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79話 不審船


「撮影映像を拡大してくれ!」


アレックスの指示に、ノアが即座に反応した。


大型モニターに、ステルスドローンから送られてきた映像が映し出される。


最初に目を引いたのは、その大きさだった。


「……でかいな」


遼が思わず呟いた。

映像から推定される全長は、約一・八キロメートル。

アークノヴァの約一・五倍にもなる巨大な船体だった。

しかし、ブリッジのクルーたちが驚いた理由は、それだけではなかった。


「待てよ……」


アレックスがモニターを凝視する。


「この形、どこかで見たことがないか?」


遼も目を細めた。

流線形の船体。

艦首から後部へと伸びる構造。

エンジン区画の配置。

船体の各所に設けられた接続部。

細部には違いがあるものの、その基本構造は――。


「……アークノヴァにそっくりじゃないか」


遼が言った。

ブリッジにざわめきが広がる。


「偶然なのか?」


「いや、似すぎている」


「いったい、どういうことだ?」


ジョンがモニターに近づいた。


「まさか、同じ設計思想で作られた船なのか?」


「そんなことがあるのか?」


誰も答えられなかった。

ノアが映像をさらに拡大する。

船体表面の細部が、少しずつ鮮明になっていく。

そして――。


「船体に文字らしきものを確認しました」


「文字?」


「はい。拡大します」


モニターの映像が切り替わった。

巨大な船体の側面。

そこには、はっきりと文字が刻まれていた。


SAKURA


「……SAKURA?」


遼が読み上げた。


「サクラ……桜か?」


アレックスが呆れたように息を吐いた。


「なんだよ。地球外生命体とのファーストコンタクトかと思ったら、名前が書いてあるじゃないか」


ジョンはまだ納得できない様子だった。


「いや、待ってくれ。名前が書いてあるからといって、地球の船だとは限らないだろう」


「それはそうだが……」


アレックスは腕を組んだ。


「少なくとも、未確認飛行物体からは格下げだな」


「不審船だよ。不審船SAKURA」


遼は苦笑した。

だが、笑ってばかりもいられなかった。

アークノヴァの一・五倍もの大きさを持つ船が、正体不明のまま宇宙空間を航行している。

しかも、こちらからの通信には応答しない。

それだけでも十分に警戒すべき相手だった。


「ノア、相手の船籍を照合できるか?」


「現在、登録データベースと照合しています。しかし、一致する情報はありません」


「推進方式は?」


「解析中です。現時点では、アークノヴァと同じ重力湾曲エンジンを搭載している可能性があります」


「何だって?」


アレックスの表情が険しくなった。

同じ重力湾曲エンジン。

もしそれが事実なら、偶然似た形の船が現れたというだけでは済まない。

この船は、アークノヴァと何らかの関係があるのかもしれない。


「通信は引き続き試みてくれ。こちらから攻撃する意思はないと伝えるんだ」


「了解しました」


ノアが通信を送信する。

しかし、返答はなかった。


「……また拒絶か」


アレックスは舌打ちした。

そして、しばらくモニターを見つめた後、決断した。


「よし。相手の正体を確認する。アークノヴァ、進路変更。不審船SAKURAへ接近する」


「接近するのか?」


遼が聞き返した。


「このまま放置するわけにはいかない。あの船が何者なのか、確認する必要がある」


アレックスは操縦担当へ指示を飛ばした。


「推進出力を上げろ。目標との距離を詰める!」


「了解!」


アークノヴァのエンジン出力が上昇した。

巨大な船体が加速し、星々の間を滑るように進み始める。

ところが――。


「艦長!」


玲奈の声が響いた。


「不審船SAKURA、加速しています!」


「何だと?」


モニター上で、SAKURAの位置が少しずつ変わっていく。

明らかに距離を取ろうとしていた。


「逃げているのか?」


遼が呟いた。


「そのように見えます」


ノアが答える。

アレックスは眉をひそめた。


「こちらが近づいた途端に逃げるとはな……」


「通信を拒否したうえに逃走。ますます怪しいですね」


ハッサンが言った。


「艦長、どうします?」


アレックスは即答した。


「追うぞ。推進出力、さらに上げろ!」


「了解!」


アークノヴァはさらに加速した。

だが、SAKURAも負けてはいなかった。

巨大な船体が加速し、二隻の距離はなかなか縮まらない。


「速いな……」


遼はモニターを見つめた。


「アークノヴァと同じくらいの速度が出せるってことか?」


「まだ分かりません。相手は加速を続けています」


ノアの報告に、アレックスは決断した。


「隼人を呼び出せ!」


「隼人ですか?」


「そうだ。ファルコンで追跡させる」


アレックスは通信回線を開いた。


「隼人、聞こえるか?」


『はい、聞こえています!』


「緊急任務だ。ファルコンで出撃し、不審船SAKURAを追跡しろ!」


『了解! すぐに準備します!』


「無理に接近する必要はない。相手の動きを監視しながら追跡するんだ」


『分かりました!』


通信が切れた。


アレックスは戦術モニターに視線を戻した。


「アークノヴァとファルコンで挟み込む」


「挟み込む、ですか?」


遼が聞き返した。


「ああ。相手の進路を塞ぎ、ビームアンカーを打ち込む。動きを封じてから、こちらの管理下に置く」


「相手が抵抗したら?」


「その時は状況を見て判断する。だが、できる限り船体を傷つけずに確保したい」


アレックスは言葉を切り、モニター上のSAKURAを睨んだ。


「中に誰が乗っているのか、それを確かめなければ始まらない」


やがて、格納庫からファルコンが発進した。

小型戦闘艇は一気に加速し、アークノヴァとは別の角度からSAKURAへと向かっていく。

巨大なアークノヴァ。

その前方を追い越そうとするファルコン。

そして、逃げ続ける不審船SAKURA。

三隻の距離が、刻一刻と縮まっていく。


「ファルコン、目標との距離を報告しろ」


『こちらファルコン。目標を視認。現在、側面から接近中です』


「よし。予定の位置についたら待機しろ。こちらの合図で挟み込む」


『了解!』


アレックスは深く息を吸った。


「……さあ、そろそろ正体を見せてもらおうか」


その言葉に応える者はいない。

SAKURAは相変わらず通信を拒絶し、逃走を続けていた。

まるで、絶対に捕まるわけにはいかないとでも言うように。

そしてアークノヴァとファルコンは、ついに不審船を挟み込める位置へと近づいていった。

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