↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/88

71話 空気が無くなる


 ――目を覚ました。


「……ん?」


 遼はゆっくりと目を開けた。

 目の前に広がっていたのは、真っ暗な宇宙だった。

 無数の星が、まるで宝石をばら撒いたように輝いている。


「……ここ、どこだ?」


 ぼんやりした頭で周囲を見回す。

 そこでようやく思い出した。


「……そうだ。オアシス……」


 採掘作業中に水蒸気が噴き出した。

 そして、自分は宇宙空間へ吹き飛ばされた。


「…………」


 遼は数秒間、黙った。


「……マジかよ」


 ヘルメットの表示を確認する。

 酸素残量。


 **00:30:00**


「三十分……」


 遼は思わず笑った。


「なんだ。三十分もあるじゃないか」


「ん?」


遼はバイザーを確認した。


「……割れてる」


小さな亀裂。

そこから、ほんのわずかずつ空気が漏れている。


「まずい、まずい……」


遼は補修テープを取り出し、割れた部分へ急いで貼り付けた。

一枚。

二枚。

さらに重ねる。


「これで……少しはもつか」


 バイザーには大きな亀裂。

 通信機も壊れている。

 身体もあちこち痛い。

 だが――酸素は三十分ある。


「そのうちアークノヴァが見つけてくれるだろ」


 遼は意外なほど楽観的だった。


「玲奈たちなら、絶対に探してくれる」


 そう言って、星空を眺める。

 地球にいた頃なら、こんな景色を見れば感動していたかもしれない


「……綺麗だな」


 遼はしばらく星を眺めていた。

 そして――


「……あれ?」


 ふと気づく。


「アークノヴァ、どこだ?」


 身体をゆっくり回転させる。

 右を見る。

 左を見る。

 上を見る。

 下を見る。


「…………」


 何もない。


「まあ……距離があるんだろ」


 もう一度、回転する。

 やっぱり何もない。


「……おーい」


 もちろん返事はない。

 通信機は壊れている。

 遼は自分のヘルメットを軽く叩いた。


「おい、通信機。こういう時くらい頑張れよ」


 当然、通信機は無言だった。


「……ですよね」


 遼はため息をついた。

 その瞬間だった。

 胸元の表示が変わった。


 **00:28:52**


「……」


 さっきまで三十分あった酸素が、もう一分以上減っている。

 遼の表情が少しだけ変わった。


「……そりゃ減るよな」


 宇宙服の酸素は無限ではない。

 当たり前のことだ。

 遼はアークノヴァを探し続けた。

 しかし――見えない。


「まだかな……」


 さらに時間が経つ。

 **00:24:11**


「……まだ来ない」


 さすがに胸の奥がざわついてきた。

 アークノヴァなら、もう捜索を始めているはずだ。

 玲奈なら、必死になって探しているはずだ。

 それでも見えない。


「大丈夫だ」


 遼は自分に言い聞かせる。


「絶対に見つけてくれる」


 そう言いながら、また周囲を見る。

 星。

 星。

 星。

 そして、星。


「……星しかないな」


 思わず苦笑する。


「そりゃ宇宙だから当たり前か」


 だが、笑っていられたのもそこまでだった。

 酸素表示はさらに減っていく。


――その頃。

アークノヴァでは、中央作戦室に怒号が飛び交っていた。


「イザベルとハッサンは回収できた!?」


玲奈が叫ぶ。


「はい!」


ノアが答える。


「二人とも回収完了しています」


「じゃあアンカーを切り離して!」


玲奈が即座に指示する。


「アークノヴァ、オアシスから離脱!」


巨大なビームアンカーが次々と切り離される。


「推進開始!」


アークノヴァがオアシスから離れていく。


