10 ブレーヌの町で
次の日。
俺とアレクシアさんは連れだって町はずれにある川に入った。
この町もナトジャと同じように、鉱石を拾いにくる人の姿が多い。
すげえな。本当に鉱石拾いがメジャーなんだな。
川を見回すと、ところどころに光が見える。
「なあアレクシアさん」
「なあに?」
「あの、鉱石ってそのまんまで光る?」
川を見つめながら言うと、アレクシアさんは笑い交じりに言った。
「光るって言えば光るわね。だって日の光を浴びたら鉱石は光るもの」
『光って見えるに決まってるだろ。太陽浴びれば。何言ってるんだよお前』
アレクシアさんの声とクロの声が被る。
いやたぶん俺が言いたいこととなんか違う気がするんだけどな。だって、石の姿、見えなくても光って見えるから。
どう見ても大きい石の陰に、光が見えるし。
やっぱこれ、チート能力何だろうな。
でもこの能力の事、まだ俺、よくわかっていない。
価値がある物はなんか光って見える。ってことくらいだ。
そしてこの能力は皆は持っていないっぽい、ってこと。
俺は自分の目を擦ってから川面を見る。
明らかに、日の光による煌めきとは違う光が川のところどころで見える。
「この力、何も無ければいいけどなぁ」
不安が胸にひろがるのを感じながら、俺は川で光る石にまっすぐ向かっていった。
スターダスト協会はどこの町や村にもあるって聞いたけど、まじだった。
ナトジャの村みたいな人口数百人もいないであろう村にもあるんだもんな。
ここ、ブルーヌだと、何軒もスターダスト協会の店があるらしい。
スターダスト協会に持ち込んだ石は、けっこうな金になった。
なんかジャスパーは御守りとして人気があるそうだ。特に赤が濃くて黒い模様がくっきり出ている物は、火の石と呼ばれて価値が高くなるらしい。
俺が見つけた石は深紅の物が多かった。
石を鑑定したスタッフは感心した様な、恐ろしい物を見るような目で俺を見て言った。
「どの石も人気の深紅の物ばかりだったけど。お前の目、すげえな」
その言葉に俺は、苦笑するばかりだ。
「あはは、たまたまですよ」
そう笑って誤魔化したものの、スタッフさんの目は全然笑ってくれない。
そして、彼はアレクシアさんの方をちらっと見たあと言った。
「黒髪……エルフ連れ……お前、もしかしてナトジャの村から……」
その言葉に俺はぎくり、としてしまう。
もしかして俺の話、なんか広まってる……?
嫌な予感がして、俺はさっと書類などを受け取って、
「い、いこう! 俺たちこの後用があるんで!」
と言い、スタンプを押してもらってさっさとスターダスト協会を出ていった。
通りを歩きながら、アレクシアさんが不安げな声を出す。
「なんだか私たちの事、知られてるようね。どうしてかしら」
「さ、さぁ? 何でだろうね」
言いながら俺は苦笑を浮かべる。
たぶんあれ、俺が目をつけられているってことだよな。
黒髪って最初言われたし、エルフ連れって言われたし。
どう考えても俺、主体だもんな。
何もなければいいけど。
不安はずっと、胸の奥でくすぶっていた。
ブルーヌの町に滞在して三日。
それは起きた。
弓矢の練習をした帰り道、俺たちはスターダスト協会に立ち寄った。
「スターダスト協会は買い取った宝石を加工して、販売もしているのよー。御守りとか、ネックレスとか。御守りは一番人気なのよね」
なんかパワーストーンのブレスレットとかあったっけ。
アレクシアさんの話を聞きながら俺はそんなものを思い出す。
スターダスト協会の売店は結構賑わっていた。
ジャスパーのアクセサリーや、丸い石にひもを通して簡単に持ち運べるようになっているストラップみたいなもの。それにブレスレットもある。
価格差がすげえけど、俺が見つけた深紅で黒い模様が濃いやつは高いし、すげー光って見える。
御守りかぁ。
こういうのって効果あるのかな。でももう呪いの石、拾っちゃったし。
そう思って俺はクロへと目を落とす。
「今さら御守り買っても絶対意味ないよなぁ……」
そうひとりごちると、クロは赤く光り出す。
『おい、お前! もしかして俺という御守りがありながら浮気しようとしてるんじゃねえだろうな?』
「石相手に浮気って何だよ?」
呆れながら言うと、クロが言いかえしてくる。
『だって御守り買おうとしてるんだろ? 俺というものがありながら』
そもそもお前は御守りとかじゃないだろ、って言いたいのをぐっと押さえる。だってここは外だから。
クロの声、まじで誰にも聞こえないらしく、喋っていたらただのひとりごとにしかならない。
実際、不審そうに俺の事を見ている人たちがいて、ひそひそと話していていたたまれない気持ちになってくる。
外にいる時は無視すればいいんだけど、話しかけられると思わず相手にしちゃうんだよなぁ。
そうひとり息をつき、俺は店内を見回した。
その時だった。
男が売店の方をさっと見て周った後、別室にある鑑定ルームの方に向かっていく。
今の時間は空いているらしく、鑑定に並んでいる人はそんなにいないみたいだった。
今の人、何か持ってるようには見えなかったけどな……
価値が大してない石も、鈍いながらも光って見えることに最近気がついた。
強い光の方が目立つからそっちばっかり見てて、その事に全然気が付かなかったんだよな。
だから実は、この部屋の中、超見にくい。どの石も光って見えるから。
室内を見て周っていると、奥から声が聞こえてきた。
「これ……本物……?」
「いや、偽物じゃないのか?」
「でも俺には本物に見えるけど……」
なんていう自信のなさげな議論をしているみたいだった。
ここにいる鑑定のスタッフは皆プロなはずなのに、なんでそんなに悩むんだろ?
