12 逃げた先で
俺たちは道を走り、通りを曲がり下り坂を駆け下りていく。
背中から聞こえる騒ぎがどんどん遠くなっていくのを感じながら、俺はアレクシアさんに引っ張られながら走った。
「はぁ……はぁっ……」
こんなに走るのは久しぶりで、すぐに息が切れてしまう。
そんな俺とは対照的に、アレクシアさんは大して疲れた様子もなかった。
アレクシアさんはエルフだっていうのに、俺より体力あるのかな。そう思うとちょっとショックだった。
どれくらい走っただろうか。何度か角を曲がった先で、アレクシアさんは走る速度を落としていく。そして通りの隅で立ち止まり、ふう、と息をついてから通りの向こうへと目をやって言った。
「これだけ離れればもう大丈夫でしょう」
そして俺の方を見て微笑んだ。
アレクシアさん、肩で息はしているけどそんなに疲れた感じがしない。
対して俺は膝に手を当てて、ゼーハー、と苦しい息を繰り返している。
疲れて喋れねえよ。
「はぁ……はぁ……」
そんな俺の様子をあざ笑うやつがいる。
『お前体力ねえなぁ! ほら、力が欲しくないか?』
そう笑いながらクロが甲高い声で言ってきて、ちょっとムッとしてしまう。
石にイラつくとかどうかしているし、今はこいつの相手をしている余裕はない。
だからクロの煽りをガン無視して、俺はアレクシアさんの方を向いて言った。
「す、すみません……あ、ありがとう、ございます……」
そんな苦しい声を出す俺を苦笑して見つめて、彼女は視線を巡らせる。
「んー、そこにカフェがあるわ。ちょっとそこで休みましょうか」
その提案に俺は黙ってうんうん、と頷いた。
店に入って、俺たちは一息つく。
注文して届いた飲み物を、俺はぐいっと一気に飲んだ。
何のお茶かはわからねえけど喉、からからだったからおいしい。
まるで冷蔵庫で冷やしたみたいに冷たいし、どうなってるんだろう。
「あー、どうなるかと思った」
グラスの半分以上のお茶を飲み干して生き返った俺は、短剣を持った男の姿を思い出して思わず身震いをした。
テーブルの向こう側に座るアレクシアさんは、
グラスを両手で持ってそれに口をつけてから、俺を見つめて言った。
「それで、あの人は何だったの?」
そりゃあ気になるよな。
俺はアレクシアさんに、スターダスト協会で会ったことを話した。
簡単に、だけど。
話しを聞いたアレクシアさんは、驚いたように目を丸くする。
「それって、ユーキが偽物の宝石を見抜いたって事?」
その言葉に俺は顔をひきつらせて笑い、小さく頷く。
「ま……まあ……そうなるかな」
「どうやってわかったの? だって石を詳しく見たわけじゃあないわよね? 鑑定の人たちがルーペを使ってもわからなかったわけでしょう?」
あ……言われてみればそうだ。
俺は一度もあの偽物のエメラルドを手に持って見ていない。
でも、わかったんだ。
宝石特有の光が見えなかったから。
アレクシアさんは、好奇心に目を輝かせて、腰を軽く浮かせて言った。
「ねえどうやってわかったの? ユーキ、魔法の目でも持っているの?」
「……魔法の……目?」
聞いたことのない言葉に、俺は顔をしかめる。
なんだそれ。邪眼みたいなやつ?
全然想像できないでいると、アレクシアさんが小さく首を傾げて教えてくれた。
「魔法の目よ。見たものの能力がわかるとか、見たものを何でも記憶できるとか、そういう目を持つ人がいるんですって。もしかしたらユーキはそういう目を持っているのかもしれないわね」
「魔法の目……」
だから俺、あのエメラルドをみて本物じゃないってわかったんかな。
俺の目の力を確かめる方法って何かあるのんだろうか。
そう思って俺はアレクシアさんの方を見る。
……みても何にもわかんない。
わずかにアレクシアさんがさっき買ったブレスレットが光ってるくらいかなぁ。
俺は試しに店の中を見回してみる。
客の首や指輪、店の調度品らしき石の塊。鈍い光や眩しい光物の、色んな光が店内を照らしている。
現状、石の価値しか分かんねえのかなぁ。
他の物は特に光るとかないもんな。
そう思って俺は改めて首にかけてあるクロを見る。
クロはなにかぶつぶつと呟いていた。
『なんだよ、無視しやがってさぁ……俺を何だと思ってんだよ』
なんか鈍い青の光を放っているような。
拗ねてるんだな。あとで宿に帰ったら少し相手をしてやるか。こいつに聞きたいこと、色々あるしな。
なので俺はクロを指先でちょっと撫でてからアレクシアさんの方を見て言った。
「そんなのがあるんだ。俺、全然知らなくってさ」
「人間には余り知られていないのかもしれないわね。ユーキのその目、何かすごい力があるのかもしれないから詳しく調べてみるといいかも」
「調べるかぁ……」
「宿に帰ったら一緒に考えてみましょうか。その前に本屋さんで石の本とか魔法の目のこと書いてありそうな本、捜しましょう」
その提案に、俺は大きく頷いた。




