13 宿に帰って
本屋で本を買い、宿屋に帰る。
宿の食堂でお茶を貰い、俺は部屋で買ってきた本を読むことにした。
クロは今、黙っている。
俺はまず、石について書かれている本を開いた。
これにクロのこと載ってないかと思ったんだけど、パラパラとめくるページに、ウィッシェヴァイスの情報はなさそうだった。
願い事を叶える石、っていうのはいくつも載っているのに。
このクロの性格だったら絶対なんか伝承が残っていそうだと思ったんだけど、何でだろう。
不思議に思って、俺はクロに尋ねた。
「なあクロ、お前、何者なんだ?」
そう声をかけると、クロは答えた。
『言っただろ、何でも願い事を叶えてやるって。まあ代償は貰うんだけどな』
そしてなんか、ピンク色っぽく光る。
こいつと過ごしてわかったけど、なんか悪巧みしたり、にやにやしてるときはピンク色っぽく光るらしい。
わかりやすすぎるだろ。
「だからその代償って何だよ」
『教えねーよー。俺に教える義務、ねえし』
そしてまた、ピンクっぽく光る。
ってことはなんかろくでもない代償何だろうな。絶対こいつに願い事はしない。
そう心に決めて、俺は本を読んだ。
「へえ……お前みたいな石っていっぱいあるんだな。つうか多すぎだろ。『願い石』『願い星』『ホープスター』『ウィッシュダスト』……なんだよこのネーミングセンス」
呆れ顔で言うと、クロが紅く光りながら声を上げた。
『おいおいおいおい! 俺をそんなザコ石と一緒にするなよなぁ? そいつらはすっげー限定的な、ちっちゃい願い事しか叶えらんないの! お、れ、さ、まはー、もっとすっごい願い事を叶えられるんだよ」
怒ったかと思うと今度は自慢げに言ってくる。微妙に赤の色が違うかも。
こいつの色の変化について記録したほうがいいかもしれない。
そう思いつつ、俺は本に目を落として言った。
「へえ、そうなんだ。願い事叶えてもらうのに、食べ物要求する奴とかいるんだな。どうやって食うんだ?」
言いながら、大きな石が口を開ける姿を想像する。なんか怖い。
『そんなん決まってるだろ。口開けて喰うんだよ』
当たり前のようにクロに言われ、俺は自分の想像が間違っていないことに驚かされる。
「……いや、石に口ができるってどういうことだよ……?」
わけわかんねーよ。この世界怖いよ。
そう思いつつ、俺は本を読み進めていった。って言っても流し読みだけど。
アレクシアさんが言っていたように、願い事をかなえる石以外にもたくさんの不思議な力を持つ石があるらしい。
その中に、アレクシアさんがいた村にあると言う、迷いの森の石の事も載っていた。
エルフの村に近づけないように、森を迷いの森にする石が祀られているとかなんとか。
だからアルフの村、カシュランには普通の人は近づけないそうだ。
他にも物を冷やす石とか、燃える石とかある。さっきお店で飲んだお茶が冷たかったのはこういう石があるからかな。
クロに似た特徴の石はいくつかあるけど、それっぽくないんだよな。まず黒くないし。
「『リヒトヴァイス』に『シラーズライト』……これはアレクシアさんが言ってたな」
リヒトヴァイスはちょっとしたお願いを叶えてくれる石で、シラーズライトは人の欲望を喰らって願いを叶えてくれるらしい。
欲望を喰らうってどういう意味なんだろう。抽象的すぎてよくわからない。
「クロ、有名そうなのに。これにのってないって事は有名じゃないのか?」
そんな呟きに、クロは怒ったように紅くにぶく光る。
『俺が人間なんかの記録に残るわけないだろ? 俺様は人知を超えた存在なんだよ』
そうイキるクロを見つめ、俺は首を傾げる。
確かに、俺の目には光っても見えないし、鑑定でも価値がないって言われたもんなぁ。
「そうかもしれない」
ひとり納得をして、俺は本を閉じて魔法の目について書いてある本を手にした。
っていっても、魔法についてまとめた本で、そのなかに魔法の目に関する記述があるってだけで大して詳しくは載ってなさそうだったけど。
『かつてメドゥーサ、と呼ばれるモンスターがいた。そのモンスターに見つめられた者は石にされてしまったという。このように魔法をかけられる目を持つモンスターが存在した。人類の中にも時おりそういった不思議な目をもつ者が生まれると言われている』
この世界、モンスターが珍しいらしい。山奥とか行くとときどきいる程度だとか。
そのせいかモンスターに関する記述はすべて過去形になっていた。
『相手を魅了する目、心を操る目、鑑定する目……』
「鑑定する目……」
俺は本の記述を追っていく。
『お、なんか面白い事調べてるんだな。魔法の目かぁ。そういえば昔、どんな石もたちまち何の石かって見抜くやつの話、聞いたことあるぞ!』
そうテンション高めにクロが言ってくる。
クロ、俺が何を見ているのかわかっているような口ぶりな時あるけど、目、あるんだろうか。
いやそれよりも。
俺はクロの方をみて尋ねた。
「まじで、そんな目をもってるやつ、いたのかよ?」
『俺は会ったことないけどな! 噂だぜ、噂。お前もなんか知らねえけど、確実にいい石見つけるよなぁ。でも俺の価値わかんなかったじゃねえか』
そう、不満げにクロが言う。
確かにそうだ。今見たってクロがなんなのかさっぱりわからない。
試しに御守りとして買ったジャスパーを見てみると、ちゃんと光って見える。
クロには輝きが何もない。
価値がある石が放つ光は、クロが感情を表す光とは違うんだよな。
価値がある石は、夜空にある星みたいにまたたいて見える。でも、クロが放つ感情の光はすぐ色が変わるし。普段はなんの光もないからな。
とりあえず俺にはこの鑑定の目っていうのがあるんだろうな、と納得する。
でも。
「今のところ、金もうけ以外には使えないよなぁ」
言いながら俺は今日、襲われたことを思い出す。
アレクシアさんがいなかったらきっと俺はあの剣で……
想像すると怖くてたまらない。
せめてこの力が戦いに役立てばいいのに。こんなんじゃあ、俺、アレクシアさんの役には立てないだろうなぁ。
そう思うと大きなため息が零れ落ちた。




