このままでは、逆らえなくなる運命から逃げるために、害虫を利用して、「本命」とやらと婚約する計画、乗りました!
優雅に朝食を楽しんでいたルナでしたが、突然執事に
「ポイズン侯爵家からお茶会のご招待が届いております。……あちらには、お嬢様の『婚約者候補』である御嫡男、トキシック様も同席されるとのことです。ぜひ足をお運びいただきたく存じます」
と告げられてしまいました。
いかにも「やばそう」な名前の婚約者候補に警戒するルナ、一体どうするのでしょうか。
「ルナお嬢様……? お顔が引きつっておいでですが、体調が優れませんか?」
執事が心配そうに覗き込んでくる。私はハッと我に返る。
「いいえ、大丈夫よ。突然のことだったから、少々驚いてしまったの。……しかし、一体なぜ急に?やはり、王家が関わるのかしら。教えてくださらない?」
「……さすがはルナお嬢様。そこまでお見通しでしたか」
執事は感心したように深く頭を下げると、周囲に使用人がいないかを確かめるように見回し、さらに声を潜めた。
「お察しの通り、王家が関わっております。今年、王太子殿下が正式に婚約者を決定してもよいとされる『年齢』に達するのです。……つまり、近いうちに王家から『ルナお嬢様を王太子妃に』という、断ることのできない打診が届くのは確実な情勢でございます」
「やはりね、そうだと思った。」
王太子妃ルート。
前世の毒親に負けず劣らずの、自由が一切ない搾取ルートじゃん。絶対に御免被るわ!
心の中で激しく首を横に振る私に、執事は真剣な面持ちで続けた。
「ルナお嬢様が王家に嫁げば、我が公爵家の力を内側から抑え込もうとする王家の思惑通りになってしまいます。
閣下も奥様も、お嬢様を王家に差し出す気は毛頭ございません。
ゆえに――その打診が正式に届く『前』に、何としても別の婚約者を確定させ、既成事実を作って王家の手を封じる必要がございます」
はいはい、そうだと思ってましたよ。
由緒ある公爵家の令嬢に生まれてしまった以上逃れられないほどお決まりの、
「王太子妃ルート」
よく異世界恋愛モノで見るやつだ。
私はああはなりたくないや。
国を背負うような重大な仕事任されたら折れるに決まってる。
爵位を問わず、優秀な令嬢を王太子妃にしてやってくれ。
「……それで、今回のポイズン侯爵家からのご招待というわけかしら?」
私が尋ねると、執事は小さく頷いた。
「はい。あちらは我が家のリヴァイア様の加護(水の力)を借りて、長年続く、領地の干ばつ被害を解決したがっている。まずはその『有害』な誘いに乗ったふりをして『双方が婚約することはまずなかろう。』と、王家の警戒を逸らし、油断させ……その隙に、本命の婚約を成立させる手筈となっております」
「本命……? ポイズン侯爵家ではなくて?」
「はい。国をも滅ぼせる軍事力を持ち、武力でのし上がった成り上がり貴族――アークライト侯爵家。
その次期当主であられる、ソル・アークライト様です。
王家の打診が届く前に、アークライト家の圧倒的な武力を後ろ盾につけて婚約を確定させてしまえば、いくら王家といえども、それを力尽くで白紙に戻させることは不可能ですから」
なるほど!
トキシックっていう害虫をカモフラージュにして、王家の注意を逸らして、時間を稼ぎ、
その隙に本命のソル様とサクッと婚約を結んで王家の手を封じる計画ね。
……うちの両親、思った以上に策士で最高じゃん!
