27 噂
図書館を後にして、俺はスターダスト協会の前を通りがかる。
ふだんは避けるようにしてるんだけど、宿に帰るのにどうしても通らなくちゃいけない場所にあって避けられなかった。
ここに、俺の手配書とか出回ってないだろうな。って思うんだけど、それを確かめるすべはない。
スターダスト協会っていろんなところにあるんだな、って感心してしまう。
スターダスト協会は、石の買取と購入のお客さんで結構賑わっているみたいだった。
これだけ石の買取希望者がいて、価格破壊とか起きないのか不思議だけど。いったいどうなってるんだろう。
「自分で売りに行くのは危険、だよなぁ……」
スターダスト協会の建物を見つめて、俺は大きくため息をつく。
髪の色が違うからばれねえとは思うけれど。もし俺のこと、話が出回っていたら面倒だ。
俺は働きたくない。
昨日見つけた石も、けっきょくアレクシアさんに頼んで売ってきてもらった。
できれば色んな町でのんびりしたいんだけどなぁ。
俺は首を横に振って、スターダスト協会の前から立ち去ろうとする。
その時だった。
「なあ、手配書の話聞いたか?」
「あぁ。喋る石を持つ、黒髪の男を見つけたら金貨がもらえるってやつだろ? 喋る石って何だよ? そんなんまじであるのか?」
スターダスト協会から出てきた若い男たちがそんな話をしながら通り過ぎていく。
喋る石、黒い髪。
その言葉に全身に鳥肌が立つのを感じた。
それって俺の事じゃねえか? こんなよその国に来てまで俺、捜してるって事?
こわっ。
「そういえば、貴族がその黒髪の男探してるって聞いたぞ。あと商人の……」
「まじかよ、そいついったい何したんだろうな?」
商人に貴族?
いったいどういうことだよ。なんで俺の事、捜してるやつが増えてるんだ?
マジで訳分かんねえよ。
わからなさ過ぎて俺はおもわずぶるり、と震えた。
「もしかして俺、なんかよくわかんないことに巻き込まれてる……?」
そう呟いて俺は辺りを見回す。
やばい、皆敵に見えてくる。
『だから俺を頼ればいいじゃねえか。楽になるぞ』
そんな悪魔のささやきが聞こえてきて、俺はクロに目を落とした。
「うるせえよ。代償もわからねえのにお前を頼りはしないって言ってるだろ」
『そうかよそうかよ。どうなっても知らねえからな』
そう拗ねた口調でクロが答え、白っぽく光ったかと思うとそのまま黙ってしまう。
俺がいったい何したんだよ。
俺はただ、旅して静かに暮らしたいだけなのに。
この世界は俺を放っておいてくれないのか?
そう思うとなんだか息が苦しかった。
重い気持ちで宿に帰ると、宿の人が不思議そうな顔で俺を見る。
そして俺の頭を指差して言った。
「あれ……お客さん、髪の色、そんな色でしたっけ?」
「え?」
宿には行った時、癖で帽子をとったんだけど、髪の色がどうかしたのか?
不思議に思って俺は自分の頭に触れる。
「お客さんの髪の色、真っ黒なので……茶色っぽかったような気がしたんですが」
怪訝な顔で言われて俺はハッとする。
「マジかよ……」
呟いて俺はクロへと目を向ける。
こいつ、何かしたな?
「お前……」
『だって俺の力いらないんだろ? せっかく髪の色かえてやったのにさー』
まるで拗ねた子供みたいな口調でクロが言う。
そう言われると何も言い返せなくなる。
クロに奇跡を起こしてほしいわけじゃない。
でも、髪の色を変えてくれたのは正直助かった。
なのになんで今元の黒の髪色に戻すんだよ。
タイミング悪すぎるだろ?
「お客さん、その石もしかして喋る……」
宿の人のいぶかしげな声に俺はやばい、と思い、背を向ける。
「し、失礼します!」
慌てて俺は廊下を駆け抜けて部屋へと戻る。
息を切らせて俺は、室内の鏡の前に立つ。
俺の髪の色、真っ黒に戻ってる。
俺は頭に手をやって、
「どうしよう……」
と、呟く。
クロに頼んでまた茶色にしてもらうか? でもそれだと代償、求められるかもしれねえよな。
そんなことで頼りたくもない。
いや、そもそもクロを頼っていたのが間違いだったのかも。
こいつは相棒でもなんでもないんだから。
「やっぱお前のこと嫌いだ」
八つ当たりとわかっていながら、俺はクロに向かって憎々しく告げる。
するとクロは焦ったような声を出す。
『え? 嫌いってなんで!』
「嫌いなもんは嫌いなの」
吐き捨てるように言い、俺は鞄などを床に放り投げてベッドに転がった。
これ、絶対にばれたよな。
そう思うと心臓が痛くなってくる。
そうだ、アレクシアさんの所に行ってこないと。この事態はまずいから。
大きく息を吐いて、俺は起き上がって隣の部屋のアレクシアさんの所へと向かった。




