29 遭遇
俺は、額から汗が噴き出るのを感じながらじっと、その青年を見つめた。
俺よりもちょっと背が高い。たぶん百八十センチ位ありそうだ。
質のよさそうなスーツにえんじ色のマントを羽織っている。
こんな顔がいい男いるんだ。初めて見た。
ちょっときれいすぎてぞっとする。
大して力なんてなさそうなのに、俺の腕、全然振りほどけそうにない。
やばいどうしよう。
「ユーキ、どうかしたの?」
「ア、アレクシアさん……」
逃げて、って言いたいのに声が震えてそれ以上何も言えなくなってしまう。
中から出てきたアレクシアさんは、俺と、俺の腕を掴む青年の姿を見て身構えた。
一瞬にして、アレクシアさんがまとう空気が変わる。
「怪しい者ではないですよ」
そう言う割には俺の腕を掴む手は強い。
「い、いったい何なんですか」
カタカタと震える声で言うと、彼は言った。
「俺はヒース=リーベル。ここ、ゲルマーニャの騎士だ」
「騎士……?」
「えぇ。ブランシュ=ゲルマーニャ様の命令で貴方を探していました」
「ゲルマーニャ……」
この国と同じ名字。
ということは。
「王族……?」
そう呟いたのはアレクシアさんだった。
ってことは、この国の偉い人じゃねえか。
そんな話をされたら余計に怖くなる。
「なんでそんな人が俺を……?」
「貴方に頼みたいことがあるそうです」
「頼み?」
俺はアレクシアさんと顔を見合わせる。
俺に仕事させたいのかな。
ヒースさんはそっと俺の腕から手を離して言った。
「乱暴なことをして申し訳ありませんでした。我が主は、貴方の噂……どんな石でも鑑定できる目の話を聞き、依頼をしたいと。それで貴方を探していました」
「な、なんで俺の噂知って……」
怯えた声で言うと、彼はにやっと笑う。
「どこの国にも諜報機関、っていうものは有るんですよ。それにスターダスト協会が派手に貴方を探していますからね。目だって仕方ない」
なるほどそういうことか。
スターダスト協会は、俺の話を広めて情報集めてるしな。
そんなことやっていたらそりゃあ、目をつけられるか。
「それ、従わないと駄目、なんですか?」
「拒否権なんてあるわけないでしょう」
そう冷たい声で言い、ヒースさんは俺に手を伸ばす。
「王都へ行きましょう。ブランシュ様がお待ちです」
その言葉に俺は、心の奥底から恐怖を覚えた。
馬車に揺られること数日。
俺は王都デメルングに向かう。
旅路の中で、ヒースさんは俺たちに教えてくれた。
「俺たちはずっと、スターダスト協会の闇について捜査しています」
それは何度か耳にしたっけ。
強引な手段で貴重な石を集めているとか、鉱山を買い取っているとか。
俺もクロを奪われたし。
「それでなんで俺が……?」
「貴方には不思議な目があると聞きました。スターダスト協会の人間に偽の宝石を見せられて、すぐに見破ったでしょう」
まじかよ、そんなことまで知られてるのか?
そのことに怖くなる。
ゲルマーニャの情報収集、やばいかもしれない。
「最近も鉱山を強引に買い取りをしたと問題になっていて。殺人以外なら何でもやるのがあの組織です」
「俺も、一度石を盗まれました」
「よくやる手ですよ。盗みの話は多い。それで貴方に頼みたいのです」
そう言って、ヒースさんは笑う。
その頼みの内容は結局教えてもらえず、俺たちは王都にたどり着いた。
王宮の離れ。
なんかすげえ大きな建物で身体が強張ってしまう。
大きなお屋敷の一室。
綺麗な庭が見える応接室。
そのソファーに、俺とアレクシアさんは並んで腰かける。
室内には一枚だけ絵が飾られていて、海の風景が描かれていた。
しばらくすると扉が開き、ヒースさんと、白金の髪の女性が入ってきた。
波打つ綺麗な髪に、宝石みたいな綺麗な緑色の瞳。
年齢はたぶん四十代くらいだろうか。
パンツスーツ姿のかっこいい雰囲気の女性だった。
この人が、ブランシュさん?
アレクシアさんが立ちあがって、俺もつられて立ち上がる。
彼女は俺たちの方を見て言った。
「私はブランシュ=ゲルマーニャ。この国の王妃をしております」
王妃。
その言葉を聞いて足が震えてきてしまう。
王妃がなんだって俺を呼んだんだよ。
「おかけになって」
そう言われて、俺たちはソファーに腰かけた。
そしてそこに飲み物が運ばれてくる。
白いカップにソーサー。それに、焼き菓子がのったお皿。
「あなたが、ユーキ=ナナセさん?」
静かで凛、とした声でブランシュ様が言い、俺はすっと背筋を伸ばして頷いた。
「はい、そうです」
「強引な形になってしまい申し訳ございません。スターダスト協会よりも早く、貴方を確保したくて」
そう言いながら、彼女は頭を下げた。
スターダスト協会よりも先に。
「それってどういう」
「私は彼らに盗まれたあるものを探しているの。でも彼らは絶対にそれを所持していることを認めないし、どこに隠しているのもわからなくて。それで貴方にお願いがあります」
ブランシュ様はじっと俺を見て、真面目な顔で言った。
「私が持っていた石、『シラーズナイト』を探しだしてほしいのです」
「シラーズ……ナイト?」
その石の名前には見覚えがある。
確か、人の欲望を喰らって願い事を叶える石、だっけ。
「あの、伝説の石を……持っていたんですか?」
アレクシアさんも気がついたらしく、驚いた声を出す。
「えぇ。それでね、スターダスト協会の会長、シュルゲンが何度も私の所に来て譲ってほしいと言ってきたのよ。でも断ったわ」
そして彼女は目をすっと細める。
「そうしたら、ある日盗まれてしまって」
「王宮の、警備をかいくぐって?」
「そういうことになるわね」
ブランシュ様は苦笑を浮かべて肩をすくめた。
「まさか王宮に盗みに入るなんて思わなかった。石がなくなったのは確かだし、こんなことするの、彼らしかいない。でも彼は絶対に私から盗んだなんて認めない」
そう言ったブランシュ様の顔がなんだか苦しげになる。
なんだろうこの表情。不思議に思いながら俺はブランシュ様の言葉を聞いた。
「なんといっても石だしいくらでも隠せるものだから、ありかを見つけ出すのは難しい。それで貴方の目が必要なのです。貴方の目があれば、『シラーズナイト』を探しだせるでしょう」
あぁ、そういうことか。
俺の目は石の価値がわかる。貴重な石は光って見える。この目があれば、隠れていても光をたどって見つけることができるから、石の捜索ができるってことか。
そんな使い方ができるなんて思ってもみなかった。
俺は自分の目元に触れる。
どうする、俺。
このお願い、引き受ける?




