5 黒い石
黒い、喋る石。
なんか俺、とんでもない呪いの石、手に入れたんじゃないかな。
そう思って俺はその喋る石をじっと見つめる。
「うーん……」
いくら見つめても、何にも見えない。こんな喋る石ならなんか価値がありそうなのにな。黒く光って見えるだけで何にもわからない。
なんかぞっとする石だから、持っていたらやばいかもしれない。
そう思って俺は、スタスタと通りを歩き始めた。
「ユーキ、どうしたの?」
「うん、ちょっとね。あっちの川に用があって」
「そうなの?」
不思議そうに言って、アレクシアさんがついてくる。
『ちょっと待てよ、川に何の用があるんだよ?』
いぶかしげに石が話しかけてくるけれど、俺は無視して夕暮れの町を急いで歩いた。
村はずれにある、さっきまで石を拾っていた川。そこにはもう、人影はなかった。
みんな家に帰ってご飯だろうな。
「ここでいいか」
そう呟いて俺は石を握りしめる。
『ちょ、待てよ。お前何考えて……』
「そいや!」
俺は石の言葉を無視して、腕を大きく振って石を川へと投げ込んだ。
黒い石は大きく弧を描いて、川の向こうへと消えていく。
『ちょ、テメー!』
なんて言う叫びが聞こえた気がするけど知らない。
だって、喋る石なんて気持ち悪いし。
なんかキラン、って光って消えた気がするけど気のせいだろうな。
振り返ると、アレクシアさんがこちらを見つめて首を傾げて言った。
「あ、さっきの石、捨てたの?」
「うん。なんか価値がないって言われたから」
「そうなの。なにかありそうに見えたけど。石にはね、不思議な力を宿している物があるの」
「へえ、そうなんだ」
歩きながら、アレクシアさんは石の伝説について教えてくれた。
「七つそろえると願いを叶えてくれる石とかね、怪我を治してくれる石とか。私が住む森にある石は、村に被害を与えるような人間を近づけない、迷いの森の石になっているの」
「へえ、そういうのがあるんだ」
さすが魔法がある世界。なんか最初の七つそろえると願い事叶えてくれるってどっかで聞いたことあるけど。
「その中でも有名なのが、『リヒトヴァイス』っていう、真っ白な石で願い事を叶えてくれるっていう石かしら? あとは『シラーズナイト』っていう力を与えてくれる石とかあるらしいわよ。水を生み出し続ける『アクアライト』とか、炎を自在に操る『ファイアガ』とか」
「へえ。じゃあ旅をしていたらそういう珍しい石に出会えるかもしれないのかな?」
言いながら俺は顎に手を当てて首を傾げた。
なんかちょっと楽しそうだな。そういうのがあるって思うと。
アレクシアさんは大きく頷く。
「そうね! もっと小さな奇跡を起こしてくれる石ならたくさん出会えるかもしれないわよ! そういう目標があると旅がまた楽しくなるわね」
そうアレクシアさんは声を弾ませた。
確かにそうだな。
俺は夕暮れ色に染まるナトジャの村を見つめる。
俺が知っている日本の町とは全然違う、木でつくられて家々と、電柱のない通り。
外灯はちゃんとあって、ランプに向かってなんか魔法をかけている人の姿が見える。
魔法の明かりで町を照らすのか。
すげーな。
ナトジャの村の中心には数軒の宿屋の他、雑貨屋や料理屋があるらしい。
村の少し外れに鍛冶屋があってそこで防具などが買えるそうだ。
とりあえず俺は服とかがないから、服を買って宿屋に部屋をとる。
部屋は六畳くらいのひとり部屋で、アレクシアさんは隣の部屋だ。
大浴場があって、一階には誰でも利用できるレストランになっている。
宿屋の手続きをしていたら、すでにお酒を飲んで出来上がった人たちが声を上げて楽しそうにしていたっけ。
俺は荷物を部屋に置き、ベッドに座って一息つく。
窓の外に目をやると、夕暮れに染まった村と、森が見える。
「とんでもないことになったなぁ。見るもの全部新鮮だったし」
ちょっと買い物したけど、売られていた物は見たことないような物ばっかりだった。
リュックサックも、バッグも、革や布でできたシンプルなものが多かった。
無駄な装飾がなくって、実用性特化っていうのかな。
服もそうだ。
ズボンにシャツ、マントにコート。単色の物が多かった。いわゆるジーパンみたいなのが置いてあったのがちょっと驚いた。
「何がどうなってんだろうなぁ」
立ち上がって、俺は窓に近づいてその窓を開けてみた。
風が心地いい。虫の鳴き声とかしないけど、季節、いつなんだろう。
そう思った時だった。
向こうからなにか光った物がこっちに近づいてくる。
「え? え?」
近づいてきたその光はとっさに俺が前に突き出した手の中におさまって、声を上げた。
『てめー! 俺を投げ捨てるとは何事だ!』
「え? あ、お、お前!」
それは、さっき川に捨てたはずの怪しい黒い石だった。
石は、真っ赤に光って俺に文句を言ってくる。
『願い事、叶えてやるって言ってんのに、なんで投げ捨てるんだよ! 痛かったんだぞ!』
「痛かったって、お前石だろ? なんで痛いって思うんだよ?」
呆れて言う俺に、石は赤く光りながら文句を言ってくる。
『いてえもんはいてえんだよ! なんなんだよ? お前礼儀とか知らねえの?』
「価値がない石を投げ捨てて怒られるなんて、誰も思わねえっての!」
『俺を石扱いするな! 俺には「ウィッシェヴァイス」っていう立派な名前が……』
「なんで黒いのに『ヴァイス』なんだよ? ヴァイスって白って意味だろ? 黒いんだから『クロ』でいいじゃん」
『勝手に俺の名前、変えるんじゃねえよ!』
真っ赤に光って怒る石。
なんなんだよこの石。訳分かんねえよ。
そう思って俺は、石、クロに尋ねた。
「そんなに怒ってるのになんで戻ってきたんだよ?」
呆れた顔で言うと、石は黒く光りながら言った。
『俺は捨てられないからな。一度拾ったら、願い事叶えるまではお前から離れねー』
何だよそれ。
「やっぱ呪いじゃねえか」
どうやら俺はやばい石を拾ったらしい。どうするかな、これ。
その時だった。
扉を叩く音がした。




