56話 科学と兵器
その日の当直は遼だった。
指令室に一人残り、通信や船内システムを監視している。
アーク・ノヴァでは、地球の管制塔に合わせて一日の時間を決めている。
朝になれば起床し、夜になれば眠る。
恒星間空間では昼も夜もない。
だからこそ、地球と同じ時間を刻むことが、乗組員たちの生活のリズムになっていた。
遼はモニターを眺めながら、大きくあくびをした。
「今日は静かだな……。」
もう夜も遅い。
「まあ、こんな時間に通信なんて入らないよな。」
そう思った、その時だった。
『遼、ちょっと作業室に来てくれない?』
イザベルから通信が入る。
「作業室?」
『手伝ってほしいことがあるんだけど。』
遼は時計を見る。
「こんな時間まで何やってるんですか。」
『地球から頼まれた実験装置を作ってたんだけど、なかなか複雑でね。』
『誠も一緒だから。』
「誠も?」
遼は苦笑した。
(こんな遅くまで付き合わされてるのか……。)
「分かりました。行きます。」
通信を切り、遼は指令室を出た。
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作業室の扉が開く。
「うわ……。」
遼は思わず足を止めた。
部屋の中央に、巨大な物体が鎮座していた。
高さは三メートルほど。
円筒形の砲塔。
周囲には無数のケーブル。
内部には基盤や制御装置らしきものが組み込まれている。
その横では誠が溶接機を使い、火花を散らしていた。
「遼、来たか。」
「何ですか、これ……。」
イザベルは作業を止めずに答える。
「これ?」
「見ての通り。」
「ちょっとそこ、持ち上げて。」
「え?」
「いいから。」
遼は言われるまま、大型部品を持ち上げる。
「うっ……重い!」
「そのまま。」
誠が溶接を続ける。
バチバチバチッ――!
「よし。」
イザベルが次の部品を持ってくる。
「次はこれ。」
「……これ、何?」
「見ての通り。」
イザベルは平然と言った。
「新型の兵器。」
「兵器!?」
遼の手が止まる。
「こんなもの作るの、まずいでしょ。」
「戦争の道具じゃないですか。」
イザベルは遼の顔を見る。
そして、少しだけ笑った。
「遼。」
「武器を作ること自体が悪いわけじゃないよ。」
遼は黙る。
イザベルは淡々と続ける。
「武器を、人殺しのために使うことが悪い。」
「私たちは、これは良いものだから開発する。」
「これは悪いものだから、研究しない。」
「そんなふうには考えない。」
「なぜですか?」
「それでは科学の発展を妨げるから。」
イザベルは巨大な砲塔を見上げる。
「科学そのものには善悪はない。」
「発見した技術を、どう使うか。」
「そこに人間の責任がある。」
遼は黙って砲塔を見る。
イザベルは続ける。
「原子核の研究がなければ、原子力も生まれなかった。」
「レーザーも、通信技術も、宇宙開発も、最初は軍事技術から発展したものが多い。」
「だから研究者は、研究そのものを恐れてはいけない。」
「ただし――。」
そこでイザベルは手を止めた。
「使う人間は、その結果に責任を持たなきゃいけない。」
遼はしばらく考え込んだ。
目の前にある巨大な砲塔。
それは確かに恐ろしい兵器に見える。
だが同時に、その内部には人類が積み重ねてきた科学技術の結晶が詰まっている。
遼は小さく息を吐いた。
「……難しいですね。」
イザベルは笑う。
「科学って、だいたいそんなものよ。」
その時、誠が振り返った。
「話は終わったか?」
「遼、そこの部品を持ってくれ。」
「……またですか?」
「科学の発展のためだ。」
「それ、便利な言葉に使ってません?」
作業室に三人の笑い声が響いた。
巨大な砲塔は、まだ完成していない。
それが未来を守る兵器になるのか。
それとも、未来を壊す兵器になるのか。
その答えは、まだ誰にも分からなかった。




