21 協会の闇
静まり返ったのは一瞬で、すぐに店内はざわめきに包まれる。
そこに俺たちの注文の品を持ってきた店員さんが現れて、その男性に苦笑を浮かべて声をかける。
「そういうこと言うもんじゃないですよ。どこで誰が聞いているかわかりませんから」
そして店員さんは、俺たちの前に料理を置いた。
羊肉のステーキを頼んだんだけど、すっげーいい匂いがする。
この世界に来て、食事も楽しみのひとつになっていた。
ひつじにうさぎ、なんか知らない魚の料理もある。きっとその土地特有の料理とかあるんだろうな。
アレクシアさんのお陰で石のスタンプも押してもらえたし。観光地図も増えてきた。
料理を食べつつ、俺はちらちらっとあの男性の様子をうかがう。
彼はむすっとした様子でお茶を飲んでいた。
俺はまず、アレクシアさんに尋ねた。
「アレクシアさんはあの、どれくらい知ってるの? スターダスト協会のこと」
サラダをフォークでつついているアレクシアさんは、ばっと顔を上げて小さく首を傾げた。
「正直、そういう人間の噂は余り知らないの。強引なところがあるとは聞いたことあるけれど。どの程度なのかっていうのは具体的には知らないのよね」
と、あっけらかん、と答える。
前にアレクシアさんにスターダスト協会のことを聞いた時に、悪い噂があるとは言っていたもんな。
鑑定している人たちはそういう感じしなかったけど、なんか俺のスカウトに来た人はいい感じ、しなかった。なんていうかマフィアみたいな、ちょっと闇背負ってる感じだった。
それを思うとなんか裏でやっていても驚きはないかもしれない。
俺自身、スターダスト協会にはちょっと困ってるし。
そう思って俺は、男性に声をかけた。
「あの、すみません」
「あ? なんだよ」
なんか不機嫌な様子で返されて、その様子が前の上司の姿と重なってビクってしてしまう。
俺は大きく息をのんだ後言った。
「スターダスト協会ってそんなにやばいことしてるんですか?」
すると男性は、怒ったような顔をする。
「やべえってもんじゃねえよ。さっきも言ったけど、欲しい宝石のためなら何でもするんだよ。盗みだって平気でやる」
「マジですかそれ?」
驚く俺に、男性は大仰な感じで頷いた。
この世界、盗みって犯罪じゃねえのかな?
じゃあまえにクロを盗んだのもスターダスト協会?
「それってやばくないんですか?」
「やべえに決まってるだろ。人の物盗んじゃいけねえなんてガキだって知ってるよ」
そう言われてほっとする。よかった。盗みは犯罪だよなやっぱり。
でも。
「じゃあなんで協会は盗みなんて……」
不思議に思いながらいうと、男性は呆れた顔になる。
「お前、スターダスト協会に逆らえるやつがいるわけねえだろ?」
「そうねぇ。協会はとても大きな組織だし、どの国とも深い付き合いがあるというわね。なにせ、石の相場に大きな影響をもっているから」
そう言ったのはアレクシアさんか。
そっか。
この世界では鉱石や宝石が生活に深く根付いている。誰もが石拾いをして小銭を稼いているし。その辺に鉱石の加工物がたくさん転がっている。
この店の中を見回したって、石の細工物があるし綺麗な石で窓枠や扉が飾られている。
「つまり協会はただの鉱石協会じゃないってことか……」
「そうそう。だからわりいことやったって、俺たちみたいな平民は我慢するしかねえんだよ。いったい何人が泣き寝入りした事か。今だって、ホープ晶石の鉱山が狙われてるっていうし」
そう言って、男性はぐいっとお茶を一気飲みした。
鉱山を狙うって……土地の権利書みたいなんがあるのかな。
「なんか思った以上にやばい組織?」
そう震えた声で呟く俺に、男性は大きく頷く。
「あぁ。あんたも気をつけろよ」
と言い、男性は俺の方をじっと見つめる。
その目にドキッとしていると、男性は言った。
「黒髪の若い男を見つけたら、協会に伝えるように、っていう伝令が周ってるらしいぞ。しかもそいつは黒い喋る石と一緒だとか」
その話に、俺の背中に冷や汗が流れていく。
やっぱ手を回されてるんだ。なんでそんなに俺に執着するんだよ?
この魔法の目、そんなに貴重?
今の話聞いたら尚更関わりたくねえよ。
だって、石のためなら盗みも平気でやる組織なんだろ?
俺はぶるり、と震えて、
「そ、そうなんですね」
と答えるのが精いっぱいだった。
もしかして俺、めちゃくちゃやべえ組織に目をつけられてしまってるのかもしれない。
やだな、何とかして逃げ切らねえと。
「ねえアレクシアさん」
「なあに?」
「たしか東の国に行くって言っていたよね」
するとアレクシアさんはにこっと笑い頷く。
「そうよ。大陸中を巡りたいからね。東の国なら、スターダスト協会の目は届きにくいはず。あくまで協会は、西側中心に力を持っている組織だから」
じゃあ東の国に行くのが一番って事か。
そうしたら逃げ切れるのかな、協会から。
「ねえアレクシアさん」
神妙な顔で俺が言うと、アレクシアさんはなにもかもわかっている、と言った感じで答えた。
「ユーキが言いたいことはわかるわよ。とにかく東に行きましょうか。どうも追われているみたいだし。貴方は協会と関わりたくないんでしょ?」
「うん。俺は旅、したいし。一か所にとどまるつもりはないから」
そう、強い口調で答えると、アレクシアさんはわかった、と言ってくれる。
「旅が私の目的だし。それじゃあ早く東に行きましょうか。その為には山を越えるか、海を渡るかなのよねえ」
海か山。
どっちがいいんだろう。
食べながら考えていると、クロのやつがなんか囁いてくる。
『俺の力があれば東までひとっとびだぜ?』
「うるさい黙れよ。お前はお呼びじゃねえの。俺は俺の力で東に行くの」
そう容赦なく答えると、クロがなんか焦りだす。
『いやなんで? 何で俺の事頼らねえの? 頼ってくれてもいいじゃん!』
そう言いながらなんか青っぽく光ってる。
こいつ、何なんだ? 俺に願い事を言わせたいんだろうけど。
頼ってくれてもいいって何だよ。
内心疑問に思いつつ、俺はそれ以上クロに話しかけるのは止めて、食事に集中した。




