58話 惑星Σ
プロキシマ・ケンタウリ系には、もう一つ探査予定の惑星があった。
惑星コード――**Σ(シグマ)**。
事前観測によれば、平均気温はおよそ三〇度。
さらに、大気中の成分や地表の地形データから、水が存在する可能性も指摘されている。
「もし本当に水があるなら……。」
ジョンは観測データを見つめながら、期待に胸を膨らませていた。
「生命が見つかる可能性もある。」
未知の惑星。
液体の水。
地球に近い温度。
条件だけを見れば、生命の存在を期待せずにはいられない。
アーク・ノヴァの食堂でも、今回の探査についての話題で持ちきりだった。
そして、着陸メンバーが決定した。
**アレックス。**
**イザベル。**
**ひかり。**
**ジョン。**
この四人が、ルーデウス号で惑星Σへ降りる。
ひかりは嬉しそうに手を挙げた。
「今度こそ、すごいもの見つける!」
ジョンも笑う。
「水が本当にあるか、生命の痕跡がないか、徹底的に調べよう。」
イザベルは探査装備を確認しながら言った。
「ただし、惑星αとはかなり環境が違う。」
大型ホログラムに惑星Σの地形が表示される。
そこには、鋭く切り立った巨大な岩山。
深くえぐられた谷。
断崖。
そして、複雑に入り組んだ岩石地帯が広がっていた。
アレックスが眉をひそめる。
「平らな場所がほとんどないな。」
テットが地形データを表示する。
『その通りです。』
『惑星Σでは、安全な着陸地点が限定されます。』
『ルーデウス号で着陸した後は、広範囲を車両で移動することが困難と予測されます。』
ジョンが尋ねる。
「では、どうする?」
『徒歩による調査を推奨します。』
『必要最低限の採取装備を携行し、徒歩で地表を移動します。』
イザベルが苦笑する。
「今回はエリスやロキシーの出番は少なそうね。」
ひかりが少し残念そうに言う。
「えー、ロキシー乗りたかったのに。」
「この地形じゃ危ない。」
アレックスが即座に却下する。
「崖から落ちたら終わりだ。」
ひかりは頬を膨らませる。
「分かったよ……。」
その時、イザベルの端末に通信が入った。
表示されたのは、地球側の管制から送られてきた命令書だった。
イザベルは内容を確認すると、四人に向き直った。
「それから、今回の任務にはもう一つ指示がある。」
アレックスが顔を上げる。
「もう一つ?」
イザベルは少し間を置いてから答えた。
「地球側からの命令で、新兵器のテストも行うことになった。」
ひかりの表情が曇る。
「新兵器って……この前、作業室で作っていたもの?」
「そう。」
イザベルは端末に兵器の概要を表示した。
「惑星Σの地表で、実際の環境における動作確認をする。」
ジョンが驚いたように尋ねる。
「探査と兵器のテストを同時に行うんですか?」
「地球側は、そうしろと言っている。」
イザベルは淡々と答えた。
「地形が複雑で、有人探査の機会も限られている。新兵器の性能を確認するには、惑星Σが適していると判断されたみたい。」
アレックスは腕を組み、険しい表情を浮かべた。
「生命が存在するかもしれない惑星で、兵器のテストか。」
「目的は兵器の性能確認だけよ。」
イザベルはそう言ったが、その声にはわずかな迷いがあった。
今回の目的は、単なる地質調査ではない。
水。
大気。
地表環境。
岩石。
そして――生命の痕跡。
さらに、地球側から命じられた新兵器のテスト。
見つかるかどうかは分からない。
それでも四人の胸には、これまで以上の期待と不安が膨らんでいた。
アレックスはルーデウス号を見上げる。
「探査を最優先にする。」
「兵器のテストは、安全が確保できる場合だけだ。」
イザベルは静かにうなずいた。
「私もそう思っている。」
ひかりとジョンも顔を見合わせる。
未知の惑星で、生命の痕跡を探す。
その一方で、人類が生み出した新たな兵器を試す。
その二つが同じ場所で行われることに、四人は複雑な思いを抱いていた。
「準備はいいか?」
アレックスが尋ねる。
「出発するぞ。」
四人は頷いた。




