22 これからのこと
宿に帰って、俺とアレクシアさんは今後のことを相談した。
宿の人に大陸の地図を借りたけど、まじで大陸を分断するように、北から南にかけて大きな山脈が連なっている。
「すげえ……」
「山越えができないことはないけど、前に言ったように、山の中にはモンスターがいることがあるのよねー」
「あぁ……そうなんですね。モンスターって危険なの?」
「私もそんなに見たことはないんだけど。山奥の深いところにいるらしいの。しかも人に討伐されることなく生き残っているものだからねぇ」
そしてアレクシアさんは苦笑を浮かべる。
「けっこう危険だって聞くわよ」
「マジかよ……」
そうか。人に狩られることなく生き残っているってことは、それだけ強かったり危険だったりするって事か。
それはそれで嫌だなぁ。
俺、戦えないし。
そう思うと山越えは躊躇してしまう。
「だから皆、西と東の行き来には海路を使うのよ。山は海よりもずっと危ない目に遭うかもしれないから」
そうなんだ。
でも、待てよ?
「でもそれだと、海路を使うと思われて港、見張られたりとかするんじゃ……」
そんな俺の呟きに、重い沈黙が流れてしまう。
アレクシアさんと俺は顔を見合わせそして、地図に目を落とした。
「そうねえ。その可能性を考えると、山を越える方がいいかも。山道ならいくつか候補があるし。危険度で考えたらどの道も差はないんじゃないかしら。ただ問題は、ユーキの黒髪が目立つ事よね」
そう言われると痛い。
「髪の色なんてかえらんねえし」
『髪の色変えたいって? 任せろ!』
そんな、クロの調子に乗った声がしたかと思うと、まばゆい光が辺りを包む。
「え、な、なにこの光……」
驚いた、いや、ちょっと怯えたようなアレクシアさんの声。
たぶんクロの仕業だ。でも何が起きてるのか全然分かんない。
視界が見えないって怖い。
どうしようもなくただ怯えていると、光はすぐに収まって、アレクシアさんが驚いた顔で俺を見つめて指をさす。
「え、あ……ユーキ、その髪……」
震えた声で言われて、俺は自分の頭に触れる。
「か、髪が、何?」
俺は辺りを見回して、壁にかかっている丸い鏡の存在を思い出し、立ち上がってその前に立つ。
そこにいたのは、明るい茶色の髪をした俺だった。
俺は慌てて、自分の髪をくしゃり、と掴む。
痛い。ちゃんと俺の髪だ。
「な、な、な……」
『へへー。俺にかかればこれくらいぱぱっとできるんだぜー?』
そうどやっとした声で言うクロ。
ちょっと待て。
俺はクロを掴んで声を上げた。
「何勝手なことしてるんだよ? 俺は願ってなんていねえぞ!」
どうしよう。これで代償とられたら……
なんだかわからない代償だ。こんなことで命とられるとか嫌だぞ俺。
するとクロは青っぽく光って焦った声で答えた。
『ちょ……だ、代償はねえよ! だってこれは俺が勝手にやったことだからな! それくらい俺にできるって事だっての!』
そう言われても、にわかに信じられない。
いや、でも。前に懐中時計を出した時も代償、求められなかったな……
そのことを思い出して、俺はクロから手を離す。
「わかった。信じる」
『なんで怒るんだよ……せっかく髪色変えてやったのに』
青く光りながら拗ねた口調で言うクロ。
なんか悪いことしたようで、ちょっときまずい。
いや、でも。
「なあクロ。髪色変えてくれたのは感謝するけどさ、その前になんか俺に相談してくれよ」
『え? あ、そ、相談?』
黒は驚いたような声で言う。
そんな驚く事か? 不思議に思いつつ、俺は言葉を続けた。
「相談。いきなり力使われてもビビるからさ」
『そ、そうなの? 今までの持ち主は喜んでたからてっきり嬉しいのかと……』
しどろもどろになるクロ。
そうなのか? いきなりなんかされたらみんな驚くんじゃねえのかな。
「俺は嬉しくないの。代償も分かんねえのに、いきなり奇跡起こされても困るんだよ」
するとクロは黙り込み、そして、オレンジ色っぽく光りながら言った。
『わかったよ。今度からは相談する』
その答えに俺は頷き、
「そうしてくれよ」
と、答えた。
その様子を黙って見ていたアレクシアさんが、怪訝そうな声を上げる。
「本当にその石、喋るのね。私には何にも聞こえないけど、ユーキが喋った後、なんか嫌な魔力感じるし」
そして小さく身震いする。
嫌な魔力。俺にはよくわからないけど、クロ、そんな悪い石なのかな。クロとやり取りしてるとそうは思えない。
「アレクシアさん、この石、なんか嫌だって言ってましたもんね」
「えぇ。喋る石って、謎すぎるし。王都や他の国で何かわかるといいけれど」
確かに。
俺にはクロのこと、何にもわからない。そもそもクロが喋ろうとしないっていうのもあるけど。
願い事の代償、なんなんだろう。




