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拾った呪いの石がウザい~エルフとめぐる異世界逃避行~【第一部完】  作者: 麻路なぎ


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29/37

29 遭遇

 俺は、額から汗が噴き出るのを感じながらじっと、その青年を見つめた。

 俺よりもちょっと背が高い。たぶん百八十センチ位ありそうだ。

 質のよさそうなスーツにえんじ色のマントを羽織っている。

 こんな顔がいい男いるんだ。初めて見た。

 ちょっときれいすぎてぞっとする。

 大して力なんてなさそうなのに、俺の腕、全然振りほどけそうにない。

 やばいどうしよう。


「ユーキ、どうかしたの?」


「ア、アレクシアさん……」


 逃げて、って言いたいのに声が震えてそれ以上何も言えなくなってしまう。

 中から出てきたアレクシアさんは、俺と、俺の腕を掴む青年の姿を見て身構えた。

 一瞬にして、アレクシアさんがまとう空気が変わる。

 

「怪しい者ではないですよ」


 そう言う割には俺の腕を掴む手は強い。


「い、いったい何なんですか」


 カタカタと震える声で言うと、彼は言った。


「俺はヒース=リーベル。ここ、ゲルマーニャの騎士だ」


「騎士……?」


「えぇ。ブランシュ=ゲルマーニャ様の命令で貴方を探していました」


「ゲルマーニャ……」


 この国と同じ名字。

 ということは。


「王族……?」


 そう呟いたのはアレクシアさんだった。

 ってことは、この国の偉い人じゃねえか。

 そんな話をされたら余計に怖くなる。


「なんでそんな人が俺を……?」


「貴方に頼みたいことがあるそうです」


「頼み?」


 俺はアレクシアさんと顔を見合わせる。

 俺に仕事させたいのかな。

 ヒースさんはそっと俺の腕から手を離して言った。


「乱暴なことをして申し訳ありませんでした。我が主は、貴方の噂……どんな石でも鑑定できる目の話を聞き、依頼をしたいと。それで貴方を探していました」


「な、なんで俺の噂知って……」


 怯えた声で言うと、彼はにやっと笑う。

 

「どこの国にも諜報機関、っていうものは有るんですよ。それにスターダスト協会が派手に貴方を探していますからね。目だって仕方ない」


 なるほどそういうことか。

 スターダスト協会は、俺の話を広めて情報集めてるしな。

 そんなことやっていたらそりゃあ、目をつけられるか。

 

「それ、従わないと駄目、なんですか?」


「拒否権なんてあるわけないでしょう」


 そう冷たい声で言い、ヒースさんは俺に手を伸ばす。


「王都へ行きましょう。ブランシュ様がお待ちです」


 その言葉に俺は、心の奥底から恐怖を覚えた。

 



 馬車に揺られること数日。

 俺は王都デメルングに向かう。

 旅路の中で、ヒースさんは俺たちに教えてくれた。

 

「俺たちはずっと、スターダスト協会の闇について捜査しています」


 それは何度か耳にしたっけ。

 強引な手段で貴重な石を集めているとか、鉱山を買い取っているとか。

 俺もクロを奪われたし。


「それでなんで俺が……?」


「貴方には不思議な目があると聞きました。スターダスト協会の人間に偽の宝石を見せられて、すぐに見破ったでしょう」


 まじかよ、そんなことまで知られてるのか?

 そのことに怖くなる。

 ゲルマーニャの情報収集、やばいかもしれない。

 

「最近も鉱山を強引に買い取りをしたと問題になっていて。殺人以外なら何でもやるのがあの組織です」


「俺も、一度石を盗まれました」


「よくやる手ですよ。盗みの話は多い。それで貴方に頼みたいのです」


 そう言って、ヒースさんは笑う。

 その頼みの内容は結局教えてもらえず、俺たちは王都にたどり着いた。

 王宮の離れ。

 なんかすげえ大きな建物で身体が強張ってしまう。

 大きなお屋敷の一室。

 綺麗な庭が見える応接室。

 そのソファーに、俺とアレクシアさんは並んで腰かける。

 室内には一枚だけ絵が飾られていて、海の風景が描かれていた。

 しばらくすると扉が開き、ヒースさんと、白金の髪の女性が入ってきた。

 波打つ綺麗な髪に、宝石みたいな綺麗な緑色の瞳。

 年齢はたぶん四十代くらいだろうか。

 パンツスーツ姿のかっこいい雰囲気の女性だった。

 この人が、ブランシュさん?

 アレクシアさんが立ちあがって、俺もつられて立ち上がる。

 彼女は俺たちの方を見て言った。


「私はブランシュ=ゲルマーニャ。この国の王妃をしております」


 王妃。

 その言葉を聞いて足が震えてきてしまう。

 王妃がなんだって俺を呼んだんだよ。


「おかけになって」


 そう言われて、俺たちはソファーに腰かけた。

 そしてそこに飲み物が運ばれてくる。

 白いカップにソーサー。それに、焼き菓子がのったお皿。


「あなたが、ユーキ=ナナセさん?」


 静かで凛、とした声でブランシュ様が言い、俺はすっと背筋を伸ばして頷いた。


「はい、そうです」


「強引な形になってしまい申し訳ございません。スターダスト協会よりも早く、貴方を確保したくて」


 そう言いながら、彼女は頭を下げた。

 スターダスト協会よりも先に。

 

「それってどういう」


「私は彼らに盗まれたあるものを探しているの。でも彼らは絶対にそれを所持していることを認めないし、どこに隠しているのもわからなくて。それで貴方にお願いがあります」


 ブランシュ様はじっと俺を見て、真面目な顔で言った。


「私が持っていた石、『シラーズナイト』を探しだしてほしいのです」


「シラーズ……ナイト?」


 その石の名前には見覚えがある。

 確か、人の欲望を喰らって願い事を叶える石、だっけ。


「あの、伝説の石を……持っていたんですか?」


 アレクシアさんも気がついたらしく、驚いた声を出す。


「えぇ。それでね、スターダスト協会の会長、シュルゲンが何度も私の所に来て譲ってほしいと言ってきたのよ。でも断ったわ」


 そして彼女は目をすっと細める。


「そうしたら、ある日盗まれてしまって」


「王宮の、警備をかいくぐって?」


「そういうことになるわね」


 ブランシュ様は苦笑を浮かべて肩をすくめた。


「まさか王宮に盗みに入るなんて思わなかった。石がなくなったのは確かだし、こんなことするの、彼らしかいない。でも彼は絶対に私から盗んだなんて認めない」

 

 そう言ったブランシュ様の顔がなんだか苦しげになる。

 なんだろうこの表情。不思議に思いながら俺はブランシュ様の言葉を聞いた。


「なんといっても石だしいくらでも隠せるものだから、ありかを見つけ出すのは難しい。それで貴方の目が必要なのです。貴方の目があれば、『シラーズナイト』を探しだせるでしょう」


 あぁ、そういうことか。

 俺の目は石の価値がわかる。貴重な石は光って見える。この目があれば、隠れていても光をたどって見つけることができるから、石の捜索ができるってことか。

 そんな使い方ができるなんて思ってもみなかった。

 俺は自分の目元に触れる。

 どうする、俺。

 このお願い、引き受ける?

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