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初めての外出ですが、仕方がないので名前からして害虫なやつの巣穴へ向かいます。

「……分かった。ルナがそこまで言うなら、お茶会には僕も同行する。僕が影から見張る。もしあの有害男がルナを傷つけるために、指一本にでも触れようものなら、その瞬間にポイズン家ごと凍らせてやるからな」


お兄様の同行(最高火力の物理ボディーガード)が決定してしまったルナ。

今回は、トキシック様の元へ向かうお話です!

―――にしても、当日に予定を言われるとは……。


朝食を食べ終えた私は、慌ただしく準備を進める。


……と言っても大事なものはこれだけ。


そう、『本命との婚約書』だ。


もう既に相手側の名前は記されているので、あとは私の名前を書くだけ。


本人らの面会なしに進んでいた話というのは知ってはいたものの、まさかここまでだとは……。


本命さんの名前と、赤いワックスと家紋。


それを見て思い出した。 前言撤回。まだ必要なものはあった。


「私、シーリングスタンプ・リングはめてないじゃん!」


側付きのメイドにシーリングスタンプ・リングのありかを聞いてみる。

側付きメイドはなんとも優秀で、リングだけでなく、ワックスも一緒に持ってきてくれた。


「シーリングスタンプ・リング、初めてお使いになられるのではないですか?外出先でお使いになられるようでしたら、お手伝い致しますよ。」


とのことなので、お言葉に甘えて一緒に来てもらうことにした。

これらをカバンに突っ込んで、深呼吸。


「――よし!」


初めての外出先が、振る予定の婚約者候補の家とか嫌すぎるけど、仕方がない。


お兄様にエスコートされて馬車の中に乗り込む。


―――ガタゴトと揺られて、しばらく。


「ねぇ、お兄様。お兄様の婚約者候補?婚約者様?ってどんな方なの?」


「……ああ、彼女のことか。話すと少々長いよ?」


「んふふ、聞かせてくださいな。」


私がそう促すと、お兄様はそれまで窓の外のどこか遠くを見た。


「それは、1年前のことかな。」


※※※



――僕は正直、妹以外の女には興味がなかった。

もちろん、性的な目で妹を見ているわけではない。


「自分の命に代えてでも守ってやりたい」


僕の胸にあるのは、ただそれだけの、純粋で莫大な感情だった。


我がノクターン公爵家は、東の蒼天神『リヴァイア様』の恩恵を純血のまま受け継ぐ家系。

それゆえに、次期当主である僕の力はあまりにも冷徹で、強大すぎた。

十四歳の僕には、あまりに膨大な氷の力を、自分でも完全に制御しきれていなかった。


感情が少しでも昂れば、周囲の空間を無意識に物理的に凍りつかせてしまう。

それによって、人に危害を加えていない現状がどれだけ幸いな事か……。


だから僕は、周囲を巻き込まないために、普段から徹底して感情を押し殺し、冷徹で、物静かな人間として振る舞うしかなかった。


周りの貴族たちも、僕の目が少し動くだけで恐怖に震え上がり、腫れ物を扱うように遠巻きに見ていた。


そんな僕が、次期当主としていよいよ社交界へ出ることになった。


初めて参加したのは、ある高貴な家系が主催する夜会だった。


会場の華やかな熱気の中でさえ、僕の周囲だけはピキピキと薄氷が張り詰め、誰も近づこうとはしなかった。


皆が僕を『ノクターンの冷酷な化け物』と恐れ、孤独な絶対零度の世界に一人で立っていた時だ。


「――ようこそおいでくださいました、ノクターン公爵令息様」


のんびりとした、ぽわぽわとした声と共に、僕の前に一人の令嬢が歩み寄ってきた。


その夜会の主催者である家の令嬢。

古くからリヴァイア様の恩恵を宿す血筋の持ち主である彼女だった。


「近づくものじゃない。凍りつきたいのか。」


無意識に周囲を凍らせてしまう恐怖から、僕はいつものように冷たく突き放した。


けれど、彼女は怯えるどころか、優しく微笑んだ。


「私、ちょっと涼しい方が好きなんですよぉ。」


周囲が恐れる僕の氷の力を、彼女はただの

「涼しくて心地よい空間」かのように受け流した。


それだけじゃない。

彼女は僕の凍てつく手を、自身の暖かい両手でそっと包み込んでくれた。


その瞬間、彼女が放つ不思議な力は、あまりにも暖かく……僕の心を縛り付けていた氷を、一瞬で溶かしてしまった。


差し伸べられたその手の温もりを、僕は一生忘れないだろう。


「この人に、新しい家族になってほしい」


そう感じた僕は、翌日、申し出を彼女の家に送りつけた。


彼女のお父上が腰を抜かして気絶したと聞いたのは、その少し後のことだ。


※※※



「……と、まあ、彼女との出会いはそんな感じさ。ルナと同じように、とても穏やかで、僕の気味が悪い暴走を止めてくれる大切な女性(ひと)だよ」


お兄様の惚気話を聞いているうちに、馬車はゆっくりと速度を落としていく。


「さて、到着したようだね」


お兄様の顔から一瞬で甘さが消え、冷徹な氷の術師の顔へと戻る。


「ルナ。僕はここで馬車を待機するが、あのトキシックとかいう有害ゴミ虫が、君を傷つけるために、指一本でも触れようものなら、即座に庭園ごと絶対零度の世界にしてやるからね」


「ふふ、頼りにしていますわ、お兄様」


私はカバンの中の『本命との婚約書』にそっと触れ、応援にきてくれた優秀なメイドと共に、馬車の扉を開けた。


――案内されたポイズン爵家の庭園は、豪華絢爛だが、どこか不快な「毒」の力が澱みとなって揺らめいている。


「やあやあ、待ちかねたよ、ルナ」


奥の東屋から、格下の侯爵家(次期当主)の身分でありながら、傲慢に腕を組んだままのトキシック様が姿を現した。


「君の家系がどれだけ高貴な純血だろうが、所詮は女だ。我がポイズン家と交わることで、その冷徹な力に我が家の力を混ぜ、より素晴らしい力を――」


無礼極まりない言葉の数々。けれど、私のバッグの中にはすでに、国をも滅ぼす軍事力を持つソル侯爵子息との婚約書が眠っている。


「んふふ、トキシック様ったら、愉快なことを。…もっとお話聞かせてくださいな。(あー、気色が悪い。)」


私はおっとりと、トキシック様に対する憎悪を隠すように微笑んだ。


「ふっ、ルナ。緊張しているのかい?」


そう言って、私の至近距離にトキシック様。


「ほう、ノクターン公爵令嬢ともあろうお方が、ずいぶんと.....。そそる香水を使っているね。(すぅぅううっと髪の毛の匂いを嗅ぐ)」


「まあ、トキシック様ったら。(無理無理無理キモすぎる!!!!!)」


「ふん、まあいいだろう。今日は特別な紅茶を用意している。ついてきな、ルナ。」


その一言が、地獄の始まりに感じて、悪寒が走った。

第5話をお読みいただき、ありがとうございました!


不穏な空気を漂わせているトキシック様……。

一体この先どうなっていくのでしょうか。


少しでも


「おもしろい!」


「トキシック気持ち悪……」


と思ってくださったら、ページ下部にある


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