78話 ファーストコンタクト
遼がブリッジへ駆け込むと、すでにアレックスが指揮を執っていた。
「ノア、未確認飛行物体へ通信を送ってくれ」
「了解しました」
ノアが通信システムを操作する。
ブリッジの大型モニターには、約一・八キロメートルにも及ぶ巨大な物体が映し出されている。
「通信を送信します」
しばらく待つ。
しかし――。
「……通信、拒絶されました」
「拒絶?」
アレックスが眉をひそめる。
「はい。こちらからの通信に対して、応答がありません。正確には、通信そのものを受け付けていないようです」
「向こうはこっちを見ているんだろ?」
遼が尋ねる。
「その可能性が高いです」
ブリッジに緊張が走った。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがてジョンが言った。
「地球外生命体とのファーストコンタクトだ」
全員がジョンを見る。
「もしあれが本当に知的生命体によって作られたものなら、僕たちは人類史上初めて地球外文明と接触することになる」
ジョンの目は輝いていた。
「ならば、こちらから使者を送るべきだ」
「使者?」
「小型機を送り込むんだ。こちらに敵意がないことを示して、直接接触を試みる」
ジョンは興奮気味に続けた。
「こんな機会は二度とないかもしれない!」
しかし、アレックスは首を横に振った。
「気持ちは分かる。でも、それは危険すぎる」
「なぜ?」
「相手が敵対的な存在だったらどうする?」
アレックスはモニターに映る巨大な物体を指差した。
「こっちより遥かに巨大な船かもしれない。しかも、こちらからの通信を拒絶している」
「……」
「そんな相手に、いきなり有人の小型機を近づけるわけにはいかない」
ジョンが黙り込む。
「まずは相手の出方を見るべきだ」
アレックスの言葉に、遼も頷いた。
「俺もアレックスに賛成だ」
「では、どうする?」
イザベルが尋ねる。
遼は少し考えた。
「無人機を飛ばそう」
「ドローン?」
「ああ。まずは近くまで行って、相手の姿を詳しく確認する」
アレックスが頷く。
「それがいい」
「ただし――」
遼はモニターを見つめた。
「攻撃と誤解されないようにしないとな」
「ステルスドローンを使いましょう」
ハッサンが提案した。
「レーダーやセンサーへの反応を極力抑えた機体なら、相手を刺激する可能性も低い」
「よし、それでいこう」
アレックスが決断した。
「ハッサン、悠斗。格納庫からドローンを準備してくれ」
「了解!」
「分かった!」
二人はブリッジを飛び出していった。
やがて――。
『発進準備完了』
格納庫から通信が入る。
「ドローン十基、発進します!」
「発進!」
アークノヴァの格納庫から、小型のステルスドローンが次々と宇宙空間へ飛び出していく。
一基。
二基。
三基。
そして十基。
ドローンはそれぞれ異なる方向へ散開すると、巨大な未確認飛行物体へ向かって進んでいった。
ブリッジでは、全員がモニターを食い入るように見つめている。
誰も口を開かない。
ドローンから送られてくる映像だけが、静かにモニターへ映し出されている。
巨大な物体が少しずつ大きくなっていく。
「距離、五百キロ」
「まだ遠いな」
「四百」
「三百」
誰もが固唾を呑んで見守る。
もし相手がこちらを敵と認識したら――。
ドローンは一瞬で破壊されるかもしれない。
「二百キロ」
アレックスが拳を握った。
「……まだ何もしてこない」
「百キロ」
「近づいている」
ドローンは、巨大な物体へさらに接近していく。
「十キロ」
その瞬間だった。
ノアが言った。
「対象から反応ありません」
「よし……」
「さらに接近します」
そして――。
「撮影可能距離に入りました」
「映像を出してくれ!」
アレックスが叫んだ。
大型モニターに、ドローンから送られてきた映像が表示される。
最初は、巨大な金属の壁のように見えた。
しかし、カメラがさらに近づく。
表面が少しずつ見えてくる。
「……なんだ、これ?」
誰かが呟いた。
ドローンが横方向へ移動する。
巨大な船体。
複雑な構造。
規則正しく並んだ巨大な開口部。
そして、その表面に刻まれているもの。
「待て……」
ジョンがモニターへ顔を近づける。
「これは……」
全員が息を呑んだ。
映像がさらに鮮明になる。
巨大な船体の一部が、ゆっくりと画面いっぱいに映し出された。
そこにあったのは――。
誰も予想していなかったものだった。
「……嘘だろ」
アレックスが呟く。
遼も言葉を失った。
ブリッジにいた全員が、ただモニターを見つめている。
そこに映っていたものは――。
遥が呟く
「そっくりじゃないか」
「……これを、誰が作ったんだ?」
遼の声だけが、静まり返ったブリッジに響いた。




