っていたしな、ろくなもんじゃない。
『当たり前だろ! タダ働きなんてしねえよ!』
「じゃあその代償が何なのか教えろよ」
するとクロはしばらく沈黙してしまう。
部屋を出て大浴場に向かおうとすると、クロはやっと口を開いた。
『願い事したら教えてやるよ!』
「それじゃあおせえだろ」
呆れて言いかえして、俺は食堂の喧騒を聞きながら廊下を急いだ。
翌朝。
なんかバタバタ、という足音で目が覚める。
きょろきょろと辺りを見回して、俺は起き上がって大きく欠伸をした。
「ねむ……」
何時だろ?
そう思いながら俺は思わず時計を探すけど、そんなものはない。
それに、なんか見慣れない室内。あれ、ここ俺のアパートじゃない……?
「あぁそうだ。俺、知らない所に来たんだった」
『おい、何言ってんだよ?』
呆れたような男の声に、俺はハッとする。
首にかかったネックレス。胸に揺れる黒い石。
「クロ」
『お前起きるの早いな』
て言って、クロは欠伸をしたようだった。
いや、石が欠伸ってどういうことだよ?
深く考えるのは放棄して、俺はクロに向かって言った。
「おはよう、クロ。なあ、この世界に時計ってないの?」
『時計? あれか? 時間がわかるやつか?』
その答えにちょっと不安を抱きながら俺は頷いて答える。
「うん、そうだけど……」
『ちょっと待ってろ』
って言ったかと思うと、クロが白く光ったような気がした。
『ほらよ!』
っていったかと思うと、目の前に丸い時計が現れる。
「え、嘘!」
俺はとっさに手を出して、その時計を掴む。
これ、懐中時計、かな?
カチカチと音が鳴っていて、時刻は六時を指している。
「って何だよ今の」
『へへへー。お前に俺の力を見せてやろうと思って……』
「余計なことするなっての!」
『なんだよ! お前が時計あるかっていうから特別大サービスで出してやったっていうのに!』
そうクロは怒ったように紅く光る。
大サービスっていうと……ただって事なのか? いや、そんな事で心動かされちゃ駄目だろ、俺。
俺は首を横に振って、クロに向けて言った。
「とりあえず、勝手にそういうの出すなっての」
『なんなんだよ! お前が欲しがったから出してやったっていうのに。もう知らねえぞ!』
クロはへそを曲げたのか、そのまま黙り込んで口をきいてくれなくなった。




