61話 新兵器の力
惑星Σの夜。
ルーデウス号の船内は静まり返っていた。
その時、通信が入った。
『こちらアーク・ノヴァ。玲奈です。』
アレックスが通信を取る。
「どうした?」
『惑星Σの天候が崩れそうです。』
『観測によると、二日後に大規模な砂嵐が接近します。』
『安全を考えるなら、帰還を推奨します。』
アレックスはモニターに表示された気象データを見る。
巨大な砂嵐が、惑星Σの地表を覆うように接近している。
「分かった。」
「俺も、帰還した方がいいと思う。」
今回の探査では、まだ一つ問題が残っていた。
地球から命じられていた――新兵器の実験
しかし、そのテストはまだ実施していない。
アレックスは少し考えた。
「新兵器のテストは……。」
そこへ別の通信が割り込んできた。
地球からだった。
アーク・ノヴァを中継して送られてきた通信画面に
一人の男が映し出される。
『内閣宇宙開発安全保障局、新兵器担当の菅です。』
「菅さん。」
『アレックス船長。』
『何とか、実験をお願いできないでしょうか。』
アレックスは黙って話を聞く。
菅は続けた。
『我々にとって、今回の実験は非常に重要なんです。』
『人類史上初の実環境での実験成功。』
『そして、得られた技術について、さまざまな特許を取得する。』
『それによって、各国による無秩序な武器開発競争を、ある程度防ぐことができます。』
イザベルが黙って聞いている。
菅はさらに言った。
『もちろん、我々はこの兵器を平和利用できると考えています。』
『惑星探査だけでなく、災害救助、宇宙空間でのデブリ処理、資源採掘などへの応用も可能です。』
『ぜひ、今回の探査で実験をお願いしたい。』
通信が終わる。
ルーデウス号の船内に静寂が戻った。
アレックスはしばらく何も言わなかった。
砂嵐が迫っている。
残された時間は少ない。
目の前には、地球から与えられた使命。
そして、安全を最優先するという船長としての責任
アレックスは四人の顔を一人ずつ見渡した。
イザベル。
ひかり。
ジョン。
ただ、アレックスの判断を待っていた。
アレックスはゆっくり息を吐く。
「……どうするべきだ。」
自分でも答えが出ない。
船長として決断しなければならない。
だが、この兵器が本当に人類の未来を守るものなのか。
それとも、新たな争いを生むものなのか。
アレックスが四人の顔を見渡していると、イザベルが口を開いた。
「船長。」
「今から準備すれば、嵐が来るまでに実験を終わらせられる。」
アレックスがイザベルを見る。
「本当に間に合うのか?」
「間に合わせる。」
イザベルは即答した。
「お願い。」
「やらせてほしい。」
その隣で、ジョンも頷く。
「私もやりたい。」
「科学の発展につながる実験なら、研究者として結果を見届けたい。」
ひかりも手を挙げる。
「私も手伝う。」
「イザベルがずっと頑張って準備してたの知ってるもん。」
アレックスは三人を見つめ、しばらく黙っていた。
そして、大きく息を吐く。
「……しょうがないな。」
「ただし、安全第一だ。」
「分かってる。」
アレックスは通信を開いた。
「アーク・ノヴァ、こちらルーデウス号。」
「これから新兵器の実験を行う。」
「実験のサポートとデータ収集を頼む。」
玲奈からすぐに返事が来る。
『了解。』
『観測機器を最大限に展開します。』
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それから作業は、まさに時間との勝負になった。
エリスを分解し、巨大な砲塔を取り付ける。
電源系統を強化。
制御装置を接続。
照準装置を装着。
イザベル、ひかり、ジョン、そして整備チームが休むことなく作業を続ける。
そして――。
五時間後。
完成したエリスは、もはや普通の探査バギーではなかった。
巨大な砲塔を背負った、まるで戦車のような姿になっていた。
「……完成。」
イザベルが汗を拭う。
「すごい……。」
ひかりが目を輝かせる。
二人が乗り込む。
エリスは荒れた惑星Σの大地を走り、約五キロ離れた場所まで移動した。
「ここでいい。」
イザベルが周囲を確認する。
「アンカーを打つ。」
車体の四隅から固定用アンカーが地面へ伸びていく。
ガキン!
地面へ深く食い込み、エリスをしっかりと固定する。
「衝撃で吹き飛ばされないようにする。」
「これで準備完了。」
イザベルが通信を開く。
「アーク・ノヴァ、ルーデウス号へ。」
「これより試射を開始する。」
『了解。』
アーク・ノヴァでは玲奈達観測班が、ルーデウス号ではアレックス、ジョンが一斉に観測装置を起動する。
---
「一発目。」
イザベルが照準を合わせる。
目標は――空。
斜め四十五度。
「発射。」
砲塔が青白く輝いた。
一瞬。
周囲の空気が震える。
そして――。
**ドォォォォン!!**
轟音とともに、青白い一本の光が空へ向かって走った。
一直線。
雲を突き抜ける。
さらに高く。
そして――。
宇宙空間まで伸びていく。
「……!」
ひかりが目を見開く。
「すごい!」
「宇宙まで届いた!」
アーク・ノヴァの観測装置も、その異常なエネルギーを記録していた。
ジョンが思わず呟く。
「これが……。」
「……。」
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「二発目。」
イザベルが照準を変更する。
目標は、正面にそびえる巨大な山脈。
距離――五十キロ。
「目標、山脈中腹。」
「発射。」
再び砲塔が青白く輝く。
次の瞬間――。
**ドォォォォン!!**
まっすぐな光が一瞬で五十キロを駆け抜けた。
そして――。
山脈に命中。
大地が揺れる。
山肌が吹き飛ぶ。
真っ赤な炎が一気に空高く立ち上がった。
その強烈な光で、夜の惑星Σがまるで昼間のように明るくなる。
「…………。」
アレックスもジョンも、言葉を失っていた。
しばらくして、アレックスがようやく呟く。
「……なんて威力だ。」
ジョンも呆然としたまま続ける。
「こんなものを……。」
「人類は作ってしまったのか。」
しかし――。
まだ終わっていなかった。
山脈に衝突したエネルギーによる衝撃波が、大地を猛烈な勢いで伝わってくる。
**ズドドドドド――!!**
「うわっ!」
ルーデウス号が大きく揺れる。
「衝撃波!」
アレックスが叫ぶ。
エリスも激しく揺さぶられる。
「アンカー、耐えて!」
イザベルが叫ぶ。
ギギギギッ――!
固定アンカーが大きくしなる。
「まずい!」
「耐えられない!」
バキン!
アンカーの一本が外れる。
続いて二本目。
「きゃあああ!」
エリスが横へ大きく傾く。
「ひかり! つかまって!」
イザベルが叫ぶ。
しかし――。
ドォン!
エリスがそのまま横転した。
車体が地面を何度も転がっていく。
「きゃ――あああああ!」
ひかりの悲鳴が響く。
イザベルが必死に手を伸ばす。
「ひかり! しっかりつかまって!」
さらに一回転。
そして――。
エリスは大地の上で完全に止まった。
車内は静まり返る。
「……。」
二人から返事がない。
ひかりも、イザベルも――。
激しい衝撃の中で、意識を失っていた。




