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55話 バロー


ルーデウス号がアーク・ノヴァへ帰還してから、船内では修理と整備が続いていた。

遼も格納庫へ向かう。


「ハッサン、手伝うことあるか?」ルーデウス号がアーク・ノヴァへ帰還してから、船内では修理と整備が続いていた。


遼はハッサンの様子を見に、格納庫へ向かった。


「ハッサン、いるか?」


返事がない。

奥へ進むと、ハッサンとひかりが何かを囲んでいた。


「何それ?」


遼が尋ねる。


そこにあったのは、バレーボールほどの大きさをした白いボール型ロボットだった。

小さなカメラとマイクが取り付けられ、中央では青いランプが点滅している。


「これか?」


ハッサンが工具を置く。


「高性能留守番だ。」


「留守番?」


「イザベルと誠が地球から送られてきた怪しい設計図に夢中だから」


「整備は俺1人なんだよ」


「それなのにアレックスが整備状況はどうだってひんぱんに電話してくるんだ」


「電話に出られない時に、代わりに応答してくれる。」


ハッサンはロボットを軽く叩いた。


「しかも、俺の声を登録してある。」


「そうだ。誰かが訪ねてきた時、代わりに応対してくれる。」


ハッサンはロボットを軽く叩いた。


「ひかりが毎日提出することになっているレポートを、代わりに提出する役目もある。」


「えっ?」


ひかりが慌てて声を上げる。


「それは言わないでよ!」


遼はひかりを見る。


「レポート、苦手なのか?」


「だって毎日なんだもん。」


ひかりは頬を膨らませた。


「書くことがなくても提出しなきゃいけないし……。」


「だから、こいつに任せるのか?」


「そういうわけじゃ……。」


ひかりはロボットを見つめる。


「でも、少しは助けてもらえるかなって。」


ハッサンがスイッチを入れた。

青いランプが明るく点灯する。


『起動しました。』


ひかりがすぐにロボットへ近づいた。


「あなたの一番の使命は、私を助けること。」


ロボットが小さく音を立てる。

ひかりはさらに付け加えた。


「その次に、留守番電話ね。」


「順番が逆じゃないか?」


遼が呆れた顔をする。


「私にとっては、こっちが大事なの!」


ひかりは真剣だった。


「毎日レポートを提出しなきゃいけないんだから。」


ハッサンが苦笑する。


「分かった分かった。こいつには、ひかりのサポートを最優先に設定しておく。」


「本当に?」


「ただし、レポートを全部代わりに書かせるのはなしだ。」


「えー……。」


ひかりが不満そうに声を漏らす。

その時、ロボットの青いランプが点滅した。


『最優先使命を登録します。』


『第一使命――ひかりを助けること。』


『第二使命――留守番電話。』


遼は思わず吹き出した。


「本当にそのまま登録するのかよ。」


『登録完了しました。』


ひかりは満足そうに頷く。


「これで安心ね。」


「何が安心なんだか……」


ハッサンが


「名前はどうしようか」


ひかりが


「ハロー」


にしようと言い出す


『またまた色々とダメだろう』


心の中で思う 


「じゃあ、名前はバレーボールみたいだから バローでいいだろ。」


「安直だな。」


「分かりやすいのが一番だ。」


ひかりの不満を無視してバローで登録した。


その時、格納庫の通信端末が鳴った。


『指令室から、アレックスだ。』


「船長からだ。」


ハッサンが通信を取ろうとした、その瞬間。

バローの青いランプが点灯する。


『こちらはオマール・ハッサン。』


遼とひかりが固まった。


『問題ありません。』


アレックスが尋ねる。


『映像が出ていないが、大丈夫か?』


『大丈夫です。』


『私にお任せください。』


アレックスが続ける。


『ルーデウス号の整備はどうだ?』


バローは少し間を置いて、


『ほう……ほう。』


と答えた。

そして――。


『私にお任せください。』


通信が切れる。

遼は呆れた顔でバローを見る。


「お前、ばれなかったな。」


---


翌朝。


遼は格納庫へ向かう途中、通路でバローと出会った。


ボールのような身体をコロコロ転がしながら、バローが遼の前で止まる。


そして突然――。


「アムロ、元気か。」


「……は?」


遼は立ち止まる。


「アムロじゃないし。」


「俺は桐島遼。」


バローの青いランプが一度点滅する。


「登録完了しました。」


「……。」


遼は苦笑した。


「お前、なんなんだよ。」


バローは何も答えず、そのまま転がっていった。

---

その日の宿直は遼だった。

指令室で通信を監視し、アーク・ノヴァや地球本部から通信が入れば対応する。

深夜。

船内は静まり返っていた。

その時、通信端末が鳴る。

イザベルだ


「遼ちょつと手伝ってくれない」


まあ どうせ暇だし少しぐらい大丈夫だろ

遼は席を離れた。


さらに別の通信が入った。

**量子通信。**

発信元は――。


「HORIUCHI SPACE……?」


遼が戻るより早く、バローが通信端末の前へ移動した。

青いランプが点灯する。


『こちらは桐島遼。』


遼はいない。

だがバローは、登録された遼の声で応答していた。

画面に堀内正樹が映し出される。


『君は誰かね?』


「桐島遼です。」


『映像が出ていないが、大丈夫か?』


「問題ありません。」


堀内は少し笑う。


『そうか。』


『では、君に頼みたいことがある。』


『惑星αの探査データを、我々へ秘密裏に流してもらいたい。』


バローは、いつもの調子で答えた。


「ほう……ほう。」


そして――。


「私にお任せください。」


『そうか。』


『任せるぞ、桐島遼君。』


「もし君の情報が有益ならば報酬をだそう」


「了解しました。」


「それからこの通信ログは削除しておいてくれ」


「了解しました」


堀内は満足そうに通信を切った。

バローは何事もなかったように、その場を離れていった。

その頃、堀内は巨大な執務室で一人、別の通信画面を見つめていた。

HORIUCHI SPACEは、内閣宇宙開発安全保障局と共同でアーク・ノヴァ計画へ巨額の資金を投入している。

しかし――。


「投資額に見合う情報が、ほとんど入ってこない。」


堀内の表情には苛立ちが浮かんでいた。


「惑星αで何を見つけた?」


「生命は?」


「資源は?」


「新しい技術につながるものは?」


「なぜ、肝心な情報が来ない?」


彼にとってアーク・ノヴァは、単なる探査船ではない。

将来の宇宙市場を左右する情報を生み出す、巨大な研究資産だった。

だからこそ、わずかな探査データすら欲しかった。


「必ず何かあるはずだ。」


堀内は低く呟いた。


「桐島遼。」


「君には期待しているよ。」


しかし――。


堀内は知らなかった。

その「桐島遼」が、本物ではなく一台の小さなボール型ロボットだということを。

---

数日後。

その通信ログが発見された。


「……何これ?」


玲奈が画面を見つめる。

そこには、

**発信者:桐島遼**

**通信先:HORIUCHI SPACE**

と記録されている。

玲奈の顔から血の気が引いた。

「遼が……?」

アレックスもログを確認する。


「映像記録は?」


「ありません。」


玲奈は震える声で答える。


「でも、音声は残ってる。」


再生。


『こちらは桐島遼。』


『問題ありません。』


『私にお任せください。』


そして、堀内の声。


『任せるぞ、桐島遼君。』


玲奈は言葉を失った。


「……嘘。」


「遼が、堀内と通じてる?」


クルーの間に、少しずつ不信感が広がっていく。


だが、アレックスだけは腕を組んでいた。


「待て。」


「何か理由があるかもしれない。」


「遼が裏切者なんて考えられない」


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