6 食事へ
俺はクロをズボンのポケットに突っこんで、扉に向かって叫んだ。
「はい」
「ユーキ! ご飯に行きましょう!」
アレクシアさんの声だ。
「わ、わかった!」
言いながら俺は財布が入ったウエストポーチを巻いて、部屋を出た。
なんかズボンのポケットの中で騒いでるような気がするけど、無視だムシ。
アレクシアさんは着替えたようで、シャツとゆったりとしたワイドパンツというラフな格好をしている。
武器も携帯していない。
メシに行くだけだから、武器とか鎧、いらねえって事なんかな。
「食事ってどこでするんですか?」
「したの食堂! ほら、ここに来たとき賑やかだったでしょう?」
確かにそうだった。
アレクシアさんと連れだって、俺たちは階段を下りていく。
宿の一階には大浴場やトイレ、食堂がある。
声に惹かれるように食堂へと行くと、さっきよりも人が増えてるようだった。
せわしなく動く店員たち。
厨房の方では注文の声が響き渡る。
俺たちに気がついたスタッフさんが、ぱっと明るい顔をして言った。
「あ、宿ご利用の方ですよね! あちらが宿利用のお客様のスペースになってますので、あちらに座ってください!」
そして彼女は店の奥を指差す。
客が店内いっぱいなのに、そこだけはぽっかりと空いている。
器用に席の合間を縫ってアレクシアさんがそこに近づいていくけれど、俺は、
「すいません……すいません」
と言いながら、おどおどと進んで行った。
やばい、ホールを歩くだけでも一苦労だな。
向かい合って椅子に座り、メニュー表を見る。
知らない文字なはずなのに、何か読めるのは何でだろう。これ、いわゆるチートってやつかな。
「川魚のムニエルに、合鴨のステーキ。フライもあるのね。どれもおいしそうね!」
そう、アレクシアさんが声を弾ませる。
どれにもサラダとパン、スープがついているらしい。
合鴨って食ったことないな。
アレクシアさんは川魚のフライを、俺は合鴨のステーキを注文する。
店内を見回すと、なんかところどころ光ってみる。
あ、あの人がしている指輪、高いのかな。
あの人のネックレスはそうでもないみたいだけど。
どうやら俺は、見たものの価値が何となくだけどわかるらしい。これもチートってやつなんだろうか。
今のところ何の役に立つのかわかんねえけど。あの黒い石、クロの事は全然わかんねえしな。
アレクシアさんは、腕を組んでそれをテーブルに置き、身を乗り出すようにして言った
「それでユーキの旅の目的は何なの?」
きらきらと、好奇心で目を輝かせて言われて、俺はたじろいでしまう。
「も、も、も……目的……?」
そんなんとっさに言われて何も出てこない。
「あ、アクレシアさんは目的地とか……その、あるんですか?」
しどろもどろになりながら言うと、彼女は大きく頷いて言った。
「ええ! 私は色んな場所を旅することなの! この大陸、ストーニア大陸はとっても大きいわ! いろんな国を巡って色んな人に出会って、人間についてたくさん知りたいの」
そんな夢を語るアレクシアさんが、すっげー眩しく思えた。
「そうなんだ……」
「それでね、これ見て! この村の地図なんだけどね」
そう言って、アレクシアさんはワイドパンツのポケットから一枚の紙を取り出す。
紙を開くと、それは地図みたいだった。
見たことのある地形だからこの村の地図だろう。
俺たちが石拾いをした川や、村の通りなんかが簡単に書いてある。
地図によると、北の方にある丘にどうも石拾いができるスポットがあるらしい。
「ちょっと見てて」
そう言ったかと思うと、アレクシアさんはその地図をすっと撫でて言った。
『それ!』
すると、絵に描かれた家や川が立体的に浮かび上がる。
「な……え?」
白黒の絵が、紙の上で動いている。水の流れもわかるし、家も、丘も、全部立体になって、紙の上にある。
「な、な……なにこれ?」
「すごいわよね! これ、魔法の立体地図なの。特殊なインクで描いてあって、キーワードをいうと浮かび上がるの。どこの村にもあるんですって!」
「やば……っ」
俺は地図の立体画像を見つめる。
すげえしか言えない。
「この地図集めようと思ってるのよねー。この地図をコレクションするのが最近、流行っているんですって!」
「そうなんだぁ。そっか、そういう旅の目的っていうのも面白そう」
「でしょー? それにどの村や町にも名産の石があるから、そいう言うのを集めるのも楽しいし、石手帳っていうのがあって、今日行ったスターダスト協会みたいな所に石の鑑定持っていくとね、スタンプ押してもらえるんですって!」
なにそのスタンプラリーみたいなやつ。
楽しそうに語るアレクシアさんを見ながら俺は考えた。
不思議な地図に、石手帳。
旅の目的、見えてきたかもしれない。




