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拾った呪いの石がウザい~エルフとめぐる異世界逃避行~【第一部完】  作者: 麻路なぎ


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32 クロの秘密

 そのあと、どんな話をしたかなんて覚えていない。

 たぶん交渉は決裂しただろう。

 だって俺、クロを手放せないしだからといって俺自身がスターダスト協会で働くこともない。

 クロのことでショックを受けた俺は、そのまま部屋に入ってベッドに寝転がった。

 クロは床に放り投げた。


『お前いてえじゃねえか!』


 なんていう文句が聞こえるけれど無視だ。

 俺は寝転がってシュルゲンに言われたことを考えた。


『その石の代償は、持ち主の命』


 クロはずっと俺に願い事を叶えるように言ってきた。

 俺は怪しいと思って、相手にしなかった。

 でもクロは、


『皆、そんなの聞かねえで願い事言ってきた』


 って言っていたけれど、それってつまり、その人たちは死んだってことだよな。

 願い事、叶えて。

 そう思ったら身体中に鳥肌が立つ。

 胃がきゅっとなって、俺は首を横に振った。


「なんだよ……何なんだよ」


 クロ、俺の命を奪おうとしていたってことだよな。

 何だよそれ。

 俺のために時計を出したり、髪の色変えてくれたり。

 ケンカもしたけど、髪色変えてもらえたのはすっげー助かった。

 俺に何度も何度もクロは願い事をしろ、と言ってきた。

 それが死の誘惑だったなんて思うと、思わず震えてしまう。


「今までの持ち主は皆、死んだって事だよな?」


 あいつ、いろんなことを知っていたしそれに、元の持ち主は皆、って言っていたから。

 

「信じらんねえよ……俺を殺そうとしていたなんて」


『お前、あんな奴の言うこと信じるのかよ?』


 そんな怒ったようなクロの声がする。

 俺はゆっくりと身体を起こして、放り投げたクロを見た。


「だってお前、さっき否定しなかったじゃねえか」


『大きな代償が必要なのは事実だからな!』


 と、声を上げるクロ。


『タダじゃねえって言ってるだろ? お前、俺とあいつの言う事、どっち信じるんだよ!』


 そう言われると……どうだろう。

 クロとシュルゲン。

 俺は首を横に振り、


「どっち信じたらいいかなんてわかんねえよ」


 と、声を絞り出す。

 そもそもクロは自分の正体を明かさない。だからクロを信じる要素がない。

 シュルゲンは? あいつはブランシュ様の持っていた石を盗んだらしいし、クロだって狙っている。だからクロを盗んだのは間違いなく、あいつらだろう。

 俺からしたらどっちも信じらんない。

 

『あんな悪党と俺が一緒だっていうのかよ?』


 赤く光りながらクロが声を上げる。

 その通りだ。俺から見たらクロもシュルゲンも同類なんだ。

 でも。


「だって、クロが何者なのか俺にはわかんねえし。願い事しろってしつこいし」


『あー、もう! わかったよ! もう言わねえよ、願い事しろなんて!』


 そう叫ぶクロを俺は不思議に思って見つめた。

 いったい何なんだこいつ。

 シュルゲンと同じ、って言われたのが気に入らなかったんかな。


『俺はもうお前に願い事しろ、なんて言わねえよ! 勝手に奇跡も起こさない。だから俺のこと信じろよ!』


「何でだよ。なんでそこまで必死なんだよ?」


 言いながら俺は立ち上がってクロを拾い上げる。

 クロは青く光りながら言った。


『な、何でかってよく分かんねえけど……お前、全然願い事言わねえし。奇跡起こすと怒るし。最初に投げ捨てるし』


「だって怖いじゃねえか。石が喋ったら」


『え、あ……そうかな……そうかも』


 クロ、顔があったらきっと、俯いているんだろうな。

 

「だから怖いし捨てたんだよ。でもお前、戻ってきたし。捨てらんないし。願い事叶えるって言われても、代償もわかんないのに言うわけねえだろ」


『その警戒心が不思議なんだよ。願い事叶えるって言われたら喜ぶのに』


 それは俺がそもそもこの世界の住人じゃないし、うまい話には裏がある、って思っているからだろう。

 それがこいつには変に見えるのか。

 俺からしたら普通なのに。


「俺にはその、代償わかんないのに願い事言うとか信じらんないんだよ。だってその代償が命とかだったらやばいじゃん」


『それだよ、その警戒心。俺、こんなに人間といるのは久しぶりだし、こんなに話すのも久しぶりだ』


 今まで何があったのか突っ込みたいけれど、その事はひとまず置いておく。


「それでクロはどうしたいんだよ」


『俺はあんな奴のところに行くつもりはねえよ。だってあいつら、俺を盗んだ奴の仲間だろ? 悪い奴は嫌いなんだよ! お前もそうだろ?』


「当たり前だろ」


『だから俺はお前に力を貸す。だから俺をあいつに渡すなよ』


 そんなに嫌なのか、シュルゲンの手に渡るの。

 これ取引きになるのかな。


「力って何するんだよ」


『ほら、髪の色を変えるとか、それくらいなら代償なしでやってきただろ。ちょっとしたことなら力かせるから。俺の事信じろよ!』


 俺はじっと、クロを見た。

 焦ったように青く光っているクロ。

 クロは光って感情を表す。

 それは二ヶ月近く一緒に過ごしてきて、わかってる。

 青い時は焦っているときや拗ねたとき。

 赤い時は怒っているとき。

 今は青いから、焦っているのは確かだろう。

 嘘、ついてるのかな。

 いや、嘘はついていないと思う。

 黙ってクロを見つめていると、クロは、


『ほら! 信じろよ』


 と言って、白く光り出した。

 眩しさに目を閉じたあと、クロは早口でまくしたてる。


『鏡見て見ろよ! 髪の色変えてやったから!』


 言われて俺は、部屋にある鏡の前に立った。

 確かに、俺の髪色が明るい茶色に変わっている。

 俺はクロへと目を向ける。

 こいつの事、信じていいのかな。

 俺はぎゅっと、クロを握りしめる。


『い、痛いんだけど?』


「なんで石なのに痛いんだよ」


 呆れて言うと、クロは怒ったように赤っぽく光る。


『石でも痛いもんはいたいの! ほら、髪色変えたんだから俺の事、信じろよ!』


 髪色変えたからって信じられるかよ。

 でも俺は、クロと離れられない。

 俺が死なない限り。

 だから俺はこいつと共存するしかない。

 俺はまた、覚悟を決める。


「わかった。お前の事信じるよ」


『そうだろそうだろ? 俺の事信じろよ! あんなやつよりもよっぽど信じられるだろ』


 そうかなぁ。

 なんか必死な様子のクロを見て、俺は首を傾げて苦笑を浮かべる。

 石なのにな。

 なんで俺、こんなに振り回されてるんだろう。


「とりあえずクロ、勝手に力を使わない、っていうのは守れよ」


『わかってるっての!』


 そう、クロは満足げに言って黒く光った。

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