17 盗まれたクロ
アレクシアさんと、早めにこの町を出よう、っていう話になった。
「明日の朝には旅立ちましょうか。なんだかいやな感じがするし。スターダスト協会はなくてはならない施設だけれど、ちょっと強引なところがあるって話があるのよね」
「え、強引なところって?」
「私も噂でしか知らないけれど、強引な鉱山の買収してるとか、珍しい石を強引に買いとったりしているって話があるのよ。だから何事も無ければいいけれど」
「そ、そう言われると怖いんだけど……?}
言いながら俺は嫌な想像をしてしまう。
なんか侵入してきたりとかあり得るんかな?
強盗とか。いや、そんなの考えすぎ、だよな。
そう思い込みたいけれど、不安はぬぐえなかった。
その日の夜。
お風呂に入った後、俺は部屋でクロに話しかけた。
「お前、珍しい石、なんだよな」
『あったりまえだろ? 俺みたいに喋る石はそうそういないからな!』
「ってことはお前が狙われてるかもしれないって事じゃねえか……」
言いながら俺は思わずため息をつく。
俺は首からクロを外し、ぎゅっと握りしめてクロに話しかけた。
「お前、捨てられないわけだろ? 厄介なやつ拾ったなぁ」
『厄介とはなんだ厄介とは! 俺と離れたかったらなぁ、さっさと願い事言えよ。それかお前が死ねば離れられるんだよ』
そう、赤く光りながら文句を言ってくる。
いや、そんなの嫌だって。
「死にたくねえし。それに願い事の代償がなんだかわからなねえのに、するわけないだろ?」
『何でだよ! 今までの持ち主はそんなん聞かねえで願い事してたぞ?』
そう、驚いたように言うクロ。
いや、それもどうかと思うけど?
「それはさすがにどうかと思うけど?」
『でも事実だからな。皆、そんなん聞かねえでうれしそーに願い事、言ってたぞ』
「で、そのあとどうなったんだよ? っていうかお前、石、だろ? 願い事を叶えたあと、お前、持ち主に捨てられてんの?」
言いながら俺は、クロをベッド横の台に置く。
するとクロは青っぽく光り出す。焦ってんのかな。
『え、あ、いや……そういうわけじゃねえよ』
これ、人間の顔があったらそっぽ向いたりしてんのかな。
クロはそれきり黙ってしまう。
とりあえず明日は旅に出るし今日はさっさと寝よう。
念のため、窓にちゃんと鍵がかかっているか確認してする。ちゃんと鍵、かかってるよな。ここ、三階だし、侵入するのは難しいと思うけど。そう思いながら俺は街を見つめる。
ぼうっとした灯りの中に白い壁の家々が浮かび上がっている。
日本とは明らかに違う町並み。マジで俺、ファンタジー世界にいるんだと実感させられる。
俺、戻れるのかな……いや、戻りたいか?
そんな自問をしても答えは出ない。
「やめよ。考えてもわかんねえし」
俺は欠伸をして、室内のランプを消してベッドに入った。
まじで何もなければいいけどな。
全然気持ちが落ち着かない。
何度も寝返りを打ち、いつの間にかすとん、と夢の世界に旅立った。
その日は朝までぐっすりだった。
全然目が覚めなくって、アレクシアさんがドアを叩いて起こしてくれるまで気が付かなかった。
「……ユーキ。ユーキ?」
声がして、俺はゆっくりと目を開ける。
なんか身体が怠い気がする。
俺は身体を起こして、大きく欠伸をした。
あれ、おかしいな。いつもならクロが話しかけてくるのに。
俺は眠い目を擦りつつ、ベッド横の台へと目を向けた。
「……あれ?」
クロが、いない。
「え、なんで?」
俺は飛び起きて台の周りを確認する。
寝ぼけて落っことした? いや、落ちていない。
「ない……ない……」
どこにもクロがいない。
どうしよう。
クロ、どこに行ったんだよ。
俺は慌てて扉の方へと向かい、鍵を開けてアレクシアさんを迎え入れる。
「あ、おはようユーキ。支度はできてないようだけど、だいじょう……」
「アレクシアさん、クロが、クロがいなくなっちゃって!」
言いながら俺は、アレクシアさんの肩を掴む。
すると、アレクシアさんは困惑した顔をして呟くように言った。
「ク、クロ……って……ユーキが拾ったあの黒い石? ときどき話かけているあの変な石?」
話しかけてる、ってやっぱばれてるよなぁ。
いやそれよりも。
「そう、クロ。あいつがいなくなって」
「ちょっとまって?」
アレクシアさんは、俺の顔をじっと見たあと、不審そうな表情を浮かべる。
「ユーキ、もしかして魔法をかけられたんじゃないかしら?」
「え、あ、ま、魔法?」
「えぇ。ユーキからわずかにだけど魔力を感じるの。だからもしかしたらユーキに気がつかれないように魔法をかけて、その石を盗んだんじゃあ……」
言われて俺は、アレクシアさんの肩から手を離して部屋の中に戻ってまっすぐに窓へと向かう。
窓の鍵を確認すると、鍵が開いていた。
「まじかよ……」
俺は窓なんて昨日、開けていないし、ちゃんと鍵がかかっているのは確認したんだ。
「マジで誰かに侵入された?」
言いながら俺は窓を開けて外を見た。
ここ、三階だぞ?
「浮遊の魔法があるし、これくらいの高さならぎりぎり使えるわね」
そんな声が背後から聞こえてくる。
あぁ、そうか。魔法があるんだった。
俺のなかでそういう常識がないし、魔法を目にする機会がそんなにないからつい忘れてしまう。
どうする? きっとクロ、スターダスト協会に盗まれたんだよな。
とり返しに……いや、待てよ?
前にクロを捨てたとき、あいつ戻ってきたよな。
ってことは……
俺はハッとして、視線を上へとあげる。
すると何か黒っぽいものがこちらに飛んでくることに気がついた。
「クロ!」
とっさに俺は手を窓の外に出し、飛んできたクロを手で掴む。
ちょっと痛い。
『ったく、なんなんだよ! あいつらに危うくハンマーでかち割られるところだったんだけど? 伝説の石なら割れないはずとか言って。だから慌てて逃げてきたわ』
そう言いながら、クロは赤く光る。
怒ってるんだな。
俺はそんなクロを握りしめて、顔の前まで持って来て声をかけた。
「よかった……クロが無事で」
心底あんしんしてそう俺が言うと、クロはいぶかしげな声を出す。
『お前何言ってんだよ。俺は石! 持ち主が死ぬか願い事するまで離れられねえって言っただろ?』
言われてみればそうだった。
クロが盗まれる心配なんてないじゃねえか。
そう思ったらほっとして、体の力が抜けていくような気がした。




