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害虫の顔を見るより焼き菓子の方が有意義ですが、奴が用意した机の広さに助けられました。

――案内されたポイズン爵家の庭園は、豪華絢爛だが、どこか不快な「毒」の力が澱みとなって揺らめいている。


「やあやあ、待ちかねたよ、ルナ」


奥の東屋から、格下の侯爵家(次期当主)の身分でありながら、傲慢に腕を組んだままのトキシック様が姿を現した―――。


いかにもやばい名前だけでは収まらず、態度までやばいとは…。


ルナはどうなってしまうのでしょうか…。


お久しぶりです…!第6話楽しんでいってください!

案内されたのは、応接室……ではなく、


我が家と匹敵する大きさのサンルームだった。


トキシック様、いやトキシックがドアを開け、


「入るがいい、レディーファーストだ。」


といいながら、髪の毛をかきあげる。


「まあ、どうもありがとう」


適当に返して中に入る。


一歩足を踏み入れた瞬間、

見上げるほど高いドーム状の天井から容赦なく太陽の光が降り注いだ。


辺りを見渡せば、

室内だというのに、精緻な彫刻が施された噴水が涼やかな音を立てていた。


それだけでは終わらず、

その周りには、異国から取り寄せたであろう色鮮やかな花々が、小さな森を作るかのようにして咲き乱れていた。


あまりの豪華絢爛さと、汚れひとつなく、今にも反射しそうな床にメイドや、庭師らのこだわりを感じる。


その広大すぎる空間の真ん中、大理石で一段高くなったステージの上に、ぽつんと白磁のティーセットが並ぶ大きめのテーブルが用意されていた。


辺りを見渡していた私に、


「どうだい?我が侯爵家が誇るこのサンルームは!驚きのあまり言葉も出ないだろう?」


トキシックは、私のために椅子を引くエスコートの最中でさえ、自惚れきった笑みを崩さない。


「ええ、色々な意味で驚きましたわ。」


私が適当に相槌を打って席に着くと、トキシックは待ってましたとばかりに、テーブルの脇に飾られた妙な青い花を指した。


「ルナ、あの花を見たことがあるかい?」


と問われたと思うと、フッと笑いながら


「まあ、十年しか生きていない君は見たことがなかろう。…なんせあの花は十二年に一度しか咲かないのだからな!」


そう続けて言い終えて、醜い顔になっているのにも気が付かずドヤ顔をした。


「香辛料の国とも言われる中東の国から取り寄せた、十二年に一度しか咲かない花を使った紅茶だ。ルナでも、そうそう飲めるまい。楽しむがいい。」


またまたドヤ顔。


「まあすごい!」


適当のあしらって、トキシックのメイドが入れた紅茶を飲んでみる。


一口飲んで私は関心した。


口に含んだ時に、蜂蜜の濃厚なコクと、野生のハーブのような力強い甘みが口いっぱいに広がった。


そして喉に通すと、柑橘の爽やかさに加え、十二年分の森の生命力を凝縮したような深みのある木の香りと、心地よいほろ苦さが鼻に抜ける。


悔しいが紅茶の美味しさは確かだ。


私が関心した顔をすると、トキシックはフッと鼻で笑って、


「そうだろう。驚くだろう。なんせ、特別な紅茶だからな。」


そう自慢して、トキシックは


「紅茶について語るなんてもったいない。今日はもっと俺について知ってもらうための時間にしようではないか。」


と醜い顔をしながら続けた。

なんだか嫌な予感がする。


「何から話そうか。ああ、そうだ、君より一つ上の俺はもう北の恩恵の毒術を使えるんだ。すごいだろう?どうやら俺は、人並み以上には神脈と神気に恵まれているようだ。まあ、当然のことだな。」


神脈?神気?なんだそれ。ルナの記憶にもないぞ。


「……お恥ずかしながら、術のことは詳しくありませんの。その、神脈と神気とやらのこともよく分かりません。教えてくださいませんか?」


一体それはなんなんだろう。


「フッ、生まれてから外に出たことがないとはそれほどに苦労することなんだな。いいだろう。教えてやるよ。」


そう言って髪の毛をかきあげながら、


「お前らは下がれ。二人きりで話したい。」


とメイドに言って、トキシックのメイドと、私の側付きのメイドをサンルームの外に待機させた。


「さすがのルナでも、基礎四神は知っているだろう?誰もがその基礎四神の恩恵を受けて生まれる。だが俺のように、術を使えるかは別の話だ。」


「ほう?」


「基礎四神の恩恵は、大まかに使える術の系統を知れるようなものだ。大事なのは、人間一個体にある神脈と神気だな。」


「ふむ」


「神脈は、体内を流れる神気を通すための見えない血管のようなものだ。神脈が太いと才能があるとされ、細いと才能がないとされるらしい。」


「ほうほう。」


「神気は天神由来の聖なるエネルギーだな。それを蓄えられる量でも素質の有無は問われるな。まあ、神脈が太いやつらは大概、神気も多く持ち合わせているがな。」


「そうなんですね、勉強になりました!」


まさかこいつから知識を得るとは思いもしなかった。


「ところで、トキシック様は、北の玄天神ベヒモス様の恩恵を受けて、毒術が使えるのだとお見受けしますが、私も東の蒼天神リヴァイア様の恩恵を受けた術を使えるのでしょうか?」


