23 隣国を目指す
アレクシアさんと相談した結果、俺たちは王都を目指すのをやめて隣の国、ゲルマーニャに行くことにした。
そこは西側では大きな国らしくって、東側の国の人もいるから俺の見た目も目立たないだろうって事だ。
大きな国だから海も山もあるらしい。
とりあえず髪色変わったし、見つからなきゃいいけどな。
翌日、俺たちは朝早くに宿を出る。
なのに。
人通りの少ない朝焼けの町。
犬の散歩をする老人が、ゆっくりと通りを歩いて行く。
朝早いせいか風がちょっと冷たくて、俺はマントをぎゅっと掴んだ。
「ねえアレクシアさん。隣の国に行くのになんか審査みたいなのあるの?」
それは俺としてはすごく気になる事だった。
俺、どこの国出身とかないし、めちゃくちゃ怪しい存在だからだ。
アレクシアさんは肩をすくめて言った。
「国によるみたいよ。えーと、確か、目的を詳しく聞いたりとか。どこ出身かとか」
「そうなんだ」
じゃあ大丈夫かな。
町の出入り口。なんか人相が悪い人たちが立っている。
目を光らせて、町を出る人を見張っているみたいだった。
なんか嫌な感じだな。
そう思いながら俺たちは町を出ようとした。その時だった。
「おい!」
鋭い声が響いて、俺たちは思わず立ち止まって声がした方を見る。
あの、人相が悪い男たちが、俺たちの方へとまっすぐに向かってきて言った。
「おい、お前」
明らかに俺の方を見て男が言うから、俺はしどろもどろになって、自分を指差す。
「え、あ……お、俺、ですか?」
何だよ一体。
男たちは俺の目の前で立ちどまると、頭を指差して言った。
「帽子、とれ」
「あ……え?」
戸惑う俺に、男は鋭い声を出す。
「帽子だよ帽子。さっさとしろ!」
なんか逆らえない声で言われて、俺は仕方なく帽子をとる。
現れるのは、クロの力で変化した明るい茶色の髪。
すると男は怪訝な顔をしてアレクシアさんの方を見る。
「あんた、エルフだよな?」
「失礼な人間ね。確かにそうだけれど、何の用かしら?」
そう答えてアレクシアさんは、フードをとる。
男たちは首を傾げた。
「エルフ連れの黒髪の男……じゃねえのか?」
と言われて、俺は内心びくつく。
こいつらが捜しているのは俺だ。
宿の人たちにお金を握らせたおかげで、俺のところにスターダスト協会の人が来られなくなったから、町を出るのを待っていたってことかな。
怖くて額に変な汗が浮かぶのがわかる。
びくびくする俺とは対照的に、アレクシアさんはすっげー冷静に見えた。
大丈夫かな。ばれないかな。
もしばれたらどうなるんだろう。
誘拐される? クロが連れ去られたみたいに。
怖い。
指先が、足が震えてきてしまう。
不思議そうな顔をする男たちにアレクシアさんは毅然と言った。
「いったい何の用? 黒髪の男って誰の事なのかしら?」
すげえ、アレクシアさん。
思わずアレクシアさんの顔を見ると、ちょっと耳がぴくって動く。
もしかしたらアレクシアさんも怖いのかな。
俺、アレクシアさんに助けられてばっかりだ。
俺も見習って強気にならないと。
そう思って俺は、ぎゅっと拳を握りしめて言った。
「あの、俺たち王都に行くんですけど、何かあったんですか?」
そう言ったものの、すっげー声、震えてる。
男たちはいぶかしげに顔を見合わせたあと首を傾げた。
「お前たち、喋る黒い石を持った男に心当たりないか?」
その言葉にびくつきながら、俺は首を横に振る。
「し、知らないです」
「知らないわ」
すると男たちは顔を見合わせる。
「まだこの町にいるはずなんだが……」
そう言われて、俺は喉の奥から変な声が出てしまう。
やっぱり俺のこと、捜してるんだな。
この目が欲しいから? それともクロが欲しいから?
目的がわかんないって怖い。
怯える俺を値踏みするように見つめる男たちは、小さく首を傾げたあと言った。
「いいや、何でもない。ちょっと人探ししていただけだ。いい旅を」
そう、ぶっきらぼうに言い、彼らは立ち去っていく。
怖くて動けなくなってしまった俺の腕をアレクシアさんが掴み、
「行きましょう」
と言い、俺は頷いて震える足を踏み出した。
怖かった。
すげえ怖かった。
グランデの町を後にして、三十分くらい経っただろうか。
やっと安心できた俺は大きく息をついた。
「あぁ……こわかったぁ」
「あはは、そうね。貴方の事を狙っているわけよね? 貴方の魔法の目がそんなの欲しいのかしら? それとも……」
そしてアレクシアさんは俺の胸元へと目を向ける。
そこにいるのは黒い石だ。
実際クロは一度盗まれている。
誰もクロが喋る声を聞けないけど、俺がクロと喋っている姿はいろんな人が見ている。
だからクロが喋ることは知られてしまっている。
喋る黒い石。
珍しいのは確かだろうし。だからスターダスト協会はこいつを狙っているのかも。
そう思って俺は、クロを撫でる。
譲れるなら譲りてえよ。
でも、クロは俺から離れられない。
俺はクロをぎゅっと握りしめた。