「全員、全方向索敵!」


玲奈が振り向く。


「遼を探して!」


船内各所で電子双眼鏡が起動した。

ブリッジ。

観測デッキ。

作業区画。

全員が宇宙空間を見つめる。


「右舷、異常なし!」


「左舷も見えない!」


「後方、確認できません!」


「前方も駄目!」


玲奈は歯を食いしばった。


「どこ……?」


ノアが計算を続ける。


『遼が放出された推定地点を算出します』


スクリーンに推定区域が表示された。

広大な宇宙空間。


「……広すぎる」


玲奈が呟く。


「一人で漂ってるのよ……」


その時、ノアが報告した。


『遼の宇宙服から生命維持信号を取得できていません』


「……」


玲奈の顔が青ざめる。


『現在、残存酸素量は推定――』


ノアが一瞬沈黙する。


『二十八分前後』


「二十八……」


玲奈は拳を握った。


「時間がない!」


アレックスが操縦席から立ち上がる。


「隼人!」


「はい!」


「ファルコンを二機出す」


「了解!」


ほどなくして、格納庫から二機のファルコンが発進した。

アレックス機。

隼人機。

二機はアークノヴァから大きく離れ、互いに距離を取って捜索を開始する。


「遼、応答しろ」


アレックスが通信を繰り返す。


『……』


返事はない。

隼人も叫ぶ。


「遼! 聞こえたら何か返してくれ!」


しかし、宇宙は静まり返っていた。

 **00:21:37**


 遼の呼吸が少しずつ速くなる。


「……落ち着け」


 深呼吸する。

 だが――


「……もし、このまま見つからなかったら?」


 考えたくなかった。

 しかし、一度考えてしまうと止まらない。

 酸素がなくなる。

 呼吸が苦しくなる。

 そして――死ぬ。


「…………」


 遼の喉が鳴った。


「……死ぬのは、嫌だな」


 今までなら、冗談で済ませられた。

 だが今は違う。

 ここには誰もいない。

 助けを呼ぶこともできない。

 ただ宇宙空間に漂っている。

 酸素だけが、確実に減っていく。


 **00:17:48**


「……まだ十七分」


 遼は表示を見つめた。


「十七分もある」


 そう言い聞かせる。


「大丈夫だ」


 だが、声は少し震えていた。

 その時だった。

 ヘルメットの通信機から、ほんの一瞬だけノイズが入った。


『……ザッ……』


「!」


 遼が飛びつく。


「こちら遼! 聞こえるか!」


『…………』


「アークノヴァ! 誰でもいい、応答してくれ!」


『…………』


 何も聞こえない。


「……」


 遼は肩を落とした。


「……なんだよ」


 通信機を見つめる。


「期待させるなよ……」


 しばらく沈黙した後――


「ララララ。。♪ うちゅ少女 ♫」


 気を紛らわせるため アークノヴァ☆スターズのデビュー曲を口ずさむ


 少し考える


「……いや、待て」


 遼は真顔になった。


「歌ったら酸素使うじゃん」


「…………」


「駄目だろ」


 自分でツッコんだ。


「何やってるんだ俺」


 思わず笑ってしまう。

 だが、その笑いもすぐに消えた。


 **00:16:02**


「……笑ってる場合じゃない」


 呼吸がまた速くなる。


「落ち着け」


 遼はゆっくり息を吸った。


「ゆっくり……吐く」


 そして、何度も繰り返す。


「大丈夫だ 大丈夫だ」



アークノヴァでは


「酸素残量は!?」


ノアが答えた。


『推定残量、十六分を切りました』


「具体的には!?」


『00:15:42』


玲奈は息を呑んだ。


「十五分……」


イザベルが肩をつかむ。


「玲奈……」


「私のせいよ」


玲奈の目に涙が浮かぶ。


「私が……もっと早く――」


その瞬間。

パァン!