「ふん、ルナの血筋ならまず、使えないことも、人並み以下なんてことはなかろう。君の兄のような力を得る可能性だって十分あるだろう。」


まあそうだろうな、察しはついていた。

とはいえ、神術、気になるな。


「話を戻して、俺は、今のルナと同じ歳に北の恩恵の毒術を使えるようになった。すごいだろう。周囲よりも遥かに早いそうだな。一般的には、早くても十一から十二歳。一番多いのは、多くが学園に通い始める十三歳の頃だな。」


「へぇ。お恥ずかしながら、その学園というのも知らないのですが、十五歳の兄は、学園に通われていらっしゃるのでしょうか?伺ったことがありませんの…。」


そう言うと、トキシックは眉間に皺を寄せて


「通う必要がないのだろう。」


とだけ返した。


「そんな話はもう終いにして、別の話でもしようじゃないか。そうだな、あれは俺が五つの時、庭で―――。」


知りたいことは知れたし、もう帰りたい。

庭で珍獣をペットにしたとか、薔薇園を歩けば薔薇が嫉妬のあまり枯れるとか自慢大会なんだけど。


てか、薔薇がかれるのは、毒のせいだろ。


自惚れた顔で話すトキシックよりも、

机上に置かれた可愛い焼き菓子と果物の方が余程見ていて飽きない。


「まあすごい!」


と話の内容は全くに聞いていないが、適当にあしらう。


相槌を返す度に、トキシックの熱量が増している気がしたのは気のせいではなかった。


―――数十分後。


「と、まあ俺の大まかなことはこれくらいにしておこうじゃないか。」


ああ、やっと終わった。


「こんなに熱心に俺の話を聞くとは、どれだけ俺のことが好きなんだ、ルナ。」


「はあ……?」


「おまけにその指輪。もう、ルナは気が早いな。仕方がない。」


そう言って手を叩き、双方のメイドを呼び、


「例の物と、ワックスを持ってこい。」


と命令した。


婚約書を書くつもりだろう。

今しかないと思ったので、私も同じく、


「あなたもワックスを用意してちょうだい。」


と頼んだ。


メイドがワックスを用意する間、


「いやぁ、まさかルナがここまで、おませさんだとはなあ。」


と目を瞑って頭を抱えるかのようにして、何かに浸っている。


その間に、私も同じく例の物を出して、トキシックに見えないように膝上に置いておく。


ちょうど良いタイミングで、メイドたちがワックスを持ってきた。


トキシックのメイドが持ってきたのはやはり婚約書と、北の玄天神を表すような茶色のワックスだった。


トキシックはメイドから、それらを受け取って、メイドを遠くへ下がらせた。


「この紙に名前と家紋の印をつければ婚約成立だよ。」


と言いながらまだ目を瞑っている。

ゆるり、ゆるりと婚約書に名前を書き始めた。


トキシックと婚約なんてごめんだ。

今しかない。


そう思いながら膝上の例の物、ソル様との婚約書に、迅速かつ丁寧な字でサインする。


そして、メイドにワックスを垂らしてもらい、指にはめていたシーリングスタンプ・リングを使って紋を押そうとした。その時、ドンという音と振動で正面を見る。


「何をしている!今すぐやめろ!」


私の動きに気がついたのか、それともトキシックのメイドが気がついて伝えたのか…


トキシックが瞳孔をガン開いて息を荒くして、机に手を当てて立ち上がっていた。


「何って、『名前と家紋の印をつければ婚約成立だよ。』と教えてくださったのはトキシック様じゃないですか。」


そういいながらスタンプをする。

ああ、机が大きめで良かった、もう少し小さければ、力任せで止められていただろう。


そう思ったのもつかの間、サンルーム内に差し込む日光に対抗するかのように婚約書か光った。


「成立……してしまった、ではないか……。」


そう言ってトキシックは自信と自惚れに満ちた顔を変えて膝から崩れ落ちる。


―――どうやらお守りのつもりで持ってきていた婚約書にサインしたため、本命のソル様と対面することすらなく、婚約が成立したみたいだ。

最後までお読み頂きありがとうございます!


2週間に1、2回程のペースで投稿させてもらうことにはなると思いますが……


ぜひぜひ暖かい目でみてやってください…!


少しでも、


「おもしろい!」


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ぜひ、ルナのこれからを見届けてあげてください!

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