31 シュルゲン
通された場所は、王宮の応接室だ。
入り口には兵がいて、中にも兵士が配置されなんか物々しい雰囲気だった。
ソファーには銀色の髪の、黒いスーツの男性が座っている。
年齢は四十代くらいだろうか。
綺麗にオールバックにした髪。一重の紅い瞳が俺を見る。
その目に思わず俺は半歩下がってしまった。
俺を見る目がなんか冷たい。
顔は笑っているのに。
中に入って立つくす俺の背後で、女性の声がした。
「お久しぶりね、シュルゲン」
その声にびくっとして、俺は振り返る。
白いシャツに黒いパンツ姿のブランシュ様がそこにいて、貼りつけたような笑みを浮かべていた。
「ブランシュ……相変わらず君は美しい」
その言葉に俺はばっと振り返る。
シュルゲンは立ち上がって、にこやかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
ふたりは知り合いなのか?
戸惑っていると、ブランシュ様が小さく言った。
「彼はね、昔からのちょっとした知り合いなのよ。大丈夫。ここでシュルゲンが貴方に何かしてくるようなことはないから」
「は……はい」
そうだ、ここは王宮の中。
みたところ彼はひとりのようだし、武器を持っているようには見えない。
俺はブランシュ様とアレクシアさんに挟まれ、ソファーに腰かける。
シュルゲンは足を組み、俺の方をじっと見つめた。
やっぱり怖い。
全身の毛穴から汗が噴き出してくるのを感じる。
まず口を開いたのはブランシュ様だった。
「それでいったい何の用かしら?」
「そこにいる青年。ユーキ=ナナセさんに会いたくて」
そして彼はにっこりとほほ笑む。
「ひ……」
俺は無意識にクロを掴んだ。
会いたい、と言われただけなのになんで俺、こんなに怖いんだろう。
「貴方の噂は協会の者たちから伺っています。価値の高い石をいくつも持ち込んでくださったとか。ナトジャの村の者たちが驚いていました。それと」
そしてシュルゲンは目をすっと細める。
「わが鑑定員たちが見抜けなかった偽の宝石を、触りもせずに見抜いたとか。とてもいい目をお持ちのようですね」
「え、あ……いや……」
冷や汗をかきながら俺は首を横に振る。
そこにブランシュ様の声が低く響いた。
「無駄よ。今さら嘘をついても彼は貴方を諦めはしないわよ。わざわざここに乗り込んできた位だから」
そういわれればそうか。
そのために、スタッフを派遣して偽物の宝石、見せてきて試験したんだろうな。
確かに今さら誤魔化そうとしても遅い。
ブランシュ様の言葉を聞いて、シュルゲンは声を上げて笑う。
「あはは。それはそうだな。君に会いたいのもあるが、君のもつ石についても我々は興味があるんだ」
俺の持つ、石。
俺は握りしめたクロへと目を落とした。
「そう、その黒い石。貴方には聞こえるのでしょう? その石の声が」
「う……」
その通りだけど、緊張か、恐怖のせいか、俺は頷くことができなかった。
『なんだこいつ』
と、クロが不快そうに言うのが聞こえる。
俺はクロを握りしめたまま、シュルゲンに向かって言った。
「そ、それであの、この石の事、貴方は知っているんですか?」
「えぇ。もちろん。私は珍しい石を集めておりますから。その石、調べても文献に載っていないでしょう」
そう言って、彼はにっと笑う。
そうだ、その通りだ。
自称、ウィッシェヴァイスのこと、いくら調べても出てこない。
このゲルマーニャに来てからも調べたけど、何の情報も得られなかった。
本当に知っているのかな。この人。
俺としてもクロの正体は気になる。
「その石、こちらにお譲りしていただけませんか? そうしたら私たちはもう貴方を追いかけませんから」
「え? あの、それは無理です」
だって俺が死ぬか、願い事をするまでは手離すこと、できないから。
捨てても盗まれても戻ってくる。
俺の言葉に、シュルゲンの目がすっと細くなる。
怖い。
そんな目で見られてもどうにもならねえんだよ。
彼は手を組み、ニコニコと笑い言った。
「貴方はその石の正体、知らないのでしょう?」
「え、あ、えーと、願い事をかなえる石。っていうのは知ってます」
震えた声で答えると、シュルゲンは笑顔のまま頷く。
「えぇ、その通りです。持ち主に話しかけ、願い事を言うように促す、と言われています。その代償をご存知ですか?」
意味深に言われ、俺はゆっくりと首を振る。
知らない。だってクロが絶対に口を割らないからだ。
「我々に譲った方がいいですよ。貴方ではその石を扱いきれませんから」
「そ、そんな事言われても。この石の代償、何だって言うんですか?」
するとシュルゲンは俺のクロを手でしめして言った。
「その石の、願い事の代償は持ち主の命。つまり、願い事をすれば貴方は命を落とします。危険な石なんですよ」
「な……嘘だろ……?」
俺は目を大きく開いて握りしめるクロを見る。
願い事の代償が、俺の命?
こいつはそのこと知ってるよな?
なのに、願い事させようとしていたのか?
つまりそれって……
「お前……俺を殺そうとしていたのかよ……?」
そうクロに話しかけると、クロは拗ねたような声で言った。
『俺は何でも願い事を叶える。そんなの大きい代償が必要に決まってるじゃねえか!』
それはそうかもしれない。
等価交換っていうのかな。
クロが言っていることは正しいと思う。
でも。
クロは俺に願い事をしろってずっと言って来た。
死ぬか、願い事するまで俺と離れられない、とも言っていた。それってどちらにしろ俺が死ぬって事じゃねえか。
「マジかよ……」
わなわなと肩が震え、視界が滲んでくる。
「ユーキ……大丈夫?」
心配そうなアレクシアさんの声に、俺は何も答えることができなかった。