鋭い音が響いた。

エレナが玲奈の頬を叩いていた。


「しっかりしなさい!」


「……エレナ」


「今、あなたが崩れたら誰が指揮するの!」


「でも……!」


「遼を助けたいんでしょ!」


玲奈は頬を押さえた。

エレナが強く言う。


「だったら泣くのは、助けてからにしなさい!」


玲奈は唇を噛んだ。

そして――


「……分かった」


顔を上げる。


「絶対に見つける」


その頃。

ひかりが通信端末を抱えていた。


「バロー」


返事がない。


「バロー、聞こえる?」


「……」


「お願い、出て」


何度も呼びかける。

そして――


「……つながった」


小さな声。


「バロー」


『はい』


「私の大切な遼を見つけて」


少しの沈黙。

バローの声は、いつもの穏やかなものだった。


『了解しました』


『私にお任せください』


通信が切れる。

直後――

バローは、自分の巨大な建機部分を切り離した。

ひかりが画面を見つめる。

バローの本体に、小型スラスターが展開される。


「行きまーす」


火花のような光が噴き出した。

バローの身体が宇宙空間へ飛び出す。


「遼を捜索します」


 遼の呼吸が荒くなる。


「……まずい」


 慌てて深呼吸をやめる。


「駄目だ。落ち着け」


 自分の胸を軽く叩く。


「呼吸が荒くなったら酸素の減りが早くなる」


 ゆっくり。


 ゆっくり。


「大丈夫……」


 その時。

 遠くで何かが光った。


「!」


 遼は目を見開いた。


「……今の、何だ?」


 もう一度見る。

 何もない。


「見間違いか……」


 遼は周囲を見回した。

 星しかない。


「…………」


 酸素。


 **00:10:06**


「……十分快」


 遼は呟いた。


「十分快……」


 だが、その声にはもう余裕がなかった。

 アークノヴァは見えない。

 通信機は壊れている。

 酸素は減っていく。


「玲奈……」


 遼は小さく呟いた。


「早く見つけてくれよ……」


 その時――その時だった。

視界の端で――

何かが揺らめいた。

一瞬。

また一瞬。

小さな光。


「……ん?」


遼は目を凝らした。


「スラスター?」


遠くで、小さな炎が見える。


「意外と遠くでも見えるのか……」


遼は姿勢制御用スラスターを操作した。

ボッ。

小さな炎。

また。

ボッ。

ボッ。


「こっちだ……!」


残り酸素。

**00:08:46**

遼は何度も噴射する。


「気づけ……」


また噴射。


「頼む……」


そして――


遠くの光が動きを変えた。

遼は目を見開く。


「……動いた」


光が、こちらへ向かってくる。


「気が付いた!」


その頃、ファルコンのコックピット。

アレックスがレーダーを凝視していた。


「今の光……」


隼人も同時に叫ぶ。


「何かいる!」


しかし――

レーダーには、まだ明確な反応がない。


「肉眼で探せ!」


「了解!」


さらに一機。

バローも、小型スラスターを噴かしながら近づいていた。


そして――


「……来た」


遼の目に、小さな機影が映った。


「バローか?」


接触回線が開く。


『遼』


「……バロー」


『お待たせいたしました』


酸素計。

**00:05:31**


「……遅いぞ」


『申し訳ありません』


「ウソ。ウソありがとう」


『当然です』


その直後だった。

二つのファルコンが猛烈な速度で接近してきた。


「遼!」


アレックスの声。


「今、そっちへ行く!」


隼人も叫ぶ。


「遼、よく頑張った!」


遼の酸素計が点滅する。

**00:04:58**


「……あと五分か」


アレックス機が遼の横へつく。

牽引ワイヤーが射出される。


「固定するぞ!」


「了解!」


遼の宇宙服へワイヤーが接続される。


「固定!」


アレックスが叫ぶ。


「引く!」


ファルコンが加速する。

酸素計。

**00:03:47**


「あと三分四十七秒!」


隼人が叫ぶ。


「分かってる!」


アレックスは一気にアークノヴァへ向けて加速した。

バローも横につく。


「遼、しっかり!」


「大丈夫……」


遼は笑った。


「……まだ寝ないよ」


酸素計。

**00:02:31**

アークノヴァの船体が見えてきた。


「格納庫を開けろ!」


玲奈の声が通信回線に響く。


「了解!」


格納庫が開く。

酸素計。

**00:01:42**


「あと一分四十二秒!」


エレナが叫ぶ。


「急いで!」


ファルコンが格納庫へ突入する。

バローも続く。

遼が床へ降ろされる。

酸素計。

**00:01:09**


「ヘルメットを外すな!」


エレナが駆け寄る。

酸素供給装置を接続する。

そして――

**00:00:47**


「酸素供給、正常!」


エレナが叫んだ。


「助かった!」


遼は大きく息を吐いた。

その瞬間――


「遼!」


玲奈が駆けてきた。

ぎゅっ。

玲奈が遼に抱きついた。


「よかった……!」


「よかった……!」


涙が止まらない。

遼は少し驚いたあと、玲奈の背中をぽんぽんと叩いた。


「……ただいま」


「馬鹿……!」


玲奈は泣きながら言う。


「本当に……心配したんだから……!」


「ごめん」


「ごめんじゃない……!」


その後ろでは、イザベルとハッサンが安堵の表情を浮かべていた。

ひかりも駆け寄る。


「遼!」


「ひかり」


「死んだかと思った!」


「俺も一瞬そう思った」


「もう本当によかった よかった!」


そして、その後ろに――

大活躍のバローがいた。


「お役に立てて何よりです」


「オアシスから回収した氷資源の搬送も完了しています」


ノアが報告する。


『水資源、必要量を確保』


『船内の水不足問題は解消されました』


作戦室に歓声が上がった。

南国デッキにも、再び水が戻された。

止まっていた波の音が流れ始める。

空っぽだったプールに、少しずつ水が満たされていく。

遼はその光景を見て笑った。


「早速 命がけで採掘した水を飲んでみようかな」


玲奈が横を見る。


「彗星の天然水」


遼はなみなみとグラスに注いだ透明な水を見つめた。

アークノヴァの水問題は、こうして解決した。


そして――

。。。。。。。。。。


リサが猛烈な勢いで走ってくる


「ちょっとまったーーーーーー」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。