64話 救出作戦
アークノヴァの中央作戦室。
エリスから自動送信されてくるデータが、モニターに次々と表示されていた。
「酸素残量、低下を続けています」
ノアの声が響く。
画面には、惑星Σの激しい砂嵐に埋もれかけたエリスの映像。
その中にいる、ひかりとイザベル。
二人の生命反応は確認できている。
だが――時間は残されていなかった。
玲奈を中心に、救出作戦の検討が始まった。
「ルーデウス号を近づけるのは無理ね」
玲奈が言う。
「この砂嵐では、ルーデウス自身が遭難する可能性が高すぎる」
真田が頷く。
「シルフィエットも同じだ。あの風速じゃ安定して飛べない」
ジョンが表示された気象データを見る。
「嵐は少なくとも、あと十数時間は続く可能性がある」
誰もが黙り込んだ。
そのとき、ノアが一つの案を表示した。
「最も成功確率が高い方法があります」
全員が画面を見る。
そこに表示されたのは――緊急脱出ポット。
「脱出ポットに酸素ボンベを積み込み、アークノヴァからエリス付近へ投下します」
ノアが説明を続ける。
「小型のため、ルーデウスより砂嵐の影響を受けにくい。着陸後、エリスまで移動し、酸素ボンベを届けます」
玲奈が考え込む。
「……成功確率は?」
「現時点で、最も高い数値です」
ノアの答えに、遼が立ち上がった。
「俺が行く」
玲奈がすぐに振り向く。
「遼……」
「ひかりとイザベルを助ける」
「でも――」
玲奈は言葉を止めた。
誰が考えても、危険だった。
脱出ポットを砂嵐の惑星へ投下する。
着陸できたとしても、そこからエリスまで移動しなければならない。
そして帰還する保証はない。
つまり――二次遭難の可能性が極めて高い。
「……駄目だ」
モニター越しにアレクッスが静かに言った。
「危険すぎる 何とか着陸できたとしても この砂嵐ではエリスまでたどり着けない」
遼は拳を握った。
「でも、ひかりたちは――」
そのときだった。
「私が行きます」
全員が振り返った。
作戦室の入口に、バローが立っていた。
「……バロー?」
遼が目を見開く。
バローはいつものように胸を張った。
「私がひかりを助けに行きます」
「お前が?」
ハッサンが驚く。
「現在のボディでは無理です」
バローは淡々と答えた。
「ですが、改造すれば可能です」
悠斗が目を輝かせる。
「……なるほど」
誠もすぐに立ち上がった。
「大型作業ロボットを使えば……」
ハッサンが笑う。
「やるか」
「やろう」
三人はすぐに格納庫へ走った
その直後、バローの急造改造が始まった。
船体修理用に使われている大型油圧ロボット。
その中央に、バローを取り付ける。
太いアーム。
大型油圧シリンダー。
強化された脚部。
そして砂嵐の中でも走行できるよう、接地部分を改良する。
「これなら……」
誠が機体を見上げる。
「惑星に着陸したあと、エリスまで自力で移動できる」
ハッサンが油圧系統を確認する。
「すさまじい砂嵐でも、このボディなら耐えられる」
悠斗はバローの接続端子を確認した。
「ノアとの通信も維持できる」
バローが大型ロボットの頭部にある小型カメラを起動する。
「私にお任せください」
悠斗が思わず笑った。
「本当に言うんだな、それ」
そして完成したバローは、緊急脱出ポットへ慎重に収められた。
一方、中央作戦室では――
ノアを中心に、玲奈、遼、リサが投下シミュレーションを繰り返していた。
「高度をあと三百下げる」
玲奈が言う。
「この角度だと砂嵐に流される」
リサが計算結果を確認する。
「こちらの角度なら、着地点がエリスから約六百メートル」
「六百メートル……」
遼が画面を見る。
「バローなら十分移動できる」
ノアが答える。
だが次のシミュレーションでは、脱出ポットが砂嵐に巻き込まれ、大きく流された。
「失敗」
別の条件を入力する。
また失敗。
さらに条件を変える。
また失敗。
玲奈はモニターから目を離さなかった。
「もう一度」
ノアが再計算する。
「了解」
再びシミュレーションが始まる。
何十回。
何百回。
投下位置、高度、角度、速度。
すべてを変えていく。
やがて玲奈が小さく呟いた。
「……ここしかない」
ノアが答える。
「はい」
画面に、ひとつの軌道が表示された。
砂嵐の中へ飛び込んだ脱出ポットが、何度も揺さぶられながら下降していく。
そして――
エリスの近くへ着地する。
玲奈は立ち上がった。
「これで行く」
遼が頷く。
リサも頷いた。
そして三人は、格納庫へ向かう。
そこには、巨大な油圧ロボットを積み込んだ脱出ポットが待っていた。
その中でバローが静かに起動する。
「ひかり」
バローは、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「今、助けに行きます」




