65話 救出作戦2
――イザベルが、ひかりに注射を打つ四十分前。
アークノヴァから、一基の緊急脱出ポットが投下された。
大気圏へ突入したポットは、凄まじい勢いで落下していく。
空気との摩擦によって、機体は瞬く間に真っ赤に燃え上がった。
「現在高度……」
ルーデウス号の操縦席では、テットが現地の気象データを解析していた。
「風速、毎秒……」
表示される数字が激しく変化する。
砂嵐によって、大気の流れがめちゃくちゃになっている。
「まだです」
アレックスとジョンは、レーダー画面を凝視していた。
「もう少し……」
テットが静かに計算を続ける。
そして――
「……今です」
その瞬間、脱出ポットの逆噴射が始まった。
轟音とともに炎が吹き出し、落下速度が急激に下がっていく。
「頼む……」
ジョンが息を飲む。
レーダー上の光点が、激しく揺れながら地表へ近づいていく。
「……高度八百」
アレックスが身を乗り出した。
「エリスまで八百メートル」
そして――
「風が変わった」
レーダー上の光点が、横へ大きく流される。
「このままだとエリスから離れるぞ!」
ジョンが叫ぶ。
テットは冷静だった。
「風速、変化中」
「……今です」
アレックスが更に逆噴射。
一秒。
二秒。
そして――
「着地!」
ジョンが叫んだ。
「成功だ!」
ルーデウス号の中で歓声が上がる。
同時にアークノヴァの指令室でも歓声が爆発した。
玲奈は両手を握りしめた。
「やった……!」
だが――
まだ終わっていない。
投下された脱出ポットの中には、改造され巨大化したバローが乗っている。
「……狭いですね」
バローが内部を見回した。
身体を動かす。
ギシッ。
機体が軋む。
「これは……出られません」
数秒の沈黙。
そして――
「では」
バローは大型油圧アームを起動した。
バキィッ!
脱出ポットの扉が吹き飛ぶ。
さらに装甲を押し広げる。
ギギギギギ……!
ポットの外装が、巨大な腕によって無理やり開かれていく。
そして――
ドンッ!
巨大な足が、惑星Σの大地を踏みしめた。
砂が一斉に舞い上がる。
砂嵐の中に、巨大な影が浮かび上がった。
まるで巨大な機械生命体だった。
二本の脚。
巨大な油圧アーム。
全身を叩きつけるような砂嵐。
それでも、バローは倒れない。
ゆっくりと顔を上げる。
小さなカメラの赤いランプが、砂嵐の向こうで点灯した。
「エリスを検索します」
通信ノイズの向こうから、ノアの声が届く。
『バロー、注意して。視界がほとんどない』
「問題ありません」
バローは一歩踏み出す。
ズンッ!
さらに一歩。
ズンッ!
砂に足を取られても、巨大な油圧アームを地面へ突き刺して身体を支える。
そして、砂嵐の向こうへ進んでいく。
「ひかりのもとへ向かいます」
――その頃。
倒れたエリスの内部では、イザベルが眠るひかりを見つめていた。
「……眠ったわね」
ひかりの呼吸を確認する。
そして、自分の酸素ボンベをゆっくり外した。
ひかりが目を覚ましたとき、自分がここで死んでいたら――
きっと、ひどくショックを受ける。
だから、ハッチを開けて外へ出よう。
そう考えた瞬間だった。
ガコンッ!
エリスの車体が激しく揺れた。
「……え?」
ゴゴゴゴゴ――!
横倒しになっていた車体が、ゆっくりと持ち上がっていく。
「なに……?」
そして――
ドンッ!
エリスが元の姿勢に戻った。
「……!」
イザベルが目を見開く。
そのとき、接触回線から声が響いた。
『通信回線のスイッチをオンに切り替えてください』
「……誰?」
イザベルは慌てて酸素ボンベを接続し直し、通信回線を開いた。
「こちらイザベル。聞こえる?」
『聞こえてる』
アレックスだった。
『もう大丈夫。安心しろ』
その一言を聞いた瞬間、イザベルの目に涙が浮かんだ。
『もう少しだ。ルーデウス号まで牽引する』
「……分かった」
その後、エリスは大型油圧ロボットによって砂嵐の中を牽引され、無事にルーデウス号まで戻ることができた。
そして――
ルーデウス号操縦室
「う……」
ひかりがゆっくりと目を開けた。
「ここ……どこ?」
「ルーデウス号だ」
声のする方向を見る。
そこにはアレックスが立っていた。
その隣では――
「……」
イザベルがしょんぼりと佇んでいる。
「イザベル?」
「……うん」
「どうしたの?」
「アレックスに、散々怒られた」
アレックスが腕を組む。
「当たり前だ」
「でも……」
「一人で勝手にあきらめるな」
「……」
「仲間を信用しろ」
イザベルはさらに肩を落とした。
「……はい」
ひかりはその姿を見つめたあと、状況を理解し始める。
「イザベルが私を助けたの?」
「違う」
「え?」
「私じゃない」
そのとき、床の向こうから大きな声が響いた。
「ひかり!」
重機ロボから外されたバレーボール型になったバローだった。
「約束通り、助けに来ました」
ひかりの目が大きく開く。
「……バロー」
「はい」
バローは誇らしげに答えた。
「私にお任せください」
ひかりはしばらくバローを見つめていた。
そして――
涙を流しながら笑った。
「……ありがとう」
バローはいつものように、少しだけ誇らしげに言った。
「どういたしまして」




