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57話 遼はスパイ


アーク・ノヴァの船内で、少しずつ奇妙な空気が広がっていた。

発端は、あの通信ログだった。

堀内との通信で、バローが遼の声を使っていたことが判明する前。

玲奈とアレックスは、遼がHORIUCHI SPACEと密かに通じているのではないかという疑いを持っていた。

二人だけで共有していた疑念。

しかし、確信はない。

そこで二人は、エレナにも相談することにした。


「遼を疑いたくはない。」


玲奈はそう言った。


「でも、もし本当に堀内とつながっているなら、クルー全員の安全に関わる。」


エレナも複雑な表情でうなずいた。

そして、ひかりにもそのことが伝えられた。


「えっ……遼が?」


ひかりは驚いた。


「そんなの、絶対ないと思うけど。」


それでも、ひかりは遼の行動を観察する役を買って出た。

やがて、リサとジョンも事情を知ることになる。

二人とも最初は半信半疑だったが、HORIUCHI SPACEの目的を考えれば無視もできない。

こうして、いつの間にか六人が遼を意識して行動を見るようになっていた。

ただし、遼本人は何も知らない。


---


その頃。


指令室にいた遼は、いつも通り仕事をしていた。

通信記録を確認し、船内のデータを整理する。

しかし、なんとなく妙なことに気づく。

玲奈が入ってきた。


「おはよう。」


遼が声を掛ける。


「……おはよう。」


玲奈は遼と目を合わせない。


「?」


遼は不思議そうに玲奈を見る。

その後からアレックスが入ってきた。


「調子はどうだ?」


「いつも通りですよ。」


「そうか。」


アレックスは笑おうとした。

しかし、どこかぎこちない。

遼は首をかしげた。


「……?」


さらに数分後。

リサとジョンも指令室へやって来る。


「遼、そのデータ……。」


「ああ。」


「あとで確認しておく。」


二人とも、どこかよそよそしい。


「……。」


遼は思った。


(何だ?)


(みんな、どうしたんだ?)


そして、隅を見る。

そこにはひかりがいた。

黙ったまま、遼をじっと見ている。


「ひかり。」


「何?」


「さっきから、俺のこと見てないか?」


「見てないよ。」


即答だった。

だが、目はずっと遼を追っている。

遼はますます分からなくなる。

最近、玲奈は目を合わせない。

アレックスは妙にぎこちない。

リサとジョンも以前より距離を感じる。

そして、ひかりは自分の行動をずっと監視しているように見える。


「……。」


遼は頭をかく。


(何なんだ、一体。)


何か自分が悪いことをしたのか。

何か知らないうちに、みんなを怒らせたのか。

まったく思い当たることがない。


「なあ、玲奈。」


「……何?」


「俺、何かした?」


玲奈の肩がわずかに揺れる。


「……何もしてないわ。」


「そうか?」


「そうよ。」


そう答えながらも、玲奈はやはり遼と目を合わせなかった。

遼は一人、首をひねる。

何が起こったのか。

自分にはまったく分からなかった。

ただ一つだけ分かっていることがある。

仲間たちが、少しずつ自分から離れている。

その理由だけが、どうしても分からなかった。

居づらくなった遼は イザベルの手伝いに行くと言って指令室を出て行った、

ひかりも後を追う


そして今日は、地球との定期量子通信の日。

隼人が遼と入れ替わりで指令室へやって来た。


「地球との通信、そろそろだろ?」


「ああ。」


玲奈が答える。

その時――。


「アムロ、元気か。」


隼人が振り返った。


「……なんだこいつ。」


そこにはバローがいた。


「アムロじゃないから。」


「俺の名前は隼人。」


バローのランプが点滅する。


「登録完了しました。」


隼人は呆れた顔をする。


「なんだよ、それ……。」


通信が接続される。

大型モニターに香織が映し出された。

隼人が通信用の席に着こうとした、その時だった。

バローが隼人を差し置いて通信席の前へ転がっていく。


「おい、待て!」


しかし、バローは椅子の上へよじ登った。

そして、隼人が座るはずだった席に陣取る。


『こちら、隼人です。』


「……。」


隼人が固まる。

モニターの香織も首をかしげる。


『え?』


バローは隼人の声で続ける。


『こちら問題ありません。』


玲奈が振り返る。


「……隼人?」


隼人は自分の後ろを指差す。


「俺、ここにいるけど。」


アレックスも絶句していた。

バローは、隼人の声でそのまま香織と会話を続けている。

玲奈とアレックスは顔を見合わせる。


「待って……。」


玲奈が気づく。


「これって、遼の時も同じだったんじゃない?」


アレックスも、堀内との通信記録を思い返す。


『こちらは桐島遼。』


『問題ありません。』


『私にお任せください。』


そして今、目の前では隼人がそこにいるにもかかわらず、バローが隼人の声で話している。


「……そういうことか。」


アレックスが呟く。


「遼は、堀内と通じていたんじゃない。」


「このロボットが遼の声を使っていたんだ。」


玲奈は胸を押さえ、安堵の息を吐く。


「よかった……。」


隼人もバローを見つめる。


「こいつ、勝手に俺たちの声を使ってるのかよ。」


アレックスは苦笑する。


「どうやら、そのようだ。」


しかし、三人の表情は複雑だった。

バローは、誰の声でも再現できる。

そして誰の代わりにもなれる。

玲奈は小さなロボットを見つめた。


「……あなたのせいでここ数日大変だったんだから。」


バローの青いランプが、何事もなかったように点滅した。


『登録完了しました。』


「だから何を登録したのよ!」


指令室に、久しぶりの笑い声が響いた。


だがその一方で――。

地球では堀内が、アーク・ノヴァから送られてくる探査データを待ち続けていた。


そして遼はひかりから逃げるのに必死だった


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