11 帰り道
アレクシアさんは店でブレスレットを。俺はストラップみたいなのを買った。
なんか絡まれそうで嫌だったし、御守りにならないかなって思って。
それを、ショルダーバッグに括り付ける。
真っ赤なジャスパーで黒い模様が雷みたいに入っていた。こういうの買ったの初めてだなぁ。
そのせいでクロはずっと不機嫌だ。
なんか青く光りながら、
『俺という御守りがありながら酷いだろ……』
なんて言って拗ねている。
クロ、なんか特別な石とか言っていたけどまじなんだろうか。
拗ねるわ、怒るわ、照れるわでなんかこう……伝説感がない。
俺は隣で満足げにブレスレットを見つめるアレクシアさんに尋ねた。
「ねえアレクシアさん」
「なあに?」
「えーと、石、詳しい?」
するとアレクシアさんは、どん、と胸を叩いて満面の笑顔になる。
「もちろんよ! 私は貴方よりずっと長く生きているんだからね。まーかせて。それで何を聞きたいの?」
「あのさ、『ウィッシェヴァイス』って石、知ってる?」
様子を伺いながら尋ねると、アクレシアさんは眉間にしわを寄せて怪訝な顔をした。
「聞いたことないわね。名前からしてなにかお願いごとを叶えてくれそうな石に見えるけど……」
「あぁ、うん。たぶんそうなんだけど……」
言いながら俺は拗ねるクロを見やる。
石だから表情はわかんないけど、色々光るお蔭で機嫌がどうなのかはわかるんだよな。
まだ青っぽく光って見える。まだ拗ねているらしい。
「願い事を叶えてくれる石はね、歴史上たくさんあるのよ。その中身も様々なんだけど。たとえば七つ集めると何でも叶えてくれる石『セブンススターズ』とか、『リヒトヴァイス』とか。願い事を叶えるためには代償が必要な物もあったり」
「代償って何なんですか?」
クロも代償が必要って言っていたよな。
それを思い出して、俺は慎重な気持ちでアレクシアさんの答えを待つ。
彼女は人差し指を顎に当てて言った。
「そうね。私が聞いたことあるのは、その人の欲望を代償にするものでしょ? お金っていうのもあるし、寿命とか、若さとか。命そのものっていうのもあるらしいわよ?」
やっぱただじゃあ願い事なんて叶わないよなぁ。
そう思って俺はクロをそっと撫でる。
まだ拗ねているらしいクロは何の反応も示さない。ちょっと寂しい。
「そうなんだ。ありがとうアレクシアさん」
「いいえー! 石の伝承を集めた本があるはずだから、このあと見に行きましょうよ。石手帳にも簡単には載っているけど、詳しく知るなら本が一番だしね」
本かぁ。それいいかも。
本手帳には詳しい石の説明は書いてないからな。
俺は大きく頷いて答える。
「うん、そうするよ」
そして俺たちは本屋へと足を向けた。
その時だった。
家の隙間から突然、俺たちの進路を邪魔するように現れた男の姿があった。
「おい」
俺よりもずっと年上の中年男性。
明るい茶色の髪の大して人相のよくない男。
この男には見覚えがあった。
「あ……」
さっき、スターダスト協会で偽物の宝石を持ち込んで売ろうとしていたやつだ。
どう見てもマフィアとかヤクザみたいな男は、ポケットに手を突っ込み俺を睨み付けている。
男は低い声で俺に向かって言った。
「お前、さっきの黒髪だよなぁ」
「え……あの……」
しどろもどろに呟いて、俺は半歩後ずさる。
すると、愉快そうな声が響いた。
『なんだなんだ? 喧嘩か? お前の知り合いかよ、ユーキ?』
「し、知り合いじゃねえよ。さっきスターダスト協会で……」
人目もはばからず思わず説明すると、クロが声を上げる。
『あー! 偽物のサファイア持ち込んで騙そうとしたやつか! サファイアってなぁ、クリスタル使って偽物作れるんだぜ!』
と、クロが説明しだす。
う、うざい。
一方で隣に立つアレクシアさんは、ずと黙っている。
チラッと見ると、なんか様子を伺うように男を見ているようだった。
どうしよう、これ。アレクシアさんに何かあったら……
いやでも俺には彼女を守る力なんてない。むしろきっと、守られる側だろう。どうする、俺。
そんなことを考えていると、男はイラついたように声を荒げた。
「何独りごと言ってんだよ! お前、馬鹿にしてんのか?」
勢いに気圧されて、俺はびくっと震えて首を横にぶんぶんと振る。
「い、いや、その……」
「お前のせいで宝石売れなかったじゃねえか! どうしてくれるんだぁ?」
「そ、それは……その……」
偽物を売ろうとしたからだろ、って言う言葉が出てこない。
額に、背中に汗が吹きだし、視界が歪んでくる。
怖い。
このままじゃあ俺、この男にどうにかされるよな? 殴られる? いや、最悪……殺されるかもしれない。
そう思うと怖さで足が地面に縛り付けられたかのように、全然動かなくなってしまう。
逃げないと。
そう思って俺はアレクシアさんの方を見る。
彼女はじっと動かない。
何かを待っているかのようにも見える。
彼女の腕を掴んで走って逃げる? 町中だし、逃げおおせるだろう。
そう頭の中でぐちゃぐちゃと考えているときだった。
「お前、なめてんのかぁ!?」
そう声を上げて男は、どこに隠していたのか剣を取り出した。
短い剣だ。
それを見た周りの人たちが悲鳴を上げる。
「おい、誰か衛兵呼んで来い!」
なんて声が響く。
そうかこの世界にもちゃんと兵士とかいるのか。なのにこいつ、なんでこんな人目がつくところで喧嘩ふっかけてきたんだ?
ただのバカなのか、それ以上に頭にきているのか。
考えあぐねいていると、男は手と足をひろげて立ち、怒りに顔を歪めて言った。
「お前、わかってんだろうなぁ! 宝石売れなかった責任、とれって言ってるんだよ!」
ンな無茶苦茶な。
そう思うのに何も言えず、動けずにいる俺にクロが囁きかけてくる。
『危機なんだろ? 俺を使えよぉ。代償は貰うけどなぁ』
にやにや笑って、耳の纏わりつくような声で言われて俺は首を横に振る。
「こ……こんなことでお前を頼らねーよ」
そう言ったものの声はすげー震えていたし、身体なんてもっと震えている。
『なんでだよ? お前戦えないんだろ? 望めよ、力をくださいって。俺にかかりゃあ、あんなやつコテンパンにする力、与えられるんだぜ?』
と、クロが焦ったような声を出す。
「だからそういうのいらねえっての」
そうクロに答えたときだった。
「だからお前、誰と喋ってんだよ!」
イラついたような声を上げて、男が短剣を握りしめて襲い掛かってきた。
「ひっ……」
剣を握った相手がこっちに向かってくるのに、俺、何もできない。逃げることも、戦うことも。
周りで悲鳴が上がる。
「衛兵はまだかよ!」
なんて言う声が遠くに響く。
その時だった。
『風ようず巻け!』
っていうアレクシアさんの声がしたかと思うと、男の周りで小さな竜巻が起こる。
「うわぁ! ま、魔法かよ!」
そう声を上げる男。
アレクシアさんはばっと俺の手を掴むと、振り返ってその場から走り出した。
「え? あ……」
「今のうちに逃げましょう」
いたって冷静にアレクシアさんは言って、通りを駆け抜けて行った。