「実はもう、あとは婚約書にサインをすれば、婚約できるところまで、両家で話が進んでおります。
お父様もお母様も、そしてアストルお兄様も、『ルナさえ良ければ、ぜひソル様と婚約してほしい』と申しております。
ソル様は若くして軍の一部を率いる、非常に優秀な方ですので」
「……分かったわ。お父様たちの計画、乗らせていただきます。――トキシック様には、我が家を一方的に利用したことを、私たちがさらに利用して後悔させて差し上げましょう!」
私が害虫駆除業者としての笑みを浮かべた、その時だった。
「ちょっと待ったぁぁぁぁーーー!!!」
食堂の重厚な扉が、凄まじい勢いでバァン!と音を立てて開いた。
現れたのは、息を荒くした我が家のお兄様、アストル。相変わらず顔面が天才的に美しい。
……が、お兄様の残念なところは、やはり、
『シスコンレーダー』だ。
最近気がついたこの
『シスコンレーダー』、私の身に何かあると、ビビっと来るらしい。
「可愛い、可愛い妹を守れる!実に素晴らしい!」
と、このレーダーを誇っているのがなおさら、お兄様の残念なところだ。
お兄様の婚約候補のご令嬢は、こんなおかしいお兄様で良いのだろうか……。
と内心思っていたら、
「なんだか、ルナの身が、醜いものにさらされる気がしたから来てしまったよ!……大丈夫かい?」
と、またお兄様はシスコン発言を放り込んだ。
「ええ、お兄様。わたくしは至って元気ですわ。……それよりお兄様、扉は普通に開けてくださいませ」
「ルナに万が一のことがあれば扉の一枚や二枚、安いものさ!
それより執事、さっきの不穏な話について詳しく説明してもらおうか。
ルナの婚約者候補に、あの『有害』などという、名前からして害悪な男がしゃしゃり出てきているとはどういうことだ! 妹をあんな有毒物質に近づけられるわけがないだろう!」
お兄様、顔を真っ赤にしてキレ散らかしているけれど、計画のことは知っているはず。
知っているうえで、シスコンレーダーが暴走してじっとしていられなかったらしい。
「アストル様、落ち着いてください。これは先ほどルナお嬢様にもお伝えした通り、王家の目を逸らすための――」
「うるさい! いくらカモフラージュとはいえ、ルナをそんな男のところへ行かせるくらいなら、僕が今すぐポイズン侯爵家に殴り込んで、そのトキシックとかいう男をリヴァイア様の激流で文字通り『水に流して』消し去ってやる! 干ばつで困っているなら、領地ごと水没させてやれば満足だろう!」
「お兄様、落ち着いてください(物理的に消し去るのはただのテロ、というかそれはただの洪水です)」
ヤバい、お兄様の暴走でポイズン侯爵家が明日を迎える前に歴史から消滅しそうだ。
でも正直、公爵家を一方的に利用しようとした威勢の良さは嫌いじゃない。
なぜならば、メタ認知の歪みが綺麗に出ていて無様だからだ。
「お兄様。わたくし、大丈夫ですわ。
あちらのトキシック様が、一体どのようなお方なのか、少し興味がありますの」
無論、意中の相手としてではない。
どんな風に、あえてニコニコしながら持ち上げて天国に登らせてから、ソル様との婚約で奈落の底へ叩き落としてやろうかっていう意味でね。
私が不敵な笑みを浮かべてそう言うと、お兄様は
「うっ……ルナが僕以外の男に興味を……!?」
とショックで胸を押さえてよろめいた。
「……分かった。ルナがそこまで言うなら、お茶会には僕も同行する。僕が影から見張る。もしあの有害男がルナの指一本にでも触れようものなら、その瞬間にポイズン家ごと凍らせてやるからな」
お兄様の同行(最高火力の物理ボディーガード)が決定してしまった。
まあいいわ。
バックに頼れる過保護な実力者を詰め込んで、いざ、婚約者候補とやらの害虫駆除へ。
待っててね、トキシック様。
トキシック様の名前への「やばそう」という解釈が、お兄様と完全に一致してしまいました(笑)。
王太子妃ルートを回避するため、そしてトキシックを軽くざまぁするための裏計画がついに始動します!
次回、いよいよポイズン侯爵家でのお茶会(害虫駆除タイム)に突入します!(投稿済)
今後、本命の婚約者候補である、ソル・アークライト様とのちょっとした恋愛要素(ビジネス婚約からのじれじれ展開?)も入る方向性を予定しています…!
それだけを主軸にする予定は今のところありません!
少しでも
「おもしろい!」
「ソルとのこれからの関係性が気になるかも!」
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ぜひ、ルナのこれからを見届けてあげてください!




