60話 惑星Σの夜
惑星Σは、これから三日間の夜に入ろうとしていた。
三つの恒星が複雑に巡るこの星系では、昼と夜の周期も地球とは大きく異なる。
しかし、夜になったからといって、気温が急激に下がるわけではないらしい。
テットの観測では、夜間も極端な低温にはならないと予測されていた。
「今日は、かなり歩いたな……。」
アレックスが肩を回す。
この日は四人全員で切り立った崖の下まで降り、水の痕跡がないか調査を行った。
岩の割れ目。
地層。
鉱物の組成。
地下から染み出したような痕跡。
期待できる場所を一つずつ調べていった。
しかし、長時間に及ぶ船外活動で、四人ともかなり疲労がたまっていた。
「今日はもう休もうか。」
イザベルが言う。
「そうだな。」
ジョンも頷く。
それでも、ひかりはまだ元気だった。
「ねえ。」
「ちょっとだけ外に出ようよ。」
「もう暗くなってきたぞ。」
アレックスが言う。
「だから見たいの!」
結局、四人はルーデウス号の外へ出ることにした。
ハッチが開く。
しかし――。
そこに広がっていたのは、昼間とはまったく違う世界だった。
**真っ暗だった。**
人工照明の届かない場所は、完全な闇に包まれている。
四人はしばらく黙って立っていた。
やがて、ひかりが空を見上げる。
「……きれい。」
「宇宙空間で見る星より、きれい。」
イザベルもヘルメット越しに空を見上げた。
「本当ね。」
「星が瞬いている。」
大気の影響なのか、遠くの星々が小さく揺らめいて見える。
ジョンも息をのむ。
「地球や宇宙空間で見る星空とは全然違う。」
アレックスも静かに頷いた。
「俺たちは、本当に別の世界まで来たんだな。」
ひかりはしばらく空を見上げていたが、ふと思い出したように尋ねる。
「ねえ。」
「地球はどこ?」
ジョンが空を見回す。
そして、ある一点を指差した。
「あそこ。」
「え?」
「少し明るく見える、あの星。」
ひかりは目を凝らした。
「……あれ?」
「そう。」
「太陽系の方向だ。」
四人は、遠くの小さな光を見つめた。
あまりにも遠い。
あれが、自分たちの故郷。
家族がいる場所。
仲間たちが暮らしていた場所。
ひかりが小さい頃、病室の窓から見たかった世界。
「ずいぶん遠くまで来たものだね。」
ひかりが静かに呟く。
誰も答えなかった。
ただ四人は、しばらくの間、遠く離れた地球の光を見つめ続けていた。
それぞれが胸の中に、故郷への想いを抱きながら。
そして――。
惑星Σの長い夜が、静かに始まった。




