14 来訪者。
俺がこの世界に来て六日目が過ぎた。
この世界の事まだわからないことだらけだ。
埋まった石手帳のスタンプはふたつ。それに、手に入れた観光マップは四枚になる。
ブレーヌの町はけっこう大きいから、観光マップの数が多くて三枚もあった。
地図を開いて、言葉を唱えると現れる立体地図。
ブレーヌの町は山の斜面を使ってつくられている町なんだけど、その山の様子や森の様子が地図に描かれている。
立体的に浮かぶ森と家々。それに流れる滝や川。
この町の外れに滝があるらしく、そこでもなにか石が採れるらしい。
にしても拾っても拾っても、石が採れるみたいだけどどうなってるんだろう。
なんか湧いて出てきたりしているんかな。
「んなわけねえか」
地図を見つめて俺は苦笑を浮かべる。
この町に来てわかったけど、本当に石が生活に根付いているらしい。
スターダスト鑑定協会が複数あるし、石を使った工芸品が数多く売られているし、そこらじゅうに飾られている。
通りにもそれっぽい岩とかあるし。俺から見たらなんか異様だった。
あちこちに石が転がってるんだもん。ナトジャはそこまでじゃなかったからなあ。
「おかげで町歩くとちょっと眩しいんだよな」
呟いて俺は苦笑いを浮かべた。
これコントロールできないかなって思うけど、全然わかんねえ。
「なんかこう、この力どうにかなんねえかなぁ」
『だから俺を頼れって言ってるだろ?』
そう、クロが語りかけてくる。
俺は首を横に振って、拒絶の言葉を口にした。
「だからいらねえって言ってるだろ?」
『なんでだよ? そこまで拒否るの訳分かんねえな!』
と、ちょっと赤く光りながら拗ねたようだった。
石なのに感情豊かだよな、こいつ。
「だって代償がなんだかわかんないのに願い事なんてするわけないじゃん」
『え、でもほら、願い事かなうなら代償なんてどうでもよくね?』
そう青く光りながら言い出す。今度は焦っているらしい。
なんで焦るんだよ、意味わかんねえな。
その時だった。
部屋の扉を叩く音がして、俺は返事をして扉を開ける。
そこにいたのは宿のスタッフだった。そして彼女の後ろには知らない中年の男性が、怪しい笑みを浮かべて立っている。
その顔を見てなんだか嫌な感じがして、俺は思わず半歩下がって顔をしかめた。
なんだこいつ。
警戒心むき出しにする俺に対して、宿のスタッフは超笑顔で言った。
「貴方にお客さん! 黒髪の人ってあんたしかいないから間違いないわよね」
確かに黒髪の人間なんて俺しかいねえだろうな。
いったい何なんだろう、この人は。
年齢は四十手前、って感じだろうか。
金色の髪の、スーツ姿の身なりのいい男性だ。でも胡散臭い。
彼は貼りつけたような笑顔で俺に向かって言った。
「貴方を探しておりましたよ、ユーキさん」
名前を呼ばれ、思わずびくつく。
なんでこいつ、俺の名前、知っているんだ?
頭の中で警戒音が流れる。早く逃げたい。でもこんなところじゃ、逃げられるわけがない。
どうする、俺。
嫌な汗が背中を流れているのを感じながら、俺は仕方なく頷いた言った。
「なんで、俺の名前を……」
出た声はすげー震えていて、怯えているのが自分でもよくわかる。
男は貼りつけた笑顔のまま言った。
「わたくしは、スターダスト協会のウィリアム=ジートと申します。昨日のことで貴方にお会いしたくやってまいりました」
「スターダスト協会って……鉱石の鑑定の?」
首を傾げる俺に、ウィリアムさんは頷く。
「えぇ。昨日、貴方のお陰でうちのスタッフは偽物を掴まされず済んだそうで。それでお礼を兼ねて貴方に会いに参りました。ここで立ち話は何ですから、カフェにでも参りませんか?」
明らかに怪しい感じがするけれど、なんで怪しいかと言われるとわからない。
でも逃げるわけにもいかず、俺は彼についていくことにした。
行く前にアレクシアさんに出てくることを伝えると、彼女もなんだかいぶかしげな表情を浮かべた。
でも、ウィリアムさんの手前だからか、笑顔で、
「わかったわ。ついていきましょうか?」
と、言うにとどめた。
どうしよう。正直ついてきてほしい。でも、カフェで何かしてくるとかないと思う。だから俺はアレクシアさんの申し出を断り、
「大丈夫」
と、できるだけ笑顔で伝えて、ウィリアムさんと一緒に外に出た。
この人、何者なんだろう。
彼の後ろを歩きながら考える。
身長は百七十センチちょっとの俺よりもずっと高い。たぶん百八十センチはありそうだ。
俺よりも体格いいし、戦うとか無理だよな。
いったい何の用なんだろう。
午前中の町中は人通りがそれなりにある。
呼び込みの声。子供を連れて歩く奥様たち。
嫌な汗が背中を流れるのを感じながら、俺はウィリアムさんと一緒に宿のすぐぞ場にあるカフェに入った。




