59話 新型バロー
ルーデウス号は、惑星Σの荒々しい地表に無事着陸していた。
「よし!」
アレックスが操縦席から立ち上がる。
「無事に降りられたな。」
険しい山と深い谷に囲まれた場所だったが、ルーデウス号の頑丈な船体はしっかりと地面に固定されている。
ジョンはそんなことより、目の前の大気分析データに夢中だった。
「すごい……!」
「大気の大部分が二酸化炭素とヘリウムだ!」
モニターに表示された数値を食い入るように見つめる。
「こんな組成の惑星を直接調査できるなんて……。」
「早く外に出ようよ!」
ひかりはハッチの前で待ちきれない様子だった。
「もう準備できてる?」
その横では、イザベルが黙々と計器を確認している。
「大気圧、正常。」
「放射線量、問題なし。」
「外部温度、許容範囲。」
「着陸脚も大丈夫。」
さすがに慎重だった。
「よし。」
アレックスが頷く。
「探査開始だ。」
---
その頃、アーク・ノヴァ。
格納庫では、誠が奇妙な作業を続けていた。
遼が近づく。
「誠、何を作ってるんだ?」
作業台の上には、バロー用の大きな胴体が置かれていた。
「バローの胴体だ。」
「胴体?」
「そう。」
誠は工具を置く。
「今のバローは移動するには不便だからな。」
「そこで、作業用ドローンを改良して、バローの新しい身体にする。」
遼が興味深そうに見る。
「それなら、ノアの通信圏外でも動ける?」
「そういうこと。」
誠は頷く。
「危険な惑星探査にも連れていける。」
「遠隔操作だけじゃなく、ある程度は自分で動けるようにしてある。」
遼は笑った。
「バローも出世したな。」
「ただの留守番電話だったのにな。」
「それは言うな。」
二人は笑った。
やがて、最後の接続作業が終わる。
「よし。」
誠がバローを胴体部分へドッキングさせる。
カチャ。
カチッ。
内部でロックがかかる。
すると――。
バローが突然動き始めた。
カチャカチャ。
腕を動かす。
足を動かす。
首を左右に振る。
そして――。
「……。」
むくっ。
立ち上がった。
遼と誠は顔を見合わせる。
「動いたな。」
「動いた。」
次の瞬間。
タタタタタッ!
バローが突然、格納庫から走り出した。
「おい!」
「待て!」
遼と誠が慌てて追いかける。
「バロー!」
しかしバローは止まらない。
廊下を走り抜け、階段を上がり、指令室へ向かっていく。
そして――。
通信端末の前で止まった。
器用に椅子へよじ登る。
そこへ、通信が入った。
『こちら、ルーデウス号。』
バローの青いランプが点灯する。
「こちらは問題ありません。」
声は――。
遼の声だった。
遼が背後から叫ぶ。
「俺じゃないぞ!」
バローは構わず続ける。
「そちらの状況は?」
ルーデウス号のテットが応答する。
『こちらも問題ありません。』
『惑星Σでの探査を順調に開始しています。』
バローは淡々と返す。
「そうですか。」
「問題ありません。」
「私にお任せください。」
まるで本物の遼が通信当直をしているようだった。
遼は頭を抱えた。
「……留守番電話の仕事を完璧にこなしてる。」
バローは満足そうに青いランプを点滅させた。
一方、惑星Σでは――。
アレックス、イザベル、ひかり、ジョンの四人が、未知の岩石惑星の大地へ足を踏み出していた。
二酸化炭素とヘリウムに満たされた空。
切り立った岩山。
深い谷。
人類がまだ誰も見たことのない景色。
そしてその裏側では、アーク・ノヴァの新しい仲間――バローが、早くも勝手に仕事を始めていた。