ちょっと興味を抱いて俺は、鑑定ルームの方へと足を向けた。
カウンターの前に立つのは、さっき俺が見た中年の明るい茶髪の男性だった。
身なりはふつう……平民だろうな。
カウンターの向こう側。鑑定のスタッフと受付の男性が四人ほど集まって議論しているみたいだった。
「エメラルド特有の傷が見える」
「最近、エメラルドはかなり精巧な偽物が出回ってるぞ?」
そんなやり取りに対して、男がカウンターに手をついて言った。
「おいおい、偽物なんてそんなことあるわけねえだろ? その石はばあちゃんがじいちゃんから貰ったっていう石なんだぞ?」
俺は、男の陰からこっそりとその石を見ようと顔を出す。
鑑定のスタッフと思われる男が持つ白い布の上に、小さな青い石が店の照明の下で光って見える。
でも、俺の目には鈍い光にしか見えなかった。
「あれ、エメラルドじゃない」
とっさにそう口にしてしまい、俺はハッとして口を塞ぐ。
でももう遅かった。
スターダスト協会のスタッフ、宝石を持ち込んだ男の目が俺の方を向く。
俺の顔を見たスタッフのひとりが目を見開いて俺を見る。
「あ! お前確か……ナトジャで高い石ばっかり持ち込んで来たっていう黒髪の男じゃないのか!」
「あぁ、そういえばこの間、他の店に現れたって聞いたぞ! すげー鑑定眼をもってるんじゃないかって」
スターダスト協会のスタッフが口々に言う。
やばい、事をしてしまったかもしれない。
スタッフたちは顔を見合わせたあと、改めて持ち込まれたエメラルドを見る。
虫眼鏡みたいなのを使ってその石を見たあと、彼らは顔を見合わせて頷き合ってから真面目な様子で言った。
「これは買い取れない」
すると、宝石を持ち込んだ男はバン、とカウンターに手を置いて声を上げる。
「ちょ……な、なんでだよ! おかしいだろ? こんな素人の言う事信じるのかよ?」
そう言いながら俺の方を指差す。
いや、俺に責任押し付けないでほしいんだけど?
鑑定のスタッフは常識があるようで、神妙な顔で首を横に振る。
「そうじゃない。この石には怪しい点が多すぎる。エメラルドは傷があるのが特徴だし、この石にもその特徴があるが……」
と言い、鑑定のスタッフは男に宝石をそっと差し出す。
「以前見た偽物と似ているように見えるんだ。だから今日は帰ってくれ」
すると男は宝石をがっと掴むと、俺の方を見て睨み付けてくる。
「ひっ……」
思わず悲鳴を上げて後ずさる俺を一瞥した後、男は早足で部屋を出ていった。
やば、こわっ。
俺、余計なことしたよな……
怯えつつ、俺は男の背中を見送った後、店のスタッフの方を見る。
彼らは俺の方を見ると、小さく頭を下げて言った。
「ありがとう。偽物かどうか自信が持てなかったが、あんたの一言で自信持てたよ」
そして小さく笑う。
「え? あ……いや……」
言いながら俺は恥ずかしくなりいたたまれなくなって、頭を下げる。
「し、し、失礼しました!」
そう声を上げてくるり、と背を向け、売店の方へと逃げる。
するとそこには、色んな石を手に取って悩むアレクシアの姿があった。
彼女は俺に気が付くと、ニコッと微笑み言った。
「あら、どこに行ってたの?」
「え? いや、何でもない」
裏返った声で言いながら、俺は首を横に振る。
なんかすげー心臓が痛い。なんかやばい事、起こらなきゃいいけどな……手の中も額も汗だくなんだけど。
なんか気持ちが落ち着かなくってずっと、胸がドキドキし続けた。




